石川メアの異世界召喚術式作製法

所為堂篝火

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XX.第一回異世界召喚術式作製会議

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「「やったぁ! 希実枝ちゃんセレクションだぁ!」」

 お菓子の箱を前に時緒と燐華は顔を見合わせて歓喜する。

「なんですか? それは」

「メアちゃんの東京の友達の希実枝ちゃんって子が送ってくるお菓子だよぉ。わたしと燐華ちゃんはまだ会ったことがないんだけどね、すっごく美味しいお菓子ばっかりなの!」

「さっすが、東京って感じだよな!」

「ちょっと、余計なこと言わないでよ、あんたたち」

「その希実枝さんという方とメアさんは、つまり仲良しなのですか?」

「仲良しなんじゃない? いつもお菓子くれるし」

 燐華がお菓子を頬張りながら特に考えもしていない様子で適当に答える。

「えーわたしたちより仲良しなのぉー?」

 それを受けて時緒がお菓子を頬張りながら嘆いた。

「その前に何であんたたちとわたしが仲良しの前提になってるのよ」

「え? 違うの?」

 燐華は面を上げ、心底わからないといった表情を向ける。

「あんたたちは下僕でしょ!」

「じゃあさ、仲良し下僕ってことで!」

「それどんな関係よ」

「いいもーんだ。わたし、ユウリちゃんと仲良くするもーん。ねぇユウリちゃん? メアちゃんとのさっきの続き、わたしとしよー」

 時緒はそう言いながら席を立つと、ユウリの背後から絡みついた。

「時緒さんは…………なんだかそこはかとない恐怖を感じますので嫌です」

 ユウリはキッパリとそれを拒絶する。

「がーん!!」

 時緒はこの世の終わりを目の当たりにしたかのような表情でその場に崩れ落ちた。

「はいはい、お馬鹿はその辺にして早く始めたら?」

 メアはパンパンと手を叩き、時緒を席に戻すと本題に入るよう促した。

 そう、今日は異世界に行く為の作戦会議で集まったのである。無論メアは全く乗り気ではない。時緒たちを満足させ、さっさとこの茶番を終わらせたいという気持ちでしかなかった。

 ある程度付き合って、そのうち無理だとわかれば流石の時緒でも大人しく諦めるであろうという算段であった。

「確か、てってけてー島っていう島を探すんだよねー」

「「…………」」

「アンティキテラ島ね」

 時緒語の理解に苦しむ二人をよそに、メアはいち早く解読して話を進める。

 アンティキテラ島。
 ペロポネソス半島とクレタ島との間に位置する地中海上の島。

 それは既にメアの中に知識として刻まれていた。

「そうそう、そのちっちきちー島の――」

「違うよとっきー、ってあれ? ぺっぺけぺー島だっけ?」

 だがメアのアシスト虚しく一向に話が進まない。

「あの皆さん、真剣にお願いします。その、あんてぃきてぃー島を――」

「あんたもつられんな。アンティキテラ島だっつってんでしょ」

 まずい、本題に入る前に精神的摩耗がピークを迎えそうだ。メアは三人の様子を前にそう危惧した。

「では気を取り直しまして、まず異世界へ渡る為の魔術は術式を組むだけでは足りません。この魔術の行使にはある程度の魔術の源が必要になります。ただ、前回申し上げた通り、この世界にはわたしたちの世界のようなフラクタが存在しません。ですが、わたしの読んだ文献によると、とあるタイミングに合わせて正確に術式を発動することにより、この世界でも異世界召喚魔術が可能となるそうです。そしてそのタイミングを合わせる為にはアンティキテラ島という島に存在するとある特別な計算機が必要とありました」

 時緒は何やら得心がいったように「ふんふん」と鼻を鳴らしながら頷いているが、メアはその様子を眺めながら、「が絶対理解していない。賭けても良い」と内心呆れていた。燐華はというと表情を確認する限り早くも飽き気味だ。

「あんた、前から文献文献って言ってるけど、それ単なるコンビニ雑誌でしょ?」

「ええ、実は一冊購入して現物を持ってきています」

 そう言うと、ユウリは鞄の中を漁り、教科書の中から一冊の雑誌を取り出した。

 雑誌のタイトルは「都市伝説&オーパーツ百選。未だに解明されないこの世の不思議」とある。メアは案の定だと額を抑えながらも、ユウリの雑誌を取る手がまるで本物の貴重な文献を扱うようなうやうやしい手つきであることに若干の苛立ちを覚えた。

「このような重要文献が何冊も無造作に売られているこの世界に戦慄を覚えます」

「あんたのその思考に戦慄を覚えるわよ」

 ユウリは雑誌をパラパラと捲ると、とあるページを開いて止める。

 そこにはこうある。「ヴォイニッチ手稿」。

 大げさなキャッチコピーやいかにも胡散臭い雑誌に相応しいような仰々しい表現での説明が羅列されているが、要約するとつまりこうだ。

 『ヴォイニッチ手稿』別名ヴォイニック写本。1912年にイタリアで発見されたとある古文書。そこに書かれている文字は世界のあらゆる言語とも違う奇怪なもので現在まで判別できておらず、その内容は謎に包まれている。加えて内容は愚か、その執筆時期やどのような分野に属する書物なのかさえ明らかにされておらず、薬草学、錬金術の書等々、様々な予想がされているが、いずれも憶測の域を出ない。現在までに様々な研究者が解読を試みたが、未だにその真意を知る者はいない。

 挿絵として載せてあるのは、奇怪な文字のようなもので埋められた古そうな紙片だ。文字だけではなく、奇妙な植物や花のような絵もいくつか描かれている。

「なにこれ?」

「これはわたしの世界の古い文字です。わたしの世界の人間はこういった古文を学ぶ機会はそうそう無いのですが、わたしはここに来る前に独学で学んでいた為、何とか解読することができました。このページは全体のごく一部ですが、恐らくそのわたしたちの世界からこの世界渡った魔術師が残した手記でしょう。様々な魔法について書かれている筈ですが、このぺージでは異世界召喚の術式について説明しています」

「で? で? その方法は? 何て書いてあるの?」

 時緒は待ちきれない様子でユウリに詰め寄った。

「残念ながらこのページでは異世界召喚術式の言わば概要のようなことが書かれているのみで、細かい方法はまた別のページに記載がある筈です。概要によると異世界召喚に必要なものは三つの触媒となる素材、それと先程申し上げた正確なタイミングが必要のようです」

「それで前回アンティキテラ島を目指すとか何とかのたまっていたわけね」

「じゃあいつ行く? 来週の日曜はみんな暇?」

 時緒は携帯電話を取り出し、耳に当てながら皆に予定を伺った。

「やめなさい」

「あう!」

 メアは時緒の首筋に渾身の手刀をお見舞いし、突発的な地中海行き旅行を阻止する。

「そもそもその材料が何なのかさえわからないんでしょ? 行くならせめてその材料を実際に見つけることができるってわかってからにしてよ」

 元より本気ではないメアだが、訳もわからないうちに地中海まで引っ張り出されては堪らないと、何とか別の道筋を立てる。勿論、材料が見つかったところで地中海へ駆り出されるつもりは毛頭ない。

「でもさメア、そのページしか載ってないんでしょ?」

 既に飽きてしまった燐華は都市伝説&オーパーツ百選の別のページに目を遣っていた。

「そんなぁー」

 落胆し、目に涙を浮かべる時緒。それを見てメアは一度嘆息すると、徐に自身のスマホを取り出し慣れた手つきで操作する。

「ほら、見てみなさい」

 メアのスマホ画面にはネットのブラウザが立ち上がっており、そこにはヴォイニッチ手稿の別ページが公開されていた。

「メアさん、凄いです……」
「メア、やるじゃん」
「メアちゃんすごーい!」

 ただネットで検索しただけなのだが、三人からの尊敬の眼差し受けてメアはまんざらでもない様子で「ふん」と鼻を鳴らした。

「メアさん、ちょっと良いですか?」

 ユウリはメアからスマホを受け取ると、おぼつかない手つきで操作し、内容を確認する。しばし神妙な面持ちで手記に書かれている奇怪な文字と図を眺めると、

「すみません、すぐには難しそうです……少しのあいだ解読に専念したいのですが……」

 と言い辛そうに口を開いた。

「ああそうか、あんた、携帯とか持ってないもんね」

「問題ナッシング!」

 時緒は素早く自身の鞄から小型のタブレット型PCを取り出すと、ユウリに渡した。それは時緒が普段オンラインゲームをやる為だけに親のクレジットカードで購入したものだった。

「これネット繋がってるから、貸してあげるね」

 ついでにポケットタイプのwifiルーターもユウリに手渡した。

「あんた散々勉強サボるクセにこんなもの買ってたのね」

 それを見てメアは時緒に批判的な眼差しを送る。

 その日の残り時間は時緒がユウリに対しタブレット型PCの使用方法をレクチャーすることで終わった。

 使用方法のレクチャーの筈がいつしかタブレット型PCにダウンロードされているオンラインRPGのレクチャーに変わっていたが、真面目にこの件に取り合う気のないメアは無視した。
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