塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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騎士訓練②

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「さて、今後の訓練の話だが……その前にあちらの姫をどうするんだ?」

ティタンと話していた栗色の髪をした男性、副団長のキールがミューズに目線も送らずそう話す。

キールは悪友なもので、ティタンとはまた違った視点で騎士団を支えており、ティタンにとっても頼もしい逸材だ。



「どうしようかなと思ってな。こんな汗臭い姿で近づくのも呼ぶのも気が引けるし」
本当はすぐさま呼んで傍に置きたいが、嫌われたくない。

ただでさえ女性には訓練の様子は嫌われているのだ。

「どうやら好んで見ているようだが? 楽しそうに隣の令嬢に説明している。嫌なら最初から来ないのではないか?」
確かに昨夜、自分の体が好きだと言っていたし、騎士たちの鍛えている様子はミューズにとって嫌悪の対象ではないようだ。

小さい頃も騎士を見たいと一緒に抜け出したくらいだし。

(触りたいと言っていた程だし)
昨日の柔らかな感触を思い出し、ついニヤけてしまう。

「来てもらえてうれしいなら素直にここに呼べ。皆も気づき始めて集中出来ていない、さっさと皆に説明して訓練したほうがいい」
キールにもそう促され、呼んでもいいのだと自信がつく。

「じゃあ、ここに来てもらうかな」
「今椅子も持ってこさせる。お前の婚約者に見られながら訓練するんだ、皆の気持ちも引き締まるだろう」




ミューズが自分のヤキモチに気づき、しょんぼりしているとティタンが手招きしているのが見えた。

「どうやら呼ばれているようですね」
レナンも気づき、ミューズに「行ってみては?」と後押しする。

「でも、迷惑になるのでは…」
「呼んでいるのにそれはないと思いますよ、私は先に戻りますので、休憩時間終わる頃にはお戻りください」
「い、一緒に行ってくださらないのですか?!」

レナンはニッコリと微笑むと、
「私もエリック様に会いに行きたくなりましたので、また後でお会いしましょう」
これ以上剣の談義についてもついていけなさそうだし、とレナンは行ってしまった。




仕方なく一人でティタンの元へ向かう。
まだ訓練中なので端を通って彼のもとについた。

「おやレナン殿は来なかったか」
「エリック様のもとへ行かれました、会いたくなったそうです」
ミューズはキールの方へ向くと優雅な礼をする。

「お初にお目にかかります、ミューズ=スフォリアと申します。以後お見知り置きを」
それを受けたキールはピシッと背筋を伸ばし、主君にするよう敬礼のポーズを取る。

「私はアドガルム国第一騎士団副団長キール=ガードナーと申します。ミューズ様、我が騎士団の団長でもあるティタン様の心を射止めて頂き深く感謝しております。騎士団の皆を代表して御礼申し上げます」

突然そんな挨拶をされ、ミューズは戸惑ってしまう。
いい挨拶なのか悪い挨拶なのかわからない内容だ。

「やめろキール、ミューズを困らせるな」
ミューズの肩に手を置き、自分の傍に寄せた。
ミューズを呼ぶ前に入念に汗を拭いたので匂いは大丈夫だと思いたい。

「いや女性に縁遠いお前にこんな美人が来るなんて、つい本音が出てしまった」
「嘘つけ。からかいしか感じられなかったぞ」
軽快なやり取りに二人の間には親密さが感じられる。

「ティタンとキール様は仲がよろしいのですね」
「騎士学校からの腐れ縁だな、ずっと競い合ってきた好敵手でもあるが」
「ティタン様には腕をかわれてこちらに誘って頂きました。今では副団長に抜擢して頂いて感謝しております」

キールの口調は慇懃無礼といった感じだが、敬愛の念も感じる。

ティタンの嗜める口調も本気なのは感じられない。

本当に仲がいいのだろう。





一度訓練を止めて皆の前で挨拶をする。

ミューズの悪評は皆も聞いていただろうが、嫌悪の色は感じられず好奇の色が強い。

面白くないと感じたティタンが後ろからミューズに腕を回し牽制する。
ティタンの汗の匂いを感じてドキドキしてしまった。

「この後の訓練だが、実地訓練になる」
本当の鎧をつけ、剣を持つ。

もちろん刃先を潰し切れないようにするが、当たりどころが悪ければ骨くらいは折れる。

「新人はまず鎧や剣の重みになれてもらい、素振りから入る。木剣と違う動きにもなれてもらわないとな」

こくこくとミューズは説明を聞いている。

「ティタンもするの?」
「基本俺はしないかな、相手出来るものが少ないからな」
なので基礎の反復練習や時折ダンジョンなどへ行き、実践戦闘をしている。

「今日は新人達への披露目も兼ねて団長の強さを見てもらおう」
キールのひとことで流れが変わる。

「滅多に見せない団長の実力を見せるのも悪くはないだろ。自分達の上司だ、その強さを見ておきたいと思うが」
周囲もワクワクしてティタンを見る。

「私も見たいな」
キラキラとした目で見上げてくるミューズにちょっとだけ揺らぐ。

「しかし、誰とするんだ?皆嫌がるだろうし」
「仕方ないから俺が出るさ」
副団長であるキールがそう言った。彼がするのもかなり珍しい。

「俺が勝ったら団長の座を寄越してもらうぞ」
「構わん。で、俺が勝ったら?」
ちらりとミューズを見る。

「ミューズ様からのキスでどうだ?」
「なぜ?!」
巻き込まれてミューズの方が思わず声が出る。

ミューズにとってもご褒美だが、この流れでそうなるのはおかしい。

「えっと、流れ的におかしい気もしますが。普通はキール様が出来る事ではないのでしょうか?」
「お互いに本気で欲しい物を提案したのです。ミューズ様がお嫌でしたら変えましょう」

キールの言い方はかなり狡い。




今のティタンなら絶対違うものにしないし、そう言われたらミューズも拒めない。

しかもキールは勝てば欲しい物、負けても自分は痛くない、そんな賭けなのだ。

「嫌ではないです…」
そう言うしかない。

ティタンに至っては昨晩の唇へのキスを思い出し、口元をおさえている。

「わかった、全力で行く」
「こちらこそ」



負けられない男の戦いが始まった。
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