43 / 46
XLII.DQN come into CPL
しおりを挟む
「ねぇ、どういうつもりなの?」
全く予想だにしない総長の快諾に騒ぎ立てる少年たちを余所に、メアはユウリの手を無理矢理引き額を寄せると、小声でそう問い詰めた。
「『何でも』と仰っていたので、このようなお願いの方が今後何かあった時に継続的に色々と協力を得られるかと思いまして。良い考えだと思ったのですが、何か問題でしたか?」
「大問題よ! 勝手にわたしを巻き込まないで! ったく、良い? 幼児向けの物語でね、魔法で三つの願い事を叶えてやるっていう魔人が『〝願い事を四つにしろ〟っていうのはナシだ』って念押しするシーンがあるんだけどね、どうしてだと思う? あんたみたいな屁理屈捏ねてのズルをしようとする卑しいやつがいるからよ!」
「メアさん……魔法は――」
「だぁー! もう! わかってるわよ! どうせ魔法じゃあ願い事を何でもは叶えられないって言いたいんでしょ? 例え話よ! バカ!」
「はぁ……」
「おい、お前ら」
全く反省の見えないユウリの様子にメアが徐々にヒートアップし始めたところで、久世が二人に声を掛ける。
「お前らのアホみたいな願いを快諾した手前だが、今日はもう遅いだろ。送ってってやるよ」
「良いわよ! 別に! …………って、しまった!」
言いながらメアが辺りを確認すると既に日が落ち、薄暗くなっていた。戸が外れ、必要以上に通気性の良い入口からも明かりはほとんど差し込まず、ガラステーブルに置かれた少年たちが用意したであろう簡易的なライトの灯りでどうにか視界を保っているのみである。
目まぐるしい展開にすっかり感覚が麻痺していたメアは、この時になってことの重大さに気付き、胸を突かれた思いで携帯の時間を確認すると既に寮の門限を過ぎていた。
先程の窮地とはまた違った種類の汗がメアのこめかみを這った。
まずい、このままでは寮長からお叱りを受ける。それは常に己の有能さを周りに知らしめてきたメアからするとあってはならないことであった。そしてメアが戻らないことを心配した寮側が親や警察に連絡を取ってしまうこと、それは前述以上に深刻な問題だ。
「い、急ぐわよ!」
「ですがメアさん、材料探しの方は……」
「そんなのまた今度に決まってるでしょぉ! バカなの!?」
「まあ、正直事情の方は気になるが……、ほれ」
久世は室内に積まれたガラクタの中から薄汚れたバイクのヘルメットを二つ取り出すと、メアとユウリに向かって放り、
「バイク、乗っけてやる。今日のとこは帰んな」
そう言ってスタスタと廃墟の外へ歩き出してしまった。
「ばいく……先程の高速移動を可能とした魔道具でしょうか? 興味深いです……」
ユウリはそう囁くように独り言つと、久世の後を追ってしまう。
「え!? ちょっと待って!」
メアが二人を追い敷地の外に出る頃には、ユウリは先程渡されたヘルメットを被り、久世がエンジンを吹かすバイクの後部席に跨っていた。
他の少年たちも次第に集まり、各々まばらにバイクのキーを回す。静かな薄闇の中、マフラーから吐き出される忙しないエンジン音が四方八方響き渡る。
「マサ! そっちの眼鏡っ娘はお前んとこ乗っけてやれ!」
「うっす!」
「何勝手に話し進めてんのよ! 乗るわけないでしょぉ! こんなとこ誰かに見られでもしたらどう説明すんのよ!」
「ですがメアさん、面白そ…………急いだ方が良いのでは?」
「あ、あんた今! 絶対面白そうって言いかけた!」
「別に歩くってんなら無理は言わねぇぞ! 乗るなら早くしな!」
久世が最終判断を乞うようにメアに声を投げかける。メアの思考は纏まらずにいたが、この薄闇の中を一人帰るのは心許ない。それ以上にこうして迷っているあいだにも着実に騒ぎになる確率が上がって行く。事ここに至っては仕方がない。
「ああもうっ! わかったわよ!」
メアは埃っぽいヘルメットを乱暴に被るとマサのバイクに跨った。
少年たちと別れ、寮の入口に着くと、寮長であるふくよかな中年女性が呆れ顔で出迎えた。
「ああ、あなたたち。良かったわ」
「すみませんでした……」
