243 / 245
第五章『奥州の覇者』
伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その漆零
しおりを挟む
0番と名乗る男は、器用に羽を動かしている。背中に直に生えているとしか思えない。しかも牙も生えていて、吸血鬼族の真祖だと自称しているではないか。
「エリアスは0番について何か知っているか?」
小声で尋ねると、エリアスは首を横に振った。
「そもそもエヴァの実験体番号は1を起点として、順に番号を割り振っていました。まさか実験体番号0が存在しているとは......」
「ならば吸血鬼とやらは?」
「おそらくですが、0番もエヴァの実験によって生み出された存在でしょう。生物としては九頭竜様と似たような亜人に分類されるはずです」
その説明が0番には聞こえていたようで、その通りです、と言って肯定した。
「コウモリの中でも大型であるオオコウモリや、近年発見された新種である吸血コウモリ(ナミチスイコウモリ)を交配し、その結果誕生した大型の吸血コウモリと人間を掛け合わせたことによって生まれたのが私です。
羽は生えていて自分の意志で動かせますが、飛行能力は持っていません。なので羽はお飾りみたいなものですね。主食は血液でも問題ないのですが、それだとかなりの量を吸わないといけないので、血を吸う必要がない時は普通の食事をしています」
「''血を吸う必要がない時''ってことは、血を吸う必要がある時もあるのか?」
「ええ、ありますよ。例を挙げると、私が作られた理由はキリシタン宗に対抗するためだ、とエヴァ様に言われています。キリシタン宗は体に流れる血を生命の根源として神聖視しているので、私が奴ら信徒の血を吸えば十分畏怖の対象になります。それにキリシタン宗が考える悪魔の姿には羽が生えているようなので、私は悪魔格として暗躍することになっているのですよ。
ちなみに言わせてもらうと、私以外にも下等生物を嬲るために悪魔格として活動している者も何人かいましてね。そこにいる犬畜生にも悪魔の格を与え、人狼として活躍してもらう予定でしたが......エヴァ様いわく役立たずのようなので、ここで処分することにしましょう」
「九頭竜には指一本触れさせねぇよ」
0番が汎用型実験体ならば、その身体能力は達人の域に至っているはずだ。せめてこの場でこいつだけでも仕留めないと、後々面倒なことになりかねない。
刀で0番の首をはねようと腕を振り上げると、腹に球体が直撃して後ろに倒れる。エリアスは考え込んでいたため、245番の不意打ちを防げなかったらしい。
「お屋形様、すみません!」
「構わん! それより本格的に厄介になってきたぞ。特に245番の遠距離攻撃が邪魔だ。もしこの戦闘に三人の魔女が加わってくれば、対処しきれなくなる」
一応こちら側も弓による火矢や石を投擲することで遠距離攻撃を行っているが、ほとんど命中していない。もし当たったとしても、大したダメージにはなっていないようだ。
起き上がって地団駄を踏みたくなるのを我慢してスキを窺っていると、寺の方から僧兵が隊列を組み、大声を上げながら出てきた。
これなら寺も魔女教相手に少しは時間を稼げるだろう。俺は額の汗を袖で拭って体を休めようとしたが、245番が単独で僧兵の元へ駆けていく。なぜ球体による遠距離攻撃をしないのか見ていると、僧兵達を軽く殴ったり蹴ったりしているだけで、どんどん僧兵が倒れていくのだ。
245番は遠距離攻撃だけでなく、近距離攻撃にも特化していた。動きは素人だが、それが関係ないというほど圧倒的な力。軽いパンチだけで僧兵が瞬く間に倒れ、立っている僧兵は一人もいなくなった。
俺達はもちろん、戦闘の様子を遠くから見ていた住職達も唖然として立ち尽くすしかなかった。
「さすが私の最高傑作だ。そもそも245番の攻撃スタイルは接近戦であって、球体による遠距離攻撃はあくまでも戦闘の補助さ」
