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第5話 話す相手は
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王城に着いた数日後、失礼のないようにドレスを着せられ、化粧も施される。
王太子の前に出るのだからと着飾らせられたが、久しぶりにこのような格好をしたものだから何だか落ち着かない。
それにここに来て数日、いまだカラムに会えないので心配だ。
侍女たちに問うてもわからないという返答ばかりだ。非常にモヤモヤしている。
(カラムは大丈夫かしら。酷い目に合っていないといいけど)
今どこにいるのか、何をしているのか。知らされないのはとても辛い。
「顔を上げよ」
「はい」
王太子殿下の声にゆっくりと顔を上げる。
金髪に紫の瞳をしたこの国の王太子カルロスは、優しい微笑みでリューフェを見ていた。
慈愛に満ちた目線に思わず頬を赤らめるものの夫を思い、すぐに目線を下に下げる。
「畏まらなくていいから、楽にしてくれ、呼び出したのは俺なんだから」
「はい」
それしか口に出来ないほど緊張していた。
「初めましてだな、カラムの妻リューフェ夫人。今日は俺、カルロス=ヴァン=バークレイの呼び出しに応じてくれてありがとう」
「いえ」
応じたというか命令でしかないように思えたが。
しかし道中用意された宿などはとても高価なところで、馬車もとても乗り心地が良かった。
案内された客室も綺麗で出された食事も美味しい。対応してくれる侍女たちもカラムの事については教えてくれなかったが、それ以外ではとても優しく、歓迎されているというのは感じられた。
「さて早速だがリューフェ夫人、カラムの事は気に入っているか?」
「はい?」
「そうか即答するくらい好きか」
突然の言葉に聞き返したのだが、カルロスはそう取らなかった。
リューフェの返事を聞いてにこにこと上機嫌だし、ここで訂正する事は出来ないだろう。
「愛し合っているなら引き離す気はない。いや君がカラムを誑かして婚姻を結んだのではないかと邪推してしまった。そんな女性とは思ってはいなかったが、些か心配でね……相思相愛で良かった。カラムは俺のお気に入りの部下だから悲しませるのは忍びない。離縁の話にならなくてすみそうで良かった」
「あの、つまるところ何の話なのですか?」
一体何の話の為に呼ばれたのか。
「あぁすまない。君の気持ちを聞いたから話すけれど、カラムの冤罪が晴れたんだ。その為、彼の貴族籍は復活することになったんだ」
「?!」
驚きの言葉だ。
良い事ではあるのだけれど、そうなると平民である自分はどうなるのであろう?
(カラムと別れなければいけない?)
そんな考えも過ぎってしまう。
「義姉が画策したことの証言と証拠が取れたようだ。そもそも冷静になればおかしいと気づくはずなのに。ちなみに新しい爵位をカラムには与える、実家に未練はないそうだし、もう戻りたくないらしいからな」
「そうですね……」
彼を信じることなく切り捨てた家族だからそれは仕方ないと思う。
もう少しカラムを信じて話を聞いてくれていたら、彼はあんな目に合わなかったかもしれないのだから。
「昨日カラムの元家族をここに呼び出し、謝罪はさせた。カラムは一応許してはいたが、二度と見たくないと言って絶縁を言い渡していたよ」
(それは良かったわ。でもどうしてその話をカラム様ではなく、殿下から聞かなくてはならないの?)
