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同僚のおまえと俺
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会社員 同期×同期
「お!ナカモじゃん!」
そう呼び掛けながら俺は同僚の仲元に手を挙げて見せた。
案の定少し眉を顰めてあだ名で呼ぶなと怒られる。彼はそのクールな見目に合った中身を持ち合わせていて、気を許した友人の前だとより顕著になる。以前そう本人から聞かされてから、この少し冷たい表情すら可愛く思えているので俺は単純だ。
「んはは、なかもと!久しぶりじゃね?」
「そうだな。最近忙しくて同期飲みも無かったし」
隣に並んでなんとはない会話を続けながら社員通用口を通り抜ける。外は少し薄暗くなっているが、まだ昼間の暑さが残っていた。
「……なんか用事あるのか」
このまま駅まで一緒に帰るもんだと思ってたので、そう言われて驚いてしまう。
「え、ない。でも一緒に帰りたい」
素直にそう伝えると、仲元はパッと目を見開いて驚いたような表情を見せた。
表情があまり変わらない彼のこんなところが好きなんだ。
俺は改めて仲元の顔を見上げながらそう思った。
「ガキかよ」
小さく呟いた仲元はそれでも歩を緩めて俺に合わせるよう隣に並んでくれた。なんだかんだ文句は言うけど、優しいんだよな。
深い意味など無いだろう彼の行動に、それでも俺は嬉しくなってしまう。
「んふ。いーじゃん!久しぶりなんだしさ!あ、そーいや仲元んとこ派遣さん来たって?」
「あぁ。めちゃくちゃ仕事出来るから、多分社員になるんじゃないか」
何でもない会話が途切れないのも嬉しい。特別なんて一つも無い。でもそれが、大事にすべき“トクベツ”なんだって俺は知ってる。
学生時代の甘酸っぱいアレコレを思い出して胸が苦しくなりかけた瞬間、俺の肩に衝撃が走った。
「って!?」
「すんません」
浮かれた俺はすれ違いざまに誰かとぶつかってしまったらしく、小さく謝罪の声が聞こえた。慌てて少し振り向いてこちらも謝ったが、その誰かに届いたかは不明だ。
「おい、こっち歩け」
「え?わ!な、んだよ……っ」
仲元の声が少し怒ってるみたいに響いて慌てて彼を見上げる。そうしてる間に彼に腕を引かれて壁側へと移動させられてしまった。
車道側を歩いて守ってくれるなんてそれこそ中高生みたいだと思いつつも、ジワジワと胸に喜びが広がっていく。
「気を付けろ」
また小さく呟いた仲元は、難しい顔をして俺をチラリと見やった。
「ん。ごめん。ありがとな」
優しい彼は、きっと自分のせいだとでも思ってるんだろう。後悔が表情にありありと乗っていて思わず笑いそうになる。
可愛いな。優しい仲元が、俺は好きだぞ。
絶対言えない分、俺は心でそう囁いた。
「……なんか食ってくか」
顔を伏せた俺に、仲元は小さく小さく呟いた。
「うん!ラーメンがいい!!」
「うるせえ。声デカいんだよ、バカ」
俺の気持ちは一方通行だけど、それで良い。きっと理解して貰えないから。
でもそんな決意も揺らぐほど、おまえは優しくて。
優しさに理由なんて無いと思ってたけど、そうじゃないと知るのはラーメンの後になる。
END.
「お!ナカモじゃん!」
そう呼び掛けながら俺は同僚の仲元に手を挙げて見せた。
案の定少し眉を顰めてあだ名で呼ぶなと怒られる。彼はそのクールな見目に合った中身を持ち合わせていて、気を許した友人の前だとより顕著になる。以前そう本人から聞かされてから、この少し冷たい表情すら可愛く思えているので俺は単純だ。
「んはは、なかもと!久しぶりじゃね?」
「そうだな。最近忙しくて同期飲みも無かったし」
隣に並んでなんとはない会話を続けながら社員通用口を通り抜ける。外は少し薄暗くなっているが、まだ昼間の暑さが残っていた。
「……なんか用事あるのか」
このまま駅まで一緒に帰るもんだと思ってたので、そう言われて驚いてしまう。
「え、ない。でも一緒に帰りたい」
素直にそう伝えると、仲元はパッと目を見開いて驚いたような表情を見せた。
表情があまり変わらない彼のこんなところが好きなんだ。
俺は改めて仲元の顔を見上げながらそう思った。
「ガキかよ」
小さく呟いた仲元はそれでも歩を緩めて俺に合わせるよう隣に並んでくれた。なんだかんだ文句は言うけど、優しいんだよな。
深い意味など無いだろう彼の行動に、それでも俺は嬉しくなってしまう。
「んふ。いーじゃん!久しぶりなんだしさ!あ、そーいや仲元んとこ派遣さん来たって?」
「あぁ。めちゃくちゃ仕事出来るから、多分社員になるんじゃないか」
何でもない会話が途切れないのも嬉しい。特別なんて一つも無い。でもそれが、大事にすべき“トクベツ”なんだって俺は知ってる。
学生時代の甘酸っぱいアレコレを思い出して胸が苦しくなりかけた瞬間、俺の肩に衝撃が走った。
「って!?」
「すんません」
浮かれた俺はすれ違いざまに誰かとぶつかってしまったらしく、小さく謝罪の声が聞こえた。慌てて少し振り向いてこちらも謝ったが、その誰かに届いたかは不明だ。
「おい、こっち歩け」
「え?わ!な、んだよ……っ」
仲元の声が少し怒ってるみたいに響いて慌てて彼を見上げる。そうしてる間に彼に腕を引かれて壁側へと移動させられてしまった。
車道側を歩いて守ってくれるなんてそれこそ中高生みたいだと思いつつも、ジワジワと胸に喜びが広がっていく。
「気を付けろ」
また小さく呟いた仲元は、難しい顔をして俺をチラリと見やった。
「ん。ごめん。ありがとな」
優しい彼は、きっと自分のせいだとでも思ってるんだろう。後悔が表情にありありと乗っていて思わず笑いそうになる。
可愛いな。優しい仲元が、俺は好きだぞ。
絶対言えない分、俺は心でそう囁いた。
「……なんか食ってくか」
顔を伏せた俺に、仲元は小さく小さく呟いた。
「うん!ラーメンがいい!!」
「うるせえ。声デカいんだよ、バカ」
俺の気持ちは一方通行だけど、それで良い。きっと理解して貰えないから。
でもそんな決意も揺らぐほど、おまえは優しくて。
優しさに理由なんて無いと思ってたけど、そうじゃないと知るのはラーメンの後になる。
END.
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