塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

文字の大きさ
26 / 38

邂逅

しおりを挟む
「本当に、本当に凄かったわ」

街で助けてもらった事はあるけれど、あんな戦い方をするとは思わなかった。

「私も鍛えたら少しは戦えるかしら」
えいえいと素振りの真似をする。

その目は真剣であったが、こんな細腕でと思わず笑ってしまう。

「ミューズは戦わなくていい。俺が守るんだから」





時には命を奪わなくてはならない時もある。

ミューズには文官としての戦いがあるのだ、わざわざこのような血生臭い事を覚えさせたくはない。

「でも、守られてばかりはイヤだわ。いざという時は私だって少しは役に立ちたい」

役に立つと言われても……。
「こんなか弱い体でか?」

ひょいっと横抱きに抱えられ、思わず身を固くしてしまう。

「!」
「適材適所というものがある。ミューズは俺が守るから戦いの技は必要ない」
「うぅー。でもぉ…」
抱えられ足をジタバタさせている。

今日は妙に子どもっぽい。





「何故拘る?ミューズには兄上とレナン殿と行う政務があるのだから、武人の仕事を知る必要はないだろ」
「あなたの仕事だから少しでも知りたいの」

昨夜ティタンに言われてお互いの仕事を理解し、わかり合えればなと思った。

「深く知るのは難しいかもしれないけどティタンを支えられたらなって。キール様のようにはいかないだろうけど」
若干嫉妬の思いも伝えつつ、口にする。

知ろうと知る気持ちは嬉しい。

「それならば、護身術はどうだ?」
人を傷つける技ではなく、自分を守る技。
それであればこの先のもしもにも備えられるし、多少ならティタンでも教えられる。

「時間が取れるなら俺が教える。忙しいなら無理強いはしないが…」
「ティタンに教えてもらえるなんて嬉しいわ。早速先生に相談するね」

レナンが王妃教育をしている時にミューズは自習をしているので、その時間を回せればティタンといる時間も増やせそう。

「一緒にいられるなら、ぜひ頑張りたい」
むんっと握り拳を作り、やる気を見せる。

「ところで、重くはない…?そろそろおろして欲しいなぁって」

たくましい腕の中にいるのは嬉しいのだが、さすがに負担が大きいのではと心配になる。

それに顔がとても近いのだ、昨日の今日でやはり気まずい。

「俺にこうされるのはイヤか?」
嫌われたのじゃないかと心配で聞いてしまうが、そうではないと否定してくれる。

「重いだろうし、それにとても顔が近くて恥ずかしいの…それに匂いも」

鍛錬後の汗の匂い、その濃い香りに胸が高なってしまう。

「すまない、すぐ下ろす!」
汗臭いと言われたと、急いでミューズの身体を床に下ろした。

離れる前にとミューズの手がティタンの首に回されキスをされる。

「さっきはとてもカッコよかったわ。勝ってくれて嬉しい。あと私ティタンの匂い好きよ、とても安心するの」

願わくば使用したタオルも欲しいが、はしたないと思われそうでそこまで言えなかった。

「勝った甲斐が、あるな」
嬉しさで頬がニヤける。
これから一緒にいる時間が増えるのも喜ばしい。

「今日はありがとね、見学すごく楽しかった! また後でね」





上目遣いで可愛く言われ、だらけた顔で鍛錬場に戻ってしまうと、唇についた薄紅色に気づかれ、キールにめちゃくちゃからかわれてしまった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...