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ドレスが好きなワケ

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式の後から、オスカーはオネェ口調を抑え、今ではメィリィと二人きりの時だけになった。

「子どもが嫌がるかもしれないだろ?」
自分が非難されるのはいい。

しかし、産まれてくる子まで何か言われてはたまらないと、心掛けているようだ。

見た目は相変わらず派手だが。

「オスカー様は、オスカー様ですわぁ」
メィリィは相変わらずおっとりと、マイペースに返した。

大きくなったお腹を撫でつつも、ペンと紙は身近に置き、デザインが浮かべば即座に書けるようにしていた。

パルスに行くことは中断しているが、交流を持った人達との文通は時折行なっている。

新たな流通ルートも検討していた。

あれからアドガルムでも出資者が増え、店も増えた。

雇われ店長だったリザも役員となり、任せることも増えている。

警備員も雇い、有事には対応してもらっているし、出入り禁止となるブラックリストも作成した。

情報の共有を徹底し、同じトラブルがないようインシデント、アクシデントの情報は迅速且つ早急に伝達するよう努めた

アシッドは伯爵の座から降ろされ、夫婦ともに隠遁生活となったそうだ。

その時の対応も反省し、マニュアルも法に則るしっかりとしたものを作成した。

オスカーの魔法は使えないし、当てにしてはいけないものだし。

メィリィは経営者としてもオスカーに支えられつつ、頑張っていた。

オスカーは大きくなったメィリィのお腹を撫でる。

「早く会いたい。絶対幸せにするからな」
新たな命、次代への希望。

オスカーは自分のような境遇にならないよう、守る事を誓う。

メィリィはオスカーの長い白髪に触れる。

「大丈夫ですぅ。私とオスカー様がいるんですもの。この子はきっと幸せになりますわぁ」

オスカーが髪を白にしたのは黒髪の自分、パルス国にいた自分を捨てる為だと聞いた。

オズワルドからオズになり、そしてオスカーになった時に白く脱色したのが最初だと聞く。

今は幻惑魔法で変えたりも出来るらしい。

黒髪に戻し出したのは、従兄弟のルアネドが王位を継いだ後。

良くも悪くも見た目は重要だからと、真面目な祭典や式典の時は黒にするらしい。

オスカーはメィリィの額にキスをする。

「一人じゃないって素晴らしいわね」
喜びも悲しみも、これからは家族で共有出来るのだ。

産まれてくる子どももいずれは自分の家族を持つだろう。

繋がる想いに心を馳せていく。

パルス国に居た時は死と隣合わせで、両親は死神の鎌に捕まってしまった。

自分の首にもその一端は常に掛かっていたのを、今でも鮮明に思い出せる。

養父に命を助けられアドガルムに逃げてきた。

そしてエリックと出会い、道が急速に開けたのだ。

エリックの助けもあり、従兄弟のルアネドは奮闘して、見事王位を勝ち取った。

メィリィとの出会いで、オスカーも自身の幸せを見つけられた。

アドガルムでの様々な人との出会いが、オスカーを救い、今を形作ったのだ。

アドガルムに来たことで、死ぬことも、傀儡になることも、使い捨てにされることも、裏切られる事もなかった。

自分の運の良さと、周囲の人の優しさに心底感謝した。
 
これからは自分が返す番だ。











アドガルムに来て、助かる為にと女性となった。

女性もので最初に着たのはワンピース。

より女性らしく見えるため、レースや刺繍のついたものを養父が選んだ。

初めて手にした女性ものの衣類、興味がわいた。

それを着るだけで、皆は自分を女性として扱った。

服自体が可愛いものだとそれが尚更感じられた。

お金を得るため、内職として刺繍の仕事を選び、ドレスを手にした事がドレスとの最初の触れ合いだった。

パルス国にいた頃の、母のドレス姿を思い出し、夜にはひっそりと泣いた事もある。

自分が刺繍したドレスを受け取る女性達の表情は、期待に満ち溢れ、笑顔がより輝いて見えた。

自分が誰かの役に立ったと、嬉しかった。

オズであった女装時代はともかく、オスカーとなってからはあまりドレスに触れられなかった。

エリックが結婚し、レナンと話すようになり、またドレスに触れる機会が出来た。

時には許可を得て刺繍をすることもあった。

その後は王太子妃の妹が着ていたドレスを通し、メィリィに興味をもった。

話を聞き実際に店に行った、ドレスはとても素晴らしかった。

自分好みでもあるし、丁寧に仕上げられている。

店の奥からの視線にも気づいて、不自然じゃないくらいに見返していた。

ミューズに聞いていた容姿から、すぐにメィリィ本人とわかった。

とてもキレイな、きらきらとした瞳をしていた。

直に話を聞きたかった。

マルクス伯爵は迷惑な男だったが、あの時ばかりは僥倖だった。

メィリィと話すきっかけとなったから。

「これからは一人になんてなりませんよ。ずっと、ずーっと一緒ですぅ」
一人になんてならないと優しいおっとりとした声で言われる。

そっとオスカーはメィリィを抱き締め、メィリィのお腹をまた優しく撫でた。

愛しい我が子と愛しい妻。

それを包むはオスカーがデザインしたマタニティドレス。








「えぇ、ずっと一緒よ」
オネェ騎士だったオスカーは、妻と自分を繋いでくれたドレスが、好きだ。





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