義務から始まる恋心、好きと素直に言えなくて

しろねこ。

文字の大きさ
8 / 18

第8話 葛藤(北杜視点)

しおりを挟む
 卒業の日と同時に入籍する予定なのだが、一向に話しが進められない。

「俺から話しをする」
 
 そう家族に言ったものの、かけらも進められず、苛々していた。

 勿論この苛立ちは彼女にではなく、自分の根性のなさにだ。

(もしも本当の気持ちを伝えて拒絶されたら?)

「本当はあなたの事が嫌いなの。でも家の為に仕方なく……」

 そう言われたらと思うとどうしても怖くて、踏み込めない。

 側にいる事も話すことも許されているし、家族ぐるみでの付き合いも悪くはない。

 だがそれ以上深春に近付くことが出来ないのだ。

 これ以上近づくのは駄目だと見えない壁を感じてしまう、触れる事や本心を知るような行為が許されていないような、そんな距離感がある。

 だが直接嫌いだと言われた事はないので、そこには触れず、側に居させてもらえている事につい甘えてしまっているのだ。

(本当は他に好きな人がいるのでは?)

 そんな考えも過ぎって、勝手に架空の男に嫉妬してしまって疲弊することもある。

 同じ大学に進学し、同じ会社で働いているので、大体の交友関係は把握しているのだが、自分の見ていない所でそのような者がいてもおかしくないと、暗い思考が掠めるのだ。

 出来る事なら誰の目にも触れられない所で二人で過ごしていたいと願う。

 好きな人を独占したいという気持ちは誰しもが持つものだろ?

「早く俺のものにしたい……」

 それは体だけという事ではない。そこに心が伴わないのであれば意味がないんだ。

 いつから深春の、心からの笑顔を見なくなっただろうか。

 いつから本音を言われなくなっただろうか。

「はぁ……」

 彼女と別れて自宅に帰ってからも、ずっとため息ばかりを吐いてしまう。

 やや家族が心配そうな顔をしていたが、「大丈夫」とだけ伝えて早々に部屋に引きこもってしまった。

 一歩踏み込む、そんな事が出来ないばかりに落ち込んでしまう。

(俺はこんなにも弱い人間だったのか)

 人の上に立つべく教育を受けて来た、人望だってあると思う。

 実家には力もあり、苦労らしい苦労もない。女性に声を掛けられた事だって、両手では足りない程だ。

 それなのに一人の女性に翻弄されて、しかも尻込みしている。

(本当に自分らしくないな)

 そう思うと笑えて来る。

 嫌われたくなくて、卑屈になり過ぎて、普段の自分とはまるで違う様がとても無様に思えた。

 その時不意にノックの音が聞こえてきた。

「兄貴、入るぞ」

 言うが早いか、返事をする間もなくドアが開け放たれた。

西輝にしき、せめて返事を聞いてからにしろ」

「別にいいだろ」

 気にした素振りもなく部屋に入ってきたのは弟の西輝だ。

「また髪の色を変えたのか」

 この前は青じゃなかったか? 今はアッシュグレーの色になっている。

 メイクを落としていない所を見るに帰ってきたばかりか。

「少し落ち着かせた方がいいかと思ってな。もうすぐ大事な日だろ」

「卒業式まであと少しだもんな」

 西輝はデザイン科の大学に通っているのだが、今年で卒業だ。

 てっきり式の為にもっと派手にするのかと思ったのだが。

「そっちじゃねぇ。兄貴の入籍日の方だよ」

「そちらの為か。ありがとうな」

 しっかりと覚えていたなんて思わなかった。

 大学に入り一人暮らしを始めた西輝は、あまり実家に寄りつかなかった。だから、てっきり忘れているものかと思っていたのだ。

 俺達の入籍についてなど意識してないと思っていたのだがどうやら違うらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

お人形令嬢の私はヤンデレ義兄から逃げられない

白黒
恋愛
お人形のように綺麗だと言われるアリスはある日義兄ができる。 義兄のレイモンドは幼い頃よりのトラウマで次第に少し歪んだ愛情をアリスに向けるようになる。 義兄の溺愛に少し悩むアリス…。 二人の行き着く先は…!?

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

処理中です...