愛しい人へ、素直になれなくてごめんなさい

しろねこ。

文字の大きさ
20 / 32

第20話 伝えたい事

しおりを挟む
「何かあったの?」
浴室から出て、皆のところに向かうと外から揉めるような声が聞こえていた。

「ミューズちゃんは出ないほうがいい。オーランドが手下と共に来たんだ」
風花亭の主人がそう教えてくれた。

「オーランドって誰です?」
チェルシーの問いに、ミューズが表情を曇らせる。

「ここの領主の息子よ。女性好きらしいからチェルシーやマオは出ないでね」
ミューズとて会いたくはないが、ティタンが対応しているようだからそのままにはしておけない。

一体何をしに来たのか。

「だから俺は領主代理でこの村の治安を守る義務がある。体調を崩しているミューズの容態を見に来ただけなんだから、つべこべ言わずにとにかく会わせろ」

「そっちこそ大丈夫だから帰れと何回言ったらわかるんだ。彼女は俺の妻だ。領主代理だか知らないが、こんな大人数で女性の元を訪れるような男などに、会わせるわけがない。何をする気だったのか怪しむに決まっているだろうが」
ティタンがいなければ押し入るつもりだったのではないかと、気が気ではない。

ミューズが何かされる前にこうして会えて良かったと内心ホッとする。

「怪しいのはお前だ。急に来たよそ者がミューズの夫と言って押しかけているのだ。しかも当の本人は出さないとは、まさか脅してるんじゃないだろうな。俺は領主代理として、領民の安全を守らなければいけない。さっさとミューズを出せ、無事を確認させろ」
怪しい男の側になど置いておけない。

出てくれば直ぐ様保護をし、屋敷に連れ帰る気だ。

「領主代理と言い張るならば、きちんと印の入った書面でももってこい。口頭での言葉など信用できん。そして彼女を守るのは俺の役目だ。俺達は本当の夫婦だ。夫として、信用ならない男なんぞ近づけさせる気はない」

「夫だと? あんなひどい状態で追い出しておいて、守るなんて言葉、よく言えたものだ。それこそまたひどい目に合わせる気ではないのか」

「誤解があってミューズは家を出てしまっただけだ。ひどい目になどもう合わせない、その為に俺はここに来たんだ。早く彼女を休ませたい、もう帰れ」
追い返したいと思う気持ちが強すぎて、ティタンはオーランドに対してぞんざいな返事しかしていない。


「ティタン様、落ち着いてください」
仮にも領主代理であるので、これではこちらの不利になるとルドが割って入った。

いざこざががもとで身元がバレても厄介だ。

「お怒りはわかりますが、これでは話が終わりません。オーランド様、申し訳ありませんが、お話は明日にしましょう。改めて挨拶に伺わせてもらいますので、本日はお引き取り下さい。ミューズ様が現在体調不良なのはご存じですよね。今は夜ですし、身重の体で無理をさせてはいけませんので」

「そう言ってもう半刻だ、せめて一目見る事くらいは出来るだろう」

「ですが、既に休まれておいでです。身支度の整っていない中男性の前に出るのは勇気がいる事ですので、明日支度が整い次第向かいます。本日はご遠慮ください」
ルドが根気強く説得をしているが埒が明かない。

「半刻もあんな言い争いをしていたの?」
オーランドの言葉に驚いてしまった。

「そうなのです、恥ずかしいのでさっさと帰って欲しいのですが」
料理も終え、室内で待機していたマオもため息をついた。

折角温かい料理を用意したのに冷めてしまう。

「ひと目だけで帰ってくれるなら」
ミューズはドアを開け、そっとティタンに声を掛けた。

「ミューズ、無理をするな。中に入っていてくれ」

「大丈夫ですわ。私の体調を心配してくださり、ありがとうございます」
そう声を掛けてから、オーランドに頭を下げる。

「オーランド様もわざわざ足を運んでいただいたのに挨拶が遅れ、申し訳ありません。今は少し体調が優れませんので、明日必ず伺わせてもらいますわ」
髪や服を整えたミューズは最初に出会った頃よりも綺麗であった。

顔色はやや悪いものの、オイルや薄化粧でチェルシーに整えられた容姿はいつもより美しい。

そしてさらしを巻くことも忘れていたので、女性らしい体型をさらしてしまっていた。

チェルシーが選んだワンピースも可愛さが際立つものだから尚更人目を引いてしまう。

「思ったよりも元気そうでよかった。が、その男は本当に夫なのか?」
だいぶ印象の変わったミューズにドキドキしながら、オーランドは確認するように声を掛ける。

「えぇ。彼は私の愛する夫です」
凛とした声ではっきりと告げる。

「酷い仕打ちをした男だろ、あのような少ない荷物で放り出して。一緒に居て本当に大丈夫なのか? なんなら今から俺の家に来い。部屋ならあるからな」
万が一匿うことになってもいいように揃えていた部屋があるので、ぜひそこに来てもらいたいと願っていた。

「お誘いありがとうございます。ですが、私は彼と共にいると決めました。それに酷い仕打ちをしたのは彼ではなく、私です。嫌われたくなくて、愛情を確認するのが怖くて、自分の責任を放棄し、逃げ出してきたのです。だからティタン様は悪くありません」
野次馬が集まる中ではっきりとそう告げた。

「皆さまもお騒がせしてすみませんでした、後日必ず説明しますので、本日はこれで失礼します」
追及される前にとミューズはティタンの手を引き中に入る。

ルドやライカもそれに倣い、何も言わずに宿に入った。

「巻き込んでしまって申し訳ありません」
喧騒が収まりようやく息をつく。

「こちらこそ追い返せなくてすまない、体は大丈夫か?」
本当ならミューズに気づかれる前に追い返したかった。

疲れや悩みは良くないと聞いたことがあったからだ。

すぐに椅子に座らせ、休ませる。

「大丈夫です、ありがとうございます」
そう言って微笑んだミューズをティタンは我慢できず抱きしめる。

「ティタン様?」
チェルシー達も見ている中なので、驚いた。

「夫って、愛する人だなんて、そう言ってもらえるとは思っていなかった。あのような大勢の前でそう宣言をしてくれるなんて嬉しい。一度も好意の言葉なども言われたことがなかったから、不安だった」

「そんな事……」
ないと言いかけて記憶を振り返る、

自分は一度でもこの人に好きだという気持ちを伝えただろうか。

いつも恥ずかしさと距離を置く為という事で冷たく当たっていたではないか。

「ごめんなさい」

「謝らないでくれ」
いつも謝らせてばかりだ。

言わせたい事はそうではない。

「俺はただ君と一緒に居たいんだ。愛している」
今度はきちんと正気の時に伝えられた。

耳まで赤くなるのは承知の上だが、抱きしめているのだからミューズからは見えないだろう。

「私も、愛しています」
ミューズはぽろぽろと泣いた。

ようやっと言えた、胸のつかえが取れて心が晴れていく。

気持ちを伝えることと言うのがこんなにも清々しいものなのかと、初めて知ったのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...