単純に考えると、245番は筋力を増強しているように見える。しかしそんな単純なわけがないことは明白だ。しかも遠距離攻撃は戦闘の補助だとエヴァは抜かしやがる。ますます245番の不気味さが増した。
驚愕から立ち直ったジョーやホームズも俺とエリアスの戦闘に加わり、他の皆は傍観する三人の魔女を牽制しつつ弓で矢を射て援護。
ジョーは剣聖と呼ばれていただけあって、セレナやカルミラを相手取って互角以上に渡り合っている。ホームズはバリツを駆使して0番を攻撃しているが、相性が悪い。0番は身体能力が高く、ホームズの攻撃を全て避けていた。
「ホームズ、俺も混ぜろ!」
俺とホームズが共闘したことで0番と釣り合って拮抗し、決め手に欠けたまま殴り合いは続く。
エリアスは245番と一対一で戦うことになり、少し緊張している。けれど245番は構うことなく球体を弾き、エリアスは避けたり受け止めたりして対処していた。
主にホームズが0番を攻撃しているので、俺はエリアスと245番の戦闘をチラリと見ているだけの余裕がある。245番はエリアスに有効打を与えられる力がある、とエヴァが言っていたことを仁和から聞いたが、それ故に二人が戦っているのは不安だ。
だがエリアスの特殊能力ならば大抵の攻撃は当たっても大丈夫だ。もっとも、心臓は脳と違って骨に覆われていないので、そこを銃で撃たれれば危険になる。ただ戦国時代からは戦に銃が導入され、そんな時代に作られた鎧である当世具足もそれなりに防御力はある。さすがに西洋のプレートアーマーみたいな隙間がほとんどない鎧には劣るが、エリアスは骨が硬いから隙間があっても関係ないに等しい。
そう思っていたが245番はエリアスに素早く接近し、鎧の胸に手の平を付ける。するとエリアスは力が抜けたように倒れ、それから動かなくなった。
「エリアスは0番について何か知っているか?」
小声で尋ねると、エリアスは首を横に振った。
「そもそもエヴァの実験体番号は1を起点として、順に番号を割り振っていました。まさか実験体番号0が存在しているとは......」
「ならば吸血鬼とやらは?」
「おそらくですが、0番もエヴァの実験によって生み出された存在でしょう。生物としては九頭竜様と似たような亜人に分類されるはずです」
その説明が0番には聞こえていたようで、その通りです、と言って肯定した。
「コウモリの中でも大型であるオオコウモリや、近年発見された新種である吸血コウモリ(ナミチスイコウモリ)を交配し、その結果誕生した大型の吸血コウモリと人間を掛け合わせたことによって生まれたのが私です。
羽は生えていて自分の意志で動かせますが、飛行能力は持っていません。なので羽はお飾りみたいなものですね。主食は血液でも問題ないのですが、それだとかなりの量を吸わないといけないので、血を吸う必要がない時は普通の食事をしています」
「''血を吸う必要がない時''ってことは、血を吸う必要がある時もあるのか?」
「ええ、ありますよ。例を挙げると、私が作られた理由はキリシタン宗に対抗するためだ、とエヴァ様に言われています。キリシタン宗は体に流れる血を生命の根源として神聖視しているので、私が奴ら信徒の血を吸えば十分畏怖の対象になります。それにキリシタン宗が考える悪魔の姿には羽が生えているようなので、私は悪魔格として暗躍することになっているのですよ。
ちなみに言わせてもらうと、私以外にも下等生物を嬲るために悪魔格として活動している者も何人かいましてね。そこにいる犬畜生にも悪魔の格を与え、人狼として活躍してもらう予定でしたが......エヴァ様いわく役立たずのようなので、ここで処分することにしましょう」
「九頭竜には指一本触れさせねぇよ」
0番が汎用型実験体ならば、その身体能力は達人の域に至っているはずだ。せめてこの場でこいつだけでも仕留めないと、後々面倒なことになりかねない。
刀で0番の首をはねようと腕を振り上げると、腹に球体が直撃して後ろに倒れる。エリアスは考え込んでいたため、245番の不意打ちを防げなかったらしい。
「お屋形様、すみません!」
