日常探偵団─AFTER STORY─

髙橋朔也

文字の大きさ
2 / 4

クロロホルムの利用 その弐

しおりを挟む
「高田は、学校でどうだ?」
「きかん坊の生徒が多くて困ってるよ」
「文芸部はまだ続いているんだっけ?」
「一応、まだある。だが、今の文芸部の部員は七不思議の事実を知らない」
「活動記録も日誌も、全て燃やしたからな」
「懐かしいな」
「今度は、あの頃の文芸部部員全員で集まって呑もうぜ」
「いや。波は酒が弱いぜ?」
「そうか。高田は先輩に求婚してたな」
「ああ。去年、実った」
「式は挙げたか?」
「金がかさむからやらん」
「なら、俺が資金を出すから、結婚式やれよ」
「いいのか?」
「その代わり、俺も結婚式に呼べよ」
「当たり前だろ?」
「んじゃ、今日は高田の奢りだ」
「マジ?」
「マジだよ」
「仕方ないな」高田はカバンから財布を取り出して、そこから一万円札を三枚出した。「三万円以内で、呑みまくるぞ!」
「高田、太っ腹だな?」
「俺達の仲だ。呑むぞ」
「ああ」
 二人は日本酒を注文して、それを一気に口に注ぎ込んだ。
──二時間後──

「──気持ち悪いぃ」新島は口を押さえた。
「俺も、無理だ」
 新島と高田は酒を呑みすぎたらしく、今夜はこれで帰ることにした。
「割り勘?」高田はとぼけたように言った。
「いや、高田の奢りだろ」
「ああ、そうだった」
 高田が会計を済ませている間に、新島は駐車場から車を回した。黒塗りのリムジンだが、この車は新島のものではなく、今日一日だけ高柳教授から借りたものだった。新島の愛車は白のRX7で、よく高田に自慢していた。なぜ高柳教授からリムジンを借りたかというと、愛車RX7は現在修理に出していて、その間はRX8で大学まで通っていた。だが、今日は格好をつけるためにリムジンにしたのだ。
「いやぁ、その噂に聞く高柳教授っていうのは相当儲けてるんだな」
「ああ。まだ四十半ばなんだけど、警察に捜査協力してたから、多分そのお金でリムジンを買ったんだな」
「捜査協力?」
「科学技術やらを使って、捜査協力しているらしい。鑑識課より信頼もあると聞いた」
「そいつは、探偵ガリレオだな」
「まあ、似たようなもんだ」
 高田は助手席に乗りこんだ。それから新島はハンドルを握り、高田の家に向かった。高田の家は一軒家の五階建て。ローンはあと二十年だそうだ。思い切って買ったとは思うが、高田は土方波(ひじかたなみ)という人と結婚して、今はその人と暮らしている。土方は、新島と高田の一つ年上で、彼女が三年生の時は八坂中学校文芸部の部長だった。
「ほら、高田。家に着いたぞ」
「早いな」
「そうか?」
 高田は車を降りた。
「んじゃ、またな」
「ああ。高田も気をつけろよ」
 新島は車を走らせて、自宅に戻った。自宅は中学校の頃から変わらず、八坂中学校の目の前のマンションの206号室だ。飼っていた金魚のイチゴは死んでしまったが、代わりに亀を二匹飼い始めた。だが、飼ってからわかったのだが、亀の世話は大変なのだ。

 次の日、新島は二日酔いのまま八島大学に向かった。それから白衣をまとって、理学部第五研究室に入ると、当然ながら高柳教授は寝ていた。机を見ると、書きかけの論文もあった。新島はまったく、とため息をついた。すると、それに気づいたのか高柳教授は起き上がった。
「来ていたのか、新島......」
「ええ」
「じゃあ、君の弟君の家に行こう」
「今からですか?」
 新島に言われて我に返った高柳教授は、少し訂正をする。
「仕事が終わってからに決まっているだろ?」
「そうですよね。どんか研究をするんですか?」
「どうしようか?」高柳教授は腕を組んだ。「蒸気機関をつくろう」
「蒸気機関?」
「まずは簡単なものからつくろう」
 高柳教授は今朝に飲み干したらしい、キャップ付きのコーヒー缶を取りだした。
 それから、キャップに穴を開けて洗面ゴム栓用ボールチェーンを取り付けた。
 そして、細い鉄製の筒を出した。ストローの四分の一の細さだ。
 両方の穴をはんだで塞いで、片方の側面の端に小さい穴を開けた。その際に、高柳教授ははんだごてで手を焼いてしまっていた。その細い針のようなものを缶に平行に貫通させた。
 缶の穴と細い針のようなもののすき間をはんだで埋めて、最後に缶の中に少し水を注いだ。
「完成だ」
 高柳教授は洗面ゴム栓用ボールチェーンの先をテーブルの下に吊した。それから、缶の下にガスバーナーを置いて熱した。
「さあ、見ていろ。缶の水が沸騰し蒸発。針に空いた唯一の横穴から蒸気が放出し、回転を始めた。これも、蒸気機関の一種だ。熱エネルギーを回転するための運動エネルギーに変わっているだろ? これはヘロンの蒸気機関と同じ原理だ」
「ええ、まあ。ただ、すごさが伝わってきませんね」
「なら、もっとすごいものをつくるか」
 高柳教授は材木も運んできて、ピストン、クランク、シリンダー、移動式バルブ、冷却器をつなぎ合わせてワットの蒸気機関を完成させた。
「見ろ! これが馬力の元になったんだぞ!」
 このような作業の後で、高柳教授は車を回した。
「新島。君の弟の家に行こう」
「かなり急ですね」
「やりたいことは終わった」
「蒸気機関ですか?」
「ああ、その通りだ」
 高柳教授は車を走らせて、新島の弟の家に向かった。亡き新島の兄が、義弟にはあるらしく、親は弟を甘やかした。結果、ニートにしてこのような大豪邸に住めたのだ。だが、さすがに今回の窃盗は親たちも否めなかったようだ。だから、新島にこのような頼みをしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

処理中です...