リューフェは腑に落ちない。
カラムの為に奔走してくれたのだろうが、このような大事な話はカラムから直接聞きたかった。
嫉妬のような気持ちが湧き上がってくる。
「カラムは今までとても重要な役割を行なっていた。機動力に優れたカラムの力はこれからもとても有用だ。冤罪が晴れた彼には改めてその力をまた王都で振舞ってもらいたいと考えている。新たな爵位を与えてな。そして相応しい伴侶を得てもらおうと」
「相応しい伴侶……」
口の中で復唱する。
「そう。騎士である彼を支えることが出来る伴侶が必要だ。彼は優秀な騎士でぜひ後継も作って欲しい。世継ぎは必須だ。その為お飾りの妻ならば、ぜひ離縁してもらいたいと思っていたが」
探る様なカルロスの目に少し怯んでしまう。
でも逸らしては負けだとリューフェは耐えた。
彼の妻は自分だ。他の者に渡したくはないという気持ちが芽生え始めている。
「何にせよカラムが惚れてるならば無理矢理には引き離せないが。こういう事情もあるのだとわかって欲しかったんだ」
幾許か視線を柔らかくさせたカルロスは扉の外へと呼びかける。
「あの者達を連れてきてくれ。罰を言い渡そうではないか」
そう言ってオルフとミラージュを連れてきた騎士を見て、リューフェは嬉しそうな笑顔を見せた。
ようやく会えた夫だ。
王太子の前に出るのだからと着飾らせられたが、久しぶりにこのような格好をしたものだから何だか落ち着かない。
それにここに来て数日、いまだカラムに会えないので心配だ。
侍女たちに問うてもわからないという返答ばかりだ。非常にモヤモヤしている。
(カラムは大丈夫かしら。酷い目に合っていないといいけど)
今どこにいるのか、何をしているのか。知らされないのはとても辛い。
「顔を上げよ」
「はい」
王太子殿下の声にゆっくりと顔を上げる。
金髪に紫の瞳をしたこの国の王太子カルロスは、優しい微笑みでリューフェを見ていた。
慈愛に満ちた目線に思わず頬を赤らめるものの夫を思い、すぐに目線を下に下げる。
「畏まらなくていいから、楽にしてくれ、呼び出したのは俺なんだから」
「はい」
それしか口に出来ないほど緊張していた。
「初めましてだな、カラムの妻リューフェ夫人。今日は俺、カルロス=ヴァン=バークレイの呼び出しに応じてくれてありがとう」
「いえ」
応じたというか命令でしかないように思えたが。
しかし道中用意された宿などはとても高価なところで、馬車もとても乗り心地が良かった。
案内された客室も綺麗で出された食事も美味しい。対応してくれる侍女たちもカラムの事については教えてくれなかったが、それ以外ではとても優しく、歓迎されているというのは感じられた。
「さて早速だがリューフェ夫人、カラムの事は気に入っているか?」
「はい?」
「そうか即答するくらい好きか」
突然の言葉に聞き返したのだが、カルロスはそう取らなかった。
リューフェの返事を聞いてにこにこと上機嫌だし、ここで訂正する事は出来ないだろう。
「愛し合っているなら引き離す気はない。いや君がカラムを誑かして婚姻を結んだのではないかと邪推してしまった。そんな女性とは思ってはいなかったが、些か心配でね……相思相愛で良かった。カラムは俺のお気に入りの部下だから悲しませるのは忍びない。離縁の話にならなくてすみそうで良かった」
「あの、つまるところ何の話なのですか?」
一体何の話の為に呼ばれたのか。
「あぁすまない。君の気持ちを聞いたから話すけれど、カラムの冤罪が晴れたんだ。その為、彼の貴族籍は復活することになったんだ」
「?!」
驚きの言葉だ。
良い事ではあるのだけれど、そうなると平民である自分はどうなるのであろう?
(カラムと別れなければいけない?)
そんな考えも過ぎってしまう。
「義姉が画策したことの証言と証拠が取れたようだ。そもそも冷静になればおかしいと気づくはずなのに。ちなみに新しい爵位をカラムには与える、実家に未練はないそうだし、もう戻りたくないらしいからな」
「そうですね……」
彼を信じることなく切り捨てた家族だからそれは仕方ないと思う。
もう少しカラムを信じて話を聞いてくれていたら、彼はあんな目に合わなかったかもしれないのだから。
「昨日カラムの元家族をここに呼び出し、謝罪はさせた。カラムは一応許してはいたが、二度と見たくないと言って絶縁を言い渡していたよ」
(それは良かったわ。でもどうしてその話をカラム様ではなく、殿下から聞かなくてはならないの?)
リューフェは腑に落ちない。
カラムの為に奔走してくれたのだろうが、このような大事な話はカラムから直接聞きたかった。
嫉妬のような気持ちが湧き上がってくる。
「カラムは今までとても重要な役割を行なっていた。機動力に優れたカラムの力はこれからもとても有用だ。冤罪が晴れた彼には改めてその力をまた王都で振舞ってもらいたいと考えている。新たな爵位を与えてな。そして相応しい伴侶を得てもらおうと」
「相応しい伴侶……」
口の中で復唱する。
「そう。騎士である彼を支えることが出来る伴侶が必要だ。彼は優秀な騎士でぜひ後継も作って欲しい。世継ぎは必須だ。その為お飾りの妻ならば、ぜひ離縁してもらいたいと思っていたが」
探る様なカルロスの目に少し怯んでしまう。
でも逸らしては負けだとリューフェは耐えた。
彼の妻は自分だ。他の者に渡したくはないという気持ちが芽生え始めている。
「何にせよカラムが惚れてるならば無理矢理には引き離せないが。こういう事情もあるのだとわかって欲しかったんだ」
幾許か視線を柔らかくさせたカルロスは扉の外へと呼びかける。
「あの者達を連れてきてくれ。罰を言い渡そうではないか」
そう言ってオルフとミラージュを連れてきた騎士を見て、リューフェは嬉しそうな笑顔を見せた。
ようやく会えた夫だ。
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