愛しい人へ、素直になれなくてごめんなさい

しろねこ。

文字の大きさ
2 / 32

第2話 亀裂とすれ違い

しおりを挟む
そして数日後、ティタンとユーリ王女の婚約が解消されたという話を聞いた。

「これで一緒になれるな」
キラキラした目で見られるものの、ミューズは返答など出来ない。

「お待ちください。本当に王女の代わりを私が務められると思いますか?」
嬉しいと言うよりも、荷が重い。

ミューズの家は一応公爵家ではあるが、筆頭ではなくむしろ末席。

祖母が王妹であったため公爵家であるが、特に役職にもついてないし、実権もない。

収入も領地経営くらいだから裕福ではないが、このままほのぼのとした両親の下で静かに暮らしていたかった。

しかし、ティタンと出会ってからはずっと調子が狂わされている。

「無論だ。君なら王子妃としてやっていける」

「ご冗談を。ティタン様、少し頭を冷やしてくださいな」
何でも思い通りになると思われては困る。

無礼を承知でそう言って立ち去ろうとしたが、腕を掴まれた。

大きくて硬い手に、これが男性の手なのだと改めて認識する。

そんなに力を入れてるようには見えないのに、振り切れない。

「冗談ではない。君と一緒になりたいからと考えていたことだ。ぜひ求婚を受けて欲しい」

「このような大事な話は私の一存では決められません。まず父を通してください」
掴まれた手はまだ離されない。

「君の気持ちが聞きたいんだ、俺と一緒になる気は全くないのか?」

「……今、私たちが周囲にどう思われているかを知っていますか?」
返答を避け、そのように聞けば、ティタンはぐっと言葉に詰まる。

「ティタン様を誑かした悪女と言われています。その噂を払拭せずにこのまま求婚を受ける事は、出来ません。ですから今はお受けすることは出来ません」
ティタンが取った行動は悪手だ。

いくらなんでも婚約者がいる状態でのプロポーズはしてはいけなかった。

せめて周囲の理解をもう少し得られないと、王家も公爵家もいい顔はされないだろう。

「ですので、少し距離を置き、お互いの評価がもう少し改善した頃に改めて考えます」
本当はすぐにでも自分も好きだと伝えて、喜んで婚約をしたいと言いたい。

でもこの針の筵のような雰囲気の中で、幸せになれるのかというと難しい。

それに森での件もあるし、断罪されたくはない。

(本当に私のための婚約解消だったのかしら)
ティタンに瑕疵をつけた事を心苦しく思うが、やはり信用はまだ出来ない。

「わかった。それならば待つ。ただしそれまで婚約者を持たないでくれよ」

「善処します」
優雅にミューズは微笑んだ。

ティタンの思いが本当だとわかれば、いつか結ばれるだろう。

それまでは、これ以上評判が悪くならないように頑張り、本心を探らなくてはならない。







決意はしたが、やはり彼が他の女性と話すのを見るのは辛い。

彼の声や話題を聞くだけでそわそわしたり、ドキドキしたり。

婚約解消について国から公表もされ、理由としては政治的な理由とだと発表された。

婚約破棄ではなく解消という事で、ティタンもミューズも悪い事をしていないという事になった。

少しだけ周囲の雰囲気は緩和されたが、フリーになりミューズと距離を置いたことで話しかけるものが増えた。

もともと人当たりもよく、身分の差に拘らないティタンは色々な者と交流するようになった。

時折ミューズとも話すが、約束したように必要以上に話さず、近づかない。

王族を誑かした悪女と言われないよう、適切な距離を保とうとしているようだ。

他の女生徒とも似たような距離感をとるようにはしてくれている。

特別扱いはなくなり、ミューズの望んだように距離は開けた。

これで平穏な日々になるはずだったのに、距離が開いたことで寂しさが去来してしまい、結局落ち着いた日々なんて送れていない。

自分の我儘に嫌気が差す。

「自分から離れようと言ったのに」
本当は自分だけを大事にしてほしい。

都合のいい事ばかりを思う醜い自分の内面に、嫌気が差す。

影のある表情を帯びることが段々と多くなってきた。

「ミューズ」
ふと人気のない廊下でティタンに声を掛けられた。

ぼんやりとしていたら皆次の教室へ移動したようで周囲には誰もいない。

立ち止まり外を見ていたのでミューズは全く気付いていなかった。

「疲れているのか? 最近元気がないように見えるが」

「大丈夫です、寝不足なだけですよ」
そう言って誤魔化すが、ティタンの心配そうな表情は消えない。

「顔色が悪い。今から医務室へ行こう」

「えっ?」
抱き上げられたかと思うと医務室まで抱っこで運ばれる。

「いえ、あのダメです。こんなの」
人が少ないとはいえ、こんなところを誰かにみつかったら恥ずかしい。

「大人しくしていて」

(誰のせいだと思ってるのかしら)
完全に八つ当たりではあったが、そんなことも言えず、ミューズは目を閉じ、プルプルと震えて耐える。






(怖がらせてしまったか……)
あれからずっと距離を感じていたから、何とか理由をつけて触れたかった。

無理矢理過ぎたが、ようやく感じた温もりに今更下ろすことは出来ない。

距離も近く良い匂いがする。

早く場を整えたい。

そしてもう一度プロポーズするんだ。

それまで何とか耐えるつもりだったのに、あんなに倒れそうな真っ青な顔をしていたのならば見過ごせない。

早く安心できる環境を用意してあげたいものだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...