「石川さんに能登さん、あなたたちは普段真面目だから大目に見るけど、遅れる時は連絡頂戴ね? 石川さんは携帯電話、持ってるんでしょ?」
「はい、すみません……」
「もういいわ。ほら夕飯、もう終わっちゃったけど、温め直してあげるからいらっしゃい」
メアとユウリは寮長の女性に促されるまま、食堂室へ向かい二人で夕食をとった。
以外にも何事もなく済んでくれたことにメアは安堵する共に、多少そのことが不可解だとも感じたが、食堂に備え付けられた時代遅れのブラウン管テレビから流れるニュースを見て納得する。
ニュースではこの界隈で多発していた未成年少女を狙った事件の犯人が無事捕まったことを報じていた。幸いにもその報道がもたらした安心感が親や警察に知らせるといった判断を僅かに遅らせてくれていたようだ。
メアとユウリは遅めの夕食もそこそこに風呂を済ませると、それぞれ自室に戻った。
例の緋龍を名乗る少年たちのリーダーからはユウリが連絡先である携帯電話番号のメモを受け取っており(※メアが携帯電話番号を交換することを頑なに拒んだ為)、後日約束を取り付けることになっていた。
まだ例の少年たちが手掛かりとなるかは確定ではないが、これでユウリの主張する魔法の材料が揃うのにあと一歩というところまで来たことになる。
今後味わうであろう懊悩に溜息しか出ないメアであったが、今日のところは全てを忘れ去り、眠ることにした。
だが、その前にとメアはとある人物に電話を掛けた。
『はい、どちら様でしょう』
電話に出た相手はやけに神妙な声色でそう尋ねる。
「…………。わたしよ」
『嘘よ!』
「は?」
『これが俗に言う「わたしわたし詐欺」ね! 騙されないわよ!』
電話の相手、希実枝は未だ信じられない様子であからさまに取り乱す。
「だからわたしよ。ってか、携帯に登録名表示されてるでしょ?」
『そ、そんなメアちゃんに似せた声だからって! た、確かにわたしが登録しておいた「ラブリーマイスイートめあたん」って表示されてるけれど! けれども!』
「何よそのふざけた登録名。今すぐ変えなさいよ」
『ああっ! その麗しくもナイフで心臓を抉るような冷たいお声はまさしくわたしのメアたん! これが噂に聞くドッペルメアちゃん?』
「何そのピンポイントな都市伝説」
『メアちゃんなのね? 本当に本当のメアちゃんなのね? はぁっはぁっ……』
希実枝はあまりの衝撃に何らかの発作に苛まれているようであった。
「ねぇ希実枝?」
『ちょっと待って、今奇跡が起こってる……。メアちゃんから連絡してくるなんて……。はぁっはぁっ……えほっ! げほっげほっ! おぇっほ! おえっ!』
「…………。キモイからやっぱ切るね」
『ちょっと待ってメ――ブツっ!』
希実枝の縋るような声虚しく、メアは電話を切った。
メアは思い返せば自から希実枝に電話をしたことがなかったということを考えながら、気を紛らわせようと間違った対処法を取ってしまったことを反省した。
それもこれも疲れている所為。メアは改めて今度こそ大人しくベッドに入った。
* * *
翌日。メアはその日の授業を十全にこなし、早くも最後のHRの時間。前回余計なことばかり考えてしまい悩乱の果てにユウリから助けられるといった苦い経験をしただけに、メアの集中力はいつにも増して卓抜さを披露していた。だが、その分疲労感がいつもの何倍にもなってしまったのが考えものでもあった。
HRでは昨晩ニュースで聞いた事件解決のこと、また、この学校の女子生徒が痴漢被害にあったという話題が担任篠原の口から出た。
通例通り全く関心のない様子で終わりを待つクラスメイトたちの中で、メアはくだらない大人と危機感皆無の愚かな子供ばかりのこの世界に憤懣し顔をしかめる。
五月に入り文化祭の準備も本格的になってきてはいたが、メアは全くと言って良い程協力的ではなかった。その様子に陰で不満を漏らす者も中にはいたが、当のメアは「協力的なら協力的でどうせ疎む癖に」と意に介さずにいた。
「メアさん」
メアが鞄を机に乗せ、だが帰り支度をするでもなく文化祭準備を手伝うでもなく、疲労感から呆けているとユウリから声を掛けられる。返事はせず、代わりに感情のない視線を向けた。
「昼休みのあいだに学校の公衆電話で例のふりょーのリーダーさんと連絡を取りまして、本日集まって頂けることになったのですが、メアさんは予定大丈夫でしょうか?」
「ええ、まぁ……。で? どこ?」
メアは曖昧に返すと、詳細を促す。
「秘密基地です。燐華さんと時緒さんにも連絡しておきましたから先に向かって頂けている筈です」
「ばっ!!」
メアは息を呑み、机からガタンと立ち上がった。完全に意識は覚醒し、剣呑な目付きでユウリを睨む。
やや遅れてクラス中がメアに注目していることに気が付き、慌てて教科書やノートの類を無理矢理鞄に詰め込むとユウリの手を引いて教室を後にした。
ユウリは半ば引きずられるような形でメアと共に校舎を出たが、自身は何がメアの逆鱗に触れてしまったのかわからずにいた。
「め、メアさん。どうしたんです?」
校門を出た所でユウリが問うと、メアはようやくその手を跳ね除けるようにユウリから離した。
「バカぁ!」
メアは改めてそう怒鳴ると、ユウリの頬をつねり上げる。
「あわわわわ、メアふぁん、まだ謝ってないでふ……」
「うっさい! 何考えてんの? ええ何も考えていないんでしょうね! 万死に値するわよ! よりにもよってあの場所に、しかも燐華と時緒まで一緒に集めるだなんて! DQN共をCPL共の巣窟に解き放つようなこと、こんなの面倒ごとしか起きないじゃないの! え? わかってる?」
「ふぁかりまふぇん」
「でしょうね!!」
メアはさらに頬をつねる手に力を込めた。ユウリは肩から鞄を落とし、痛みに手をバタつかせた。
劇薬に劇薬を注ぐようなものだ。どんな危険な化学反応が起こるのかわかったものではない。ようやく解放されほのかに赤くなった頬をさすりながら未だ困惑の表情を向ける元凶を横目に、メアは苦悶から頭を抱えた。
「で、でもメアさん。もう連絡してしまいましたし……その、どう……します?」
「急いで行くに決まってるでしょ! ほら! ダッシュ!」
「はい」
メアが走り出すとすぐにユウリが物凄いスピードで追い抜いて行った。
「待った! 待った! やっぱダッシュはなし! 速いのよ! あんたっ!」
秘密基地、もとい怪しげな絵本屋「廃屋のリーヴルディマージュ」の扉の前に辿り着く頃にはメアの手はじっとりと汗ばんでいた。それが走ったことによる汗だけでないことは明白だ。先回りできるかもしれないという淡い期待は、敷地の外に停められた見覚えのあるバイクが目に入った瞬間に打ち砕かれた。
一度深呼吸をし意を決すると、メアは一息にその無駄に重たい扉を開いた。
「おねーさん絶対美人っしょ! ねぇねぇもっと良く顔を見せてよー」
まず最初に飛び込んできた光景を目の当たりにしてメアは言葉を失い、鞄を地面に落とした。
「ねぇーおねーさんってばぁー」
眼前で、不良グループのリーダー久世が哲学的幽霊をナンパしていた。
全く予想だにしない総長の快諾に騒ぎ立てる少年たちを余所に、メアはユウリの手を無理矢理引き額を寄せると、小声でそう問い詰めた。
「『何でも』と仰っていたので、このようなお願いの方が今後何かあった時に継続的に色々と協力を得られるかと思いまして。良い考えだと思ったのですが、何か問題でしたか?」
「大問題よ! 勝手にわたしを巻き込まないで! ったく、良い? 幼児向けの物語でね、魔法で三つの願い事を叶えてやるっていう魔人が『〝願い事を四つにしろ〟っていうのはナシだ』って念押しするシーンがあるんだけどね、どうしてだと思う? あんたみたいな屁理屈捏ねてのズルをしようとする卑しいやつがいるからよ!」
「メアさん……魔法は――」
「だぁー! もう! わかってるわよ! どうせ魔法じゃあ願い事を何でもは叶えられないって言いたいんでしょ? 例え話よ! バカ!」
「はぁ……」
「おい、お前ら」
全く反省の見えないユウリの様子にメアが徐々にヒートアップし始めたところで、久世が二人に声を掛ける。
「お前らのアホみたいな願いを快諾した手前だが、今日はもう遅いだろ。送ってってやるよ」
