塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

文字の大きさ
14 / 80
第二部

2

しおりを挟む
「まずは弁解させてくれる? 僕は父がカミーユに政略結婚を持ちかけていたなんて知らなかった。僕は半年近く王都を離れていたからね。領地運営のためという名目で冒険者活動していたんだ。塔に迷い込んだのも偶然だから」
 馬車は順調に進み、やがて森に入った頃合いでアレクは口を開いた。
 気まぐれで鳥の姿で国境越えられないか試してみようとしたのは事実らしい。国境を守る砦には魔法障壁がかかっているから、魔法で国境を越えることはできないとは気づいていたらしい。
 そして鴉に追い回されてカミーユのいた塔の部屋に逃げ込んだのだ。
 カミーユの隣に座っていたバルバラが眉をよせて険しい顔で口を開いた。
「……エドガー王の第一妃が鳥の民だとは聞いていましたが……」
「その通りだよ。亜人は別種族と結婚したら子供にはどちらか強い資質が顕れるのが普通なんだけど、僕はこの通り瞳の色以外は父とは全く似ていない。父は僕が非力な鳥の民の特徴しか持たないことを気にしていた。魔法の才能があったことは喜んでくれたけれど、この国では魔法は武力より下に見られがちだ」
 非力。カミーユはアレクが自分の事をそう表現するのを以前にも聞いた。
 石塔の外壁に穴を開けるほどの魔法を使う彼が、非力なはずがないのに。ダイモスでは目に見える強さが重要視されるんだろうか。
「まあ、僕は力じゃ兄弟の誰にも勝てないことは自覚していた。何かにつけ馬鹿にされていたし。だから王都にいたくなかったんだよね」
「……それで家出を?」
「そう。カミーユに会ったのは偶然だったけれど、一目でわかった。君が僕の唯一だと。鳥の民は生涯一度だけ本当の恋に落ちるんだ。でも、僕は無理だと諦めようと思ったんだ。君を守れるほどの力は僕にはないから。……でも無理だった。君に縁談が来ているという噂を聞いたらじっとしていられなかった」
 カミーユは表向き王女として育てられた。だからこそ王女としての縁談には応じられない。もしそんなことになったらカミーユは自死を選ぶのではないか。アレクはそう思ってカミーユを訪ねたのだ。 
「カミーユの縁談の相手が自分と知ってびっくりした。……今回の縁談は父の独断だ。隣国の王女を妃にすることで僕の立場を少しでも良くしようと思ったのかも。僕は最も非力な王子だから、この国には僕に娘を嫁がせようなんて酔狂な貴族はいないだろうし。だからって本人に何の許可もなく……って思ったんだけど、そういや僕はしばらく王都を離れていたんだったと気づいて」
 国王は半年前の大使襲撃事件で和解の条件の一つとしてカミーユと第一王子の縁談を持ち出してきた。その当時アレクは王都にいなかったのだ。
 ……許可も何も本人不在で話が進んでしまったのか。 
「それで戻ってみたら父から『すでに結婚許可の書類にサインをもらっているからさっさと花嫁を迎えに行け』という書状が届いていた。そこまで話が進んでいるのなら、と思ってすぐに馬車を仕立てて正面から君を攫いに行くことにした」
 アレクが少ない供だけを連れて砦に行っても、砦の司令官は塔の入り口は塗り固められていて、国王陛下の使者が来るまでどうにもできないとのらりくらりと答えたらしい。
 アレクが亜人にしては細身で非力そうに見えたから甘く見ていたのかもしれないが、そこで魔法で塔の外壁に穴を開けて見せた。元々魔法でカミーユたちを連れ出すために塔周辺の魔法障壁を解除していたから、それはもう派手に攻撃魔法が成功したのだ。
 アレクはドミニク三世がカミーユの結婚を許可した書状をつき出して、砦の司令官を黙らせてカミーユたちを堂々と連れ出した……ということらしい。
「まあ、書類には『カミーユが貴婦人としての品位を保っていれば』という但し書きがついていたんだけど、カミーユは立派な貴婦人だと知っていたから問題ないし」
「……それは……否定できない」
 カミーユが答えるとバルバラが大きく頷いた。
 好きで貴婦人やってるわけじゃないんだけど。
 アレクは楽しそうに笑って、それからカミーユの手を取った。
「王子とバレるのもマズいんだろうから、表向きはカミーユは王女ということで通すから。そのヴェールは人前に出るときは被っていて。ドレス姿をじろじろ見られるの嫌だよね?」
「……大丈夫なんですか?」
 王子の妃が顔を一切見せないなど、非礼に思われないのだろうか。カミーユが疑問に思うと、アレクは首を横に振った。
「既婚者は被ってる人多いよ。亜人は種族にもよるけど伴侶に対する執着が強いから。特に僕は鳥の民だから、周りが察してくれるよ」
 そう言ってアレクはカミーユの手の甲にキスをした。ふっと真顔になって正面からカミーユを見据えてきた。
「それから、もう一つ話しておかないといけないことがある。隠し事はしたくないからちゃんと話すつもりだ。でも、今話して嫌われたくないから、着いてからでいいかな?」
 カミーユは頷いた。アレクのことをもっと知りたいとは思うけれど、いっぺんに聞かされても戸惑うだけだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人 「後1年、か……」 レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる

奏音 美都
BL
<あらすじ>  エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。  そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……  俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

処理中です...