「構わん! それより本格的に厄介になってきたぞ。特に245番の遠距離攻撃が邪魔だ。もしこの戦闘に三人の魔女が加わってくれば、対処しきれなくなる」
一応こちら側も弓による火矢や石を投擲することで遠距離攻撃を行っているが、ほとんど命中していない。もし当たったとしても、大したダメージにはなっていないようだ。
起き上がって地団駄を踏みたくなるのを我慢してスキを窺っていると、寺の方から僧兵が隊列を組み、大声を上げながら出てきた。
これなら寺も魔女教相手に少しは時間を稼げるだろう。俺は額の汗を袖で拭って体を休めようとしたが、245番が単独で僧兵の元へ駆けていく。なぜ球体による遠距離攻撃をしないのか見ていると、僧兵達を軽く殴ったり蹴ったりしているだけで、どんどん僧兵が倒れていくのだ。
245番は遠距離攻撃だけでなく、近距離攻撃にも特化していた。動きは素人だが、それが関係ないというほど圧倒的な力。軽いパンチだけで僧兵が瞬く間に倒れ、立っている僧兵は一人もいなくなった。
俺達はもちろん、戦闘の様子を遠くから見ていた住職達も唖然として立ち尽くすしかなかった。
「さすが私の最高傑作だ。そもそも245番の攻撃スタイルは接近戦であって、球体による遠距離攻撃はあくまでも戦闘の補助さ」
単純に考えると、245番は筋力を増強しているように見える。しかしそんな単純なわけがないことは明白だ。しかも遠距離攻撃は戦闘の補助だとエヴァは抜かしやがる。ますます245番の不気味さが増した。
驚愕から立ち直ったジョーやホームズも俺とエリアスの戦闘に加わり、他の皆は傍観する三人の魔女を牽制しつつ弓で矢を射て援護。
ジョーは剣聖と呼ばれていただけあって、セレナやカルミラを相手取って互角以上に渡り合っている。ホームズはバリツを駆使して0番を攻撃しているが、相性が悪い。0番は身体能力が高く、ホームズの攻撃を全て避けていた。
「ホームズ、俺も混ぜろ!」
俺とホームズが共闘したことで0番と釣り合って拮抗し、決め手に欠けたまま殴り合いは続く。
エリアスは245番と一対一で戦うことになり、少し緊張している。けれど245番は構うことなく球体を弾き、エリアスは避けたり受け止めたりして対処していた。
主にホームズが0番を攻撃しているので、俺はエリアスと245番の戦闘をチラリと見ているだけの余裕がある。245番はエリアスに有効打を与えられる力がある、とエヴァが言っていたことを仁和から聞いたが、それ故に二人が戦っているのは不安だ。
だがエリアスの特殊能力ならば大抵の攻撃は当たっても大丈夫だ。もっとも、心臓は脳と違って骨に覆われていないので、そこを銃で撃たれれば危険になる。ただ戦国時代からは戦に銃が導入され、そんな時代に作られた鎧である当世具足もそれなりに防御力はある。さすがに西洋のプレートアーマーみたいな隙間がほとんどない鎧には劣るが、エリアスは骨が硬いから隙間があっても関係ないに等しい。
そう思っていたが245番はエリアスに素早く接近し、鎧の胸に手の平を付ける。するとエリアスは力が抜けたように倒れ、それから動かなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
名もなき民の戦国時代
のらしろ
ファンタジー
徹夜で作った卒論を持って大学に向かう途中で、定番の異世界転生。
異世界特急便のトラックにはねられて戦国時代に飛ばされた。
しかも、よくある有名人の代わりや、戦国武将とは全く縁もゆかりもない庶民、しかも子供の姿で桑名傍の浜に打ち上げられる。
幸いなことに通りかかった修行僧の玄奘様に助けられて異世界生活が始まる。
でも、庶民、それも孤児の身分からの出発で、大学生までの生活で培った現代知識だけを持ってどこまで戦国の世でやっていけるか。
とにかく、主人公の孫空は生き残ることだけ考えて、周りを巻き込み無双していくお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる