猛獣のお世話係

しろねこ。

文字の大きさ
24 / 29

番外編:猛獣になった第二王子(17)

しおりを挟む

「実はミューズ嬢以外にも声をかけた令嬢はおる。しかし、その姿を見ただけで皆悲鳴を上げ、逃げてしまった。仕方のないことだが…しかしミューズ嬢は臆することなく、この獣姿のティタンを受け入れてくれた。正体も知らず、王族が大事にしている獣というだけで、数々の世話を一人でこなしていた。時には獣の身を清め、体調を崩した時には看病をする、献身的な世話を行なってくれたのだ」
甲斐甲斐しく世話はしてもらったが、病気などはしていない。

おそらく美談として語る為脚色したのだろう。

ミューズが疑わし気にマオやチェルシーに目をやるが、二人は涼しい顔だ。

協力してくれたのは嬉しいけど、あの二人仲いいなぁ。

「おかげで間もなくティタンの呪いは解ける。ミューズ嬢の勇気と優しさのおかげだ」
いよいよだ。

ミューズの前で失態を冒さぬように気をつけねば!


「お待ち下さい!」
一人の令嬢が声を上げる。

「私だって、その獣がティタン様だと知っていたら、誠心誠意尽くしていましたわ! 昔からお慕いしておりました!」

(誰だ、この女は?)
まるで覚えていない。

驚きよりも水を差されたことが腹立たしい。

兄のエリックが立ち上がり令嬢の前に出る。

「君は、ティのお世話を頼もうと思った令嬢の一人だな」

「はい、覚えていてもらい光栄です!」
令嬢の目はキラキラと輝いていた。

(兄上は本当に記憶力がいい)
自分は全く覚えていなかった。

あの時は叫ばれるばかりだったから、記憶が薄い。

正直どの令嬢も顔を見る前に逃げたから、誰だかわからない。

「もしも始めから知っていたら、ミューズ嬢のように献身的な世話が出来た、と言うことかな?」
エリックは令嬢に優しく問いかけているが、ティタンはイライラしていた。

ミューズの元家族と言い、この令嬢といい、邪魔者ばかり出てきて全く婚約について進まない。

「はい! 私はティタン様の事をずっと昔から好きでした! 自信があります!」
ミューズを睨みつける令嬢に、心が沸騰しそうだ。

どこから出てくる自信かは知らないが、とっとと帰ってくれ。

「……なるほど、ポーラ=レミントン子爵令嬢は、それ程までに自信があるのか。では、今までの話が嘘だと言ったら?」

「えっ?」
兄の声が低くなる。

昏い目と口端を少し上げる笑み、怒りに触れたようだ。

エリックの足音と低い声が響く。

「このティは、王族の妻となる者を見極めるための王家の魔獣だ。手懐けることが出来なければ、王族の妻にはなれない。レナンはたまたま一人目で手懐けてしまい、噂は広まらなかった……となったらどうする?」
エリックとレナンの二人がティタンを囲むようにして立った。

さりげなくミューズを令嬢の視線から外させるように、隠してくれた。

背の高い二人に囲まれ、少し戸惑っているミューズも可愛い。

ちょっとだけ和む。

「王族への愛がなければ、この魔獣は受け入れない。噛まれても大丈夫だ、王族には腕の良い治癒師が大勢いる。さぁ、ティ。あちらの令嬢へ近づいてご覧。俺が良いと言うまで噛み付いてはだめだよ、場所が悪ければ死んでしまうからね」

「ひっ!」
物騒な事を言うエリックに令嬢は悲鳴を上げた。

エリックは眉を顰める。

「おかしいな、ポーラ=レミントン子爵令嬢。ミューズ嬢より自信があるのならば、ティが近づいても大丈夫なはずだが」
自分を見て逃げ出した令嬢だ。

ミューズ以上に価値があるとは思えない。

よしんば本当に慕ってくれていたとしても、ミューズを睨みつける必要などない。

婚約パーティをぶち壊す理由も、あっていいはずがない。

ティタンはゆっくりと近づいた。

どうしてもイライラは止まらず、唸り声は漏れてしまう。

「ティが選んだミューズ嬢を貶したのだ。ティも怒っているようだな」
怒らずにいられるわけがない。

「この状態で自信があるなどと宣言出来る令嬢はそうはいない。肝が据わっているな」
いつ逃げ出すのかとエリックは楽しそうだ。

充分に近づいたところでティタンは止まった。

あと少しで令嬢に飛びかかれる位置だ。

(こんな状態でもミューズは近づいてくれたな……)

ミューズに対して唸ったわけではないが、唸る自分によく近づけたものだ。

あの時を思い出すと、ミューズとこの令嬢では比べ物にならないと実感する。

ティタンからのミューズに対する信頼感が高すぎるのかもしれないが。

「どうする?ポーラ嬢、発言を撤回するか?」
優しいエリックが最後通告をした。

これで頷かなければ嚙んでいいのだろうか?

「は、はい、申し訳ございませんでした!」
ヘナヘナと座り込む令嬢を助ける者は、誰もいない。

父親であるレミントン子爵すら、足が竦んで動けなかった。

「不愉快だな。キール、この親子をつまみ出せ。二度と王宮へ入れるな」

「はっ!」
素早く二人は拘束され、王宮の外へと出された。

あれだけエリックに名前を呼ばれた令嬢は、貴族の恥としていい縁談など来ないであろう。

最初のうちは名前を出さないようにと務めたが、ミューズを睨みつけたことが引き金になった。

兄は身内を貶されることを酷く厭う。

ミューズをもう家族と認めているから、より不快だったのだろうな。

二コラに追って何か指示を出していた。

あの子爵たちはきっと災難が見舞うだろう。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

第一王子と見捨てられた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。 お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

処理中です...