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ほろ酔い
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『ほろ酔い』 会社の同期・洸平×諒。両片想い?のお話。
ガヤガヤと賑やかな飲みの席。久しぶりの居酒屋に気の置けない同僚たちとやって来たのには訳がある。
「いや~まさかお前らが結婚とはなあ!」
中心にいる男女へ和かな笑顔や茶々が降り注ぐ。この度、オレらの同期から夫婦が誕生する事となった。
祝いの席がチェーン店なのは少し気が引けたが、のんびり過ごせるお馴染みの店でもあり夫婦たっての希望でもあった。
「……諒、酒頼むか」
座敷の隅っこに居るオレにまで届く幸せオーラを浴びながら、隣に座る友人へそう声を掛けた。
諒は手に持ったグラスをテーブルに置き、小さく首を振った。
「んーん。まだある。あんがと、こうへー」
普段より柔らかい声音で呼ばれて、心臓が痛くなる程脈打つ。オレより少しだけ低い位置にある顔がほんのりピンクに染まっていて、思わずごくりと喉が鳴る。
「んふふ。いいなぁ。みんなにこにこだ」
ふわふわと酔いが回っているようで少し舌っ足らずに諒が呟いた。
「そうだな。半分くらい辞めたオレらの同期から、まさかカップルどころか夫婦が生まれるとはな」
新卒で入ったこの会社は、とにかく忙しい。どの部署も繁忙期はゾンビのような顔で出勤する人だらけで、でもその分達成感も得られる良い会社だとオレは感じていた。決してブラックでは無いが成長中の業界でもあるからか、絶えず仕事に追われているのはなかなか大変ではあるが。
そのせいなのかは不明だが恋人が居るとか結婚するなんて話もあまり聞かなかったので、今回の結婚発表はとても喜ばしい話題となって同期中を駆け巡った。
「……オレらもいつか結婚とかすんのかな」
特に深い意味もなく呟いた言葉に、絶賛片想い中のオレは自らダメージを負ってしまう。
隣に座る想い人は、相変わらず笑顔で周りを見渡していた。
ふとその視線がオレへと注がれ、図らずも見つめ合ってしまう。
「結婚、こうへいは、してーの?」
頬と同じくらい紅く染まった諒の唇がゆっくり動く様を眺める。
エロい、とは言えず、オレは誤魔化すように適当に返した。
「まぁいつかはするのかなってだけ。しなくたって良い時代だしな」
オレの言葉に唇をきゅっと結んだ諒は、視線を外してグラスへ手を伸ばした。アルコールが薄くなった中身を少し飲んで、彼はゆっくり頭をもたれかけてきた。
肩に頬が触れ、腕がくっ付いて。何がどうなっているのか分からずオレは周りを伺ってから小さく声を掛ける。
「りょ、りょう?どうした。酔ったか」
情けないくらい震えた声に、諒がゆっくりゆっくり首を振った。
縦に動いたように感じ、酔ったと肯定したらしかった。
「よった。……洸平も、酔っただろ」
そんな風に言われて、彼が何を考えているのかますます分からなかった。
「おれら酔ってるから、忘れちゃうよな……?」
見上げてきた瞳がいっぱいの水分を湛えて、今にも溢れそうだと思った。
彼は何度か瞬きをしてから、甘く甘く囁いた。
「おれは、洸平と、けっこんしたい」
END.
ガヤガヤと賑やかな飲みの席。久しぶりの居酒屋に気の置けない同僚たちとやって来たのには訳がある。
「いや~まさかお前らが結婚とはなあ!」
中心にいる男女へ和かな笑顔や茶々が降り注ぐ。この度、オレらの同期から夫婦が誕生する事となった。
祝いの席がチェーン店なのは少し気が引けたが、のんびり過ごせるお馴染みの店でもあり夫婦たっての希望でもあった。
「……諒、酒頼むか」
座敷の隅っこに居るオレにまで届く幸せオーラを浴びながら、隣に座る友人へそう声を掛けた。
諒は手に持ったグラスをテーブルに置き、小さく首を振った。
「んーん。まだある。あんがと、こうへー」
普段より柔らかい声音で呼ばれて、心臓が痛くなる程脈打つ。オレより少しだけ低い位置にある顔がほんのりピンクに染まっていて、思わずごくりと喉が鳴る。
「んふふ。いいなぁ。みんなにこにこだ」
ふわふわと酔いが回っているようで少し舌っ足らずに諒が呟いた。
「そうだな。半分くらい辞めたオレらの同期から、まさかカップルどころか夫婦が生まれるとはな」
新卒で入ったこの会社は、とにかく忙しい。どの部署も繁忙期はゾンビのような顔で出勤する人だらけで、でもその分達成感も得られる良い会社だとオレは感じていた。決してブラックでは無いが成長中の業界でもあるからか、絶えず仕事に追われているのはなかなか大変ではあるが。
そのせいなのかは不明だが恋人が居るとか結婚するなんて話もあまり聞かなかったので、今回の結婚発表はとても喜ばしい話題となって同期中を駆け巡った。
「……オレらもいつか結婚とかすんのかな」
特に深い意味もなく呟いた言葉に、絶賛片想い中のオレは自らダメージを負ってしまう。
隣に座る想い人は、相変わらず笑顔で周りを見渡していた。
ふとその視線がオレへと注がれ、図らずも見つめ合ってしまう。
「結婚、こうへいは、してーの?」
頬と同じくらい紅く染まった諒の唇がゆっくり動く様を眺める。
エロい、とは言えず、オレは誤魔化すように適当に返した。
「まぁいつかはするのかなってだけ。しなくたって良い時代だしな」
オレの言葉に唇をきゅっと結んだ諒は、視線を外してグラスへ手を伸ばした。アルコールが薄くなった中身を少し飲んで、彼はゆっくり頭をもたれかけてきた。
肩に頬が触れ、腕がくっ付いて。何がどうなっているのか分からずオレは周りを伺ってから小さく声を掛ける。
「りょ、りょう?どうした。酔ったか」
情けないくらい震えた声に、諒がゆっくりゆっくり首を振った。
縦に動いたように感じ、酔ったと肯定したらしかった。
「よった。……洸平も、酔っただろ」
そんな風に言われて、彼が何を考えているのかますます分からなかった。
「おれら酔ってるから、忘れちゃうよな……?」
見上げてきた瞳がいっぱいの水分を湛えて、今にも溢れそうだと思った。
彼は何度か瞬きをしてから、甘く甘く囁いた。
「おれは、洸平と、けっこんしたい」
END.
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