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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐参

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 手練れ二人からの銃撃を受け、俺達三人は車を捨てて茂みに飛び込んだ。そんなことよりも事態は最悪だ。今は筋力が五分の一になっていて、まともに戦えない。普段の筋力でも苦戦すると思われる相手に、五分の一の筋力では相手に出来ない。今は逃げの一手しかない!
「逃げましょう!」
 俺達は拳銃で奴ら二人を牽制しつつ、敵との距離を取って森の奥へと姿を消した。柳生師範が竹刀と木刀と拳銃一丁を持って愛華を守り、俺が拳銃二丁と真剣を持って周囲の警戒に務めた。
『我が射撃手二人の位置を伝えておいた方が良いか?』
「そうしてくれ」
『射撃手一人が接近中だ。五時の方向、武器は小銃。連射は出来ないが飛距離がある。威力も高いようだから気をつけろ』
 こういうことになるならば銃口に詰めて暴発させるのではなく、ちゃんと銃火器を盗み出しておけば良かった。こんなちんけな拳銃などでは太刀打ち出来るわけがない。
「柳生師範は愛華を連れて早く逃げてください! 俺が食い止めます」
 今は筋力が五分の一が低下している。死ぬ可能性も高いが、射撃手の手練れ二人くらいならば足止めが出来ると思う。まあ、まずは試してみよう。
 俺の位置は敵にバレているだろうから、サイレンサーを付けていても付けていなくても意味はない。だったら、サイレンサーは邪魔だな。
 敵方は俺を殺しに掛かってくると予想出来るから、真正面からは突っ込めない。木と木の間を素早く移動しながら近づくとしても、手練れだから正確に撃ち抜いてくるはずだ。どうやって接近すれば......。
『ならば待ち構えていれば良いであろう?』
「それもそうだな」
 急いで木を登ると拳銃の引き金に指を掛けて、深呼吸をした。
 おいアマテラス、敵の位置を教えろ。
『そういうことか。茂みで貴様の姿は敵からは見えないが、政宗は我からの指示で敵の位置がわかる。完璧、というほどではないが良い案だ』
 んなことは良いから早く敵の位置を教えやがれ!
『拳銃の銃口を我の言う通りの位置に向けろ。そして我の指示と同時に引き金を引け』
 アマテラスと初めて会った時は、まさかこうして協力をする関係になるとは思ってもみなかったな。
『言うことを聞け』
 わかっている。というか敵の足音が近づいてきているから、早く指示を出してくれないか? 逆にこっちが撃たれてしまう。
『撃て』
「急だな、おい」
 アマテラスの指示に反応して引き金を引くと、発砲音とともに弾丸が前へ放たれた。茂みによって弾丸の行方はわからなかったが、敵の体を射抜いたのだということはわかる。撃たれた際に射撃手の悲鳴が轟いたからである。
『これが我の実力だ!』
「もう一人の射撃手の位置も教えろよ」
『荒い奴だな』
 発砲音によってもう一方の射撃手にある程度の位置が露見しただろうが、アマテラスの力を持ってすれば簡単に倒せてしまう。柳生師範達はほぼ丸腰で逃げているのだから、追いつかせないように確実に倒さねば。
 アマテラスの指示で拳銃を撃つと、また悲鳴が聞こえた。手練れでも撃たれたら悲鳴を上げるのだと学び、俺は木から降りて柳生師範達を追いかけた。
 すると二人を取り囲む数人の集団がいたので、一人の頭を蹴り飛ばして取り押さえた。
「柳生師範、竹刀ありますよね? 共闘しましょう!」
「了解した」
 半分を柳生師範に任せると、真剣でもう半分に斬り掛かった。剣術だけでなく体術も折り込んで敵を倒すと、額の汗を手で払った。
「さすが名坂少年」
「柳生師範こそ」
 合流出来て筋力も元通りになったが、移動手段は徒歩だ。せめて車が調達出来ないものか思案していると、柳生師範達を襲っていた奴らが乗っていたであろう車があった。
 四輪駆動の黒塗り、トランクには武器が積んである。スペアタイヤも積んであり、工具も充実。というか、フロントガラスにもスモークが貼ってあるんだが。
「柳生師範はこれを運転出来そうですか?」
「大型車だが、まあこれくらいなら大丈夫だろう」
「では急いでここを離れましょう。もうすでにそこまで敵が迫って来ているかもしれません」
「だな」
 この車を盗んで移動手段を得たわけだ。スピードも出るので首尾は上々であり、隠れるに向いている寝床を探した。旅館やホテルなどが中途にあったが、どれも目立ちすぎていて隠れるのには不向きである。
 裏路地に入り口があって目立たず、外壁もそれっぽくないという条件が理想的だ。そしてその条件に合った旅館を見つけた。駐車場はなかったので乗り捨てることにし、武器をカバンに詰め込んだ。
 その旅館に予約もなく泊まれたのは好都合だった。荷物検査はされなかったが、普通はされないんだっけか。戦国時代で暮らしていた時間が長すぎて、この時代の常識が頭から抜け落ちてしまっている。
 もう少し年を取ってしまっていたら、常識だけでなく髪の毛まで抜け落ちて毛根が死滅してしまっているところだな。危ない。
『政宗の精神年齢は確かに一世紀近いからな』
「いきなり話し掛けんな!」
『テレパシーに慣れたものでね』
「戦国時代に戻ってもテレパシーを使うなよ。神界に連れて行かれるより厄介だ」
『ならばこれからも引き続きテレパシーを使わせてもらおう』
 アマテラスとの利害関係が成り立っていたとしても、まったく相れない。こいつの性格は嫌いだ。
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