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第8話 葛藤(北杜視点)
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卒業の日と同時に入籍する予定なのだが、一向に話しが進められない。
「俺から話しをする」
そう家族に言ったものの、かけらも進められず、苛々していた。
勿論この苛立ちは彼女にではなく、自分の根性のなさにだ。
(もしも本当の気持ちを伝えて拒絶されたら?)
「本当はあなたの事が嫌いなの。でも家の為に仕方なく……」
そう言われたらと思うとどうしても怖くて、踏み込めない。
側にいる事も話すことも許されているし、家族ぐるみでの付き合いも悪くはない。
だがそれ以上深春に近付くことが出来ないのだ。
これ以上近づくのは駄目だと見えない壁を感じてしまう、触れる事や本心を知るような行為が許されていないような、そんな距離感がある。
だが直接嫌いだと言われた事はないので、そこには触れず、側に居させてもらえている事につい甘えてしまっているのだ。
(本当は他に好きな人がいるのでは?)
そんな考えも過ぎって、勝手に架空の男に嫉妬してしまって疲弊することもある。
同じ大学に進学し、同じ会社で働いているので、大体の交友関係は把握しているのだが、自分の見ていない所でそのような者がいてもおかしくないと、暗い思考が掠めるのだ。
出来る事なら誰の目にも触れられない所で二人で過ごしていたいと願う。
好きな人を独占したいという気持ちは誰しもが持つものだろ?
「早く俺のものにしたい……」
それは体だけという事ではない。そこに心が伴わないのであれば意味がないんだ。
いつから深春の、心からの笑顔を見なくなっただろうか。
いつから本音を言われなくなっただろうか。
「はぁ……」
彼女と別れて自宅に帰ってからも、ずっとため息ばかりを吐いてしまう。
やや家族が心配そうな顔をしていたが、「大丈夫」とだけ伝えて早々に部屋に引きこもってしまった。
一歩踏み込む、そんな事が出来ないばかりに落ち込んでしまう。
(俺はこんなにも弱い人間だったのか)
人の上に立つべく教育を受けて来た、人望だってあると思う。
実家には力もあり、苦労らしい苦労もない。女性に声を掛けられた事だって、両手では足りない程だ。
それなのに一人の女性に翻弄されて、しかも尻込みしている。
(本当に自分らしくないな)
そう思うと笑えて来る。
嫌われたくなくて、卑屈になり過ぎて、普段の自分とはまるで違う様がとても無様に思えた。
その時不意にノックの音が聞こえてきた。
「兄貴、入るぞ」
言うが早いか、返事をする間もなくドアが開け放たれた。
「西輝、せめて返事を聞いてからにしろ」
「別にいいだろ」
気にした素振りもなく部屋に入ってきたのは弟の西輝だ。
「また髪の色を変えたのか」
この前は青じゃなかったか? 今はアッシュグレーの色になっている。
メイクを落としていない所を見るに帰ってきたばかりか。
「少し落ち着かせた方がいいかと思ってな。もうすぐ大事な日だろ」
「卒業式まであと少しだもんな」
西輝はデザイン科の大学に通っているのだが、今年で卒業だ。
てっきり式の為にもっと派手にするのかと思ったのだが。
「そっちじゃねぇ。兄貴の入籍日の方だよ」
「そちらの為か。ありがとうな」
しっかりと覚えていたなんて思わなかった。
大学に入り一人暮らしを始めた西輝は、あまり実家に寄りつかなかった。だから、てっきり忘れているものかと思っていたのだ。
俺達の入籍についてなど意識してないと思っていたのだがどうやら違うらしい。
「俺から話しをする」
そう家族に言ったものの、かけらも進められず、苛々していた。
勿論この苛立ちは彼女にではなく、自分の根性のなさにだ。
(もしも本当の気持ちを伝えて拒絶されたら?)
「本当はあなたの事が嫌いなの。でも家の為に仕方なく……」
そう言われたらと思うとどうしても怖くて、踏み込めない。
側にいる事も話すことも許されているし、家族ぐるみでの付き合いも悪くはない。
だがそれ以上深春に近付くことが出来ないのだ。
これ以上近づくのは駄目だと見えない壁を感じてしまう、触れる事や本心を知るような行為が許されていないような、そんな距離感がある。
だが直接嫌いだと言われた事はないので、そこには触れず、側に居させてもらえている事につい甘えてしまっているのだ。
(本当は他に好きな人がいるのでは?)
そんな考えも過ぎって、勝手に架空の男に嫉妬してしまって疲弊することもある。
同じ大学に進学し、同じ会社で働いているので、大体の交友関係は把握しているのだが、自分の見ていない所でそのような者がいてもおかしくないと、暗い思考が掠めるのだ。
出来る事なら誰の目にも触れられない所で二人で過ごしていたいと願う。
好きな人を独占したいという気持ちは誰しもが持つものだろ?
「早く俺のものにしたい……」
それは体だけという事ではない。そこに心が伴わないのであれば意味がないんだ。
いつから深春の、心からの笑顔を見なくなっただろうか。
いつから本音を言われなくなっただろうか。
「はぁ……」
彼女と別れて自宅に帰ってからも、ずっとため息ばかりを吐いてしまう。
やや家族が心配そうな顔をしていたが、「大丈夫」とだけ伝えて早々に部屋に引きこもってしまった。
一歩踏み込む、そんな事が出来ないばかりに落ち込んでしまう。
(俺はこんなにも弱い人間だったのか)
人の上に立つべく教育を受けて来た、人望だってあると思う。
実家には力もあり、苦労らしい苦労もない。女性に声を掛けられた事だって、両手では足りない程だ。
それなのに一人の女性に翻弄されて、しかも尻込みしている。
(本当に自分らしくないな)
そう思うと笑えて来る。
嫌われたくなくて、卑屈になり過ぎて、普段の自分とはまるで違う様がとても無様に思えた。
その時不意にノックの音が聞こえてきた。
「兄貴、入るぞ」
言うが早いか、返事をする間もなくドアが開け放たれた。
「西輝、せめて返事を聞いてからにしろ」
「別にいいだろ」
気にした素振りもなく部屋に入ってきたのは弟の西輝だ。
「また髪の色を変えたのか」
この前は青じゃなかったか? 今はアッシュグレーの色になっている。
メイクを落としていない所を見るに帰ってきたばかりか。
「少し落ち着かせた方がいいかと思ってな。もうすぐ大事な日だろ」
「卒業式まであと少しだもんな」
西輝はデザイン科の大学に通っているのだが、今年で卒業だ。
てっきり式の為にもっと派手にするのかと思ったのだが。
「そっちじゃねぇ。兄貴の入籍日の方だよ」
「そちらの為か。ありがとうな」
しっかりと覚えていたなんて思わなかった。
大学に入り一人暮らしを始めた西輝は、あまり実家に寄りつかなかった。だから、てっきり忘れているものかと思っていたのだ。
俺達の入籍についてなど意識してないと思っていたのだがどうやら違うらしい。
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