塔の姫は隣国の王子と恋をする

しろねこ。

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結婚式

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あれから数ヶ月、今日は結婚式だ。

各国の代表を呼び、街自体も華やかな空気に包まれている。

「緊張してきました」

「レナン様、無理なさらずに。私も一緒におりますからね」
レナンは少し大きくなったお腹を擦り、椅子に腰掛けていた。

まだそれほど目立たないが身体を締め付けないデザインにしてもらい、肌の露出も抑えレースで彩られている。

ユリをモチーフにした造花を配置し、パールがところどころに散りばめられていた。

ミューズはやや肩を露出したデザインとなっている。

ボリュームのあるふんわりとしたスカートで愛らしい印象だ。

ところどころガーベラをモチーフとした造花が飾られている。

「レナン様が懐妊されていると聞いた時は驚きましたが、良いニュースは嬉しいですね」
通常婚姻前交渉はタブーとされているが、レナンの場合は婚約届と婚姻届をほぼ同日に出されたそうだ。

次期国王の婚約だからと他国へ書簡として見せると婚約届に多めにサインさせられたのだが、その中に混じっていたそうだ。

両親のサインが既になされていたので読まずに書いたが、レナンは知らずと嵌められたのだ。

「早く後継ぎが欲しくて、と言ったら了承された。世継ぎは大事だからな。それに弟より後というのも、些かプライドがな」
既に結婚しているのだから文句は言えない。

情勢が安定するまで式を後回しにしたこと、リンドールとの関係性が不安定だったため民に結婚の報告が遅れたことは、エリック自ら説明をし、詫びをいれた。

ちなみにミューズは本日婚姻が承認され、正式な夫婦となった。

「こうして結婚式も世継ぎの発表も行えるなんて、幸せな日だ」

「兄上だけずるい」

「ああ、そうだ。俺は狡い男だ。お前みたいに好きな女を迎えに行けず、ここで待っていて捕らえたのだ、最初から狡いのだよ」
振られるのが怖くて積極的に動けなかったのだ。

「あぁやって囲い込み、逃げられないようにしないと本音が言えない」
花婿衣装に身を包んだ二人は花嫁の用意が出来るまで、今までを振り返っている。

「兄上は、いつからレナン殿を?」
「社交界デビュー時だ。その時俺はお前と違ってモテるから困っていた。皆完璧な衣装に完璧な動作。素敵な淑女で溢れていた。そんな中レナンはあろうことかドレスに躓き、階段から落ちた」
びっくりしたし、驚いた。

まさか落ちる令嬢がいるなんて、と信じられなかった。

落ちたところは低かったから大した怪我はしてないが、注目を浴びたのは間違いない。

「そしたら周囲の者は笑うだけで近寄らず、慈しみの欠片もない。仕方なく俺が助けて笑いものになっていた彼女を外に連れ出したのだ」
計らずとも周囲の本性をしれたのだ。

僥倖と感じざるを得ない。

「少し気晴らしになれたらと話せば政治にも造詣が深く、情勢の判断も的確だ。詳しく調べれば、宰相候補というではないか。いつかは登り詰めるだろうと思っていて、せめて俺が成人してからプロポーズを考えていた」
それまでレナンが婚約しないか釘を刺しながら用意をしていた。

「いざプロポーズをしようと思ったその年に、リンドール王妃が亡くなった。国中が喪に服し、俺はその時が落ち着いたらと考えていた」
国の悲しみはいかばかりであっただろう。

その悲しみが落ち着くまでとエリックは待っていた。

「しかし、今度は情勢の不安定があの国を襲った。ミューズは軟禁され、リオンはよその地に送られた。仕事に追われる彼女を誘う機会はなかなか訪れなかった」
度々外交で訪れたものの、レナンには会えなかった。

対応したのは大臣で仕事が忙しいという理由で会わせてもらえない。

「ずっとこき使われているレナンが不憫で、大臣を暗殺するかとも考えたが、そうなればあの不安定な国はもっと不安定になる。馬鹿な大臣ではあったが、あの時のレナンに執務と国王代理の負担は大きすぎると思ってな。マオに付き添ってもらい、リオンが成長するのを待っていた。国王代理の人材が育てばレナンが離れやすくなるだろうと」
思惑通り、リオンは立派な国王代理を務めている。

「ティタンがミューズを好きだと言ってたから、リンドールを救うのは容易いと思ったのだが……お前に深手を負わせてしまうとは読みが甘かったな。さすがに心臓が凍る思いだったよ」
あの時を思い出すとゾッとするなと、悲しげな笑顔を見せる。

「何だかんだ大事な弟だ。今後もミューズ共々この国を任せたい」

「俺も兄上を大事に思っている。そしてこの国もだ。これからも騎士団長として務め、必ずや良い国にしていく」
これからの自分とミューズと、まだ見ぬ子どものために。

「一緒に頑張ろう」
にかっと笑うティタンと静かに口元を上げて笑うエリック。

あまり似ていない兄弟ではあるが、昔から足りないところを補って助け合ってきたのだ。

これからも助け合って生きて行くつもりである。

コンコンとノックの音がする。

支度が出来た合図だ。








盛大な歓声と拍手が聞こえた。

道を閉鎖し、二組の夫婦を乗せた輿が街を練り歩く。

エリックはレナンに寄り添い、時折愛おしそうにお腹を撫でたりして、周囲に手を振っている。

レナンも軽く後ろに凭れながら手を振っている。

座っているだけなので、かなり楽ではあるが、疲れた時はエリックに身体を預け、小さく手を振るようにしていた。

ティタンはその膝にミューズを乗せ、大きく手を降っていた。

大柄なティタンの膝に乗っているミューズは人形のようでとても可愛らしい。

時折見つめあい、微笑みあう様子は街の人々に笑顔をもたらしていた。

その後ろをアドガルムの国王夫妻と、リンドール国王とリオンが乗った輿がついていく。

周囲には護衛騎士の他、キールも警備についていた。

マオとニコラはミューズ達の輿近くに控え、目を光らせている。

花びらが舞う中、キラキラとした金色の光も降り注ぐ。

それはリオンの手から空へと放たれていた。

「キュア様より、一時的ですが力を借りてきました。おめでとうという事で」
触れれば温かさを感じ、心がより温まる。

祝福の花びらが更に空へと舞い上がっていった。





塔の中に閉じ込められていた姫君は無事に騎士に助け出され、国の女神の祝福を受け、生涯幸せに暮らすことが出来た。



笑顔が絶えることもなく、もう二度と虐げられる事もなく、仲睦まじく過ごしていった。


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