「良いわよ! 別に! …………って、しまった!」
言いながらメアが辺りを確認すると既に日が落ち、薄暗くなっていた。戸が外れ、必要以上に通気性の良い入口からも明かりはほとんど差し込まず、ガラステーブルに置かれた少年たちが用意したであろう簡易的なライトの灯りでどうにか視界を保っているのみである。
目まぐるしい展開にすっかり感覚が麻痺していたメアは、この時になってことの重大さに気付き、胸を突かれた思いで携帯の時間を確認すると既に寮の門限を過ぎていた。
先程の窮地とはまた違った種類の汗がメアのこめかみを這った。
まずい、このままでは寮長からお叱りを受ける。それは常に己の有能さを周りに知らしめてきたメアからするとあってはならないことであった。そしてメアが戻らないことを心配した寮側が親や警察に連絡を取ってしまうこと、それは前述以上に深刻な問題だ。
「い、急ぐわよ!」
「ですがメアさん、材料探しの方は……」
「そんなのまた今度に決まってるでしょぉ! バカなの!?」
「まあ、正直事情の方は気になるが……、ほれ」
久世は室内に積まれたガラクタの中から薄汚れたバイクのヘルメットを二つ取り出すと、メアとユウリに向かって放り、
「バイク、乗っけてやる。今日のとこは帰んな」
そう言ってスタスタと廃墟の外へ歩き出してしまった。
「ばいく……先程の高速移動を可能とした魔道具でしょうか? 興味深いです……」
ユウリはそう囁くように独り言つと、久世の後を追ってしまう。
「え!? ちょっと待って!」
メアが二人を追い敷地の外に出る頃には、ユウリは先程渡されたヘルメットを被り、久世がエンジンを吹かすバイクの後部席に跨っていた。
他の少年たちも次第に集まり、各々まばらにバイクのキーを回す。静かな薄闇の中、マフラーから吐き出される忙しないエンジン音が四方八方響き渡る。
「マサ! そっちの眼鏡っ娘はお前んとこ乗っけてやれ!」
「うっす!」
「何勝手に話し進めてんのよ! 乗るわけないでしょぉ! こんなとこ誰かに見られでもしたらどう説明すんのよ!」
「ですがメアさん、面白そ…………急いだ方が良いのでは?」
「あ、あんた今! 絶対面白そうって言いかけた!」
「別に歩くってんなら無理は言わねぇぞ! 乗るなら早くしな!」
久世が最終判断を乞うようにメアに声を投げかける。メアの思考は纏まらずにいたが、この薄闇の中を一人帰るのは心許ない。それ以上にこうして迷っているあいだにも着実に騒ぎになる確率が上がって行く。事ここに至っては仕方がない。
「ああもうっ! わかったわよ!」
メアは埃っぽいヘルメットを乱暴に被るとマサのバイクに跨った。
少年たちと別れ、寮の入口に着くと、寮長であるふくよかな中年女性が呆れ顔で出迎えた。
「ああ、あなたたち。良かったわ」
「すみませんでした……」
「石川さんに能登さん、あなたたちは普段真面目だから大目に見るけど、遅れる時は連絡頂戴ね? 石川さんは携帯電話、持ってるんでしょ?」
「はい、すみません……」
「もういいわ。ほら夕飯、もう終わっちゃったけど、温め直してあげるからいらっしゃい」
メアとユウリは寮長の女性に促されるまま、食堂室へ向かい二人で夕食をとった。
以外にも何事もなく済んでくれたことにメアは安堵する共に、多少そのことが不可解だとも感じたが、食堂に備え付けられた時代遅れのブラウン管テレビから流れるニュースを見て納得する。
ニュースではこの界隈で多発していた未成年少女を狙った事件の犯人が無事捕まったことを報じていた。幸いにもその報道がもたらした安心感が親や警察に知らせるといった判断を僅かに遅らせてくれていたようだ。
メアとユウリは遅めの夕食もそこそこに風呂を済ませると、それぞれ自室に戻った。
例の緋龍を名乗る少年たちのリーダーからはユウリが連絡先である携帯電話番号のメモを受け取っており(※メアが携帯電話番号を交換することを頑なに拒んだ為)、後日約束を取り付けることになっていた。
まだ例の少年たちが手掛かりとなるかは確定ではないが、これでユウリの主張する魔法の材料が揃うのにあと一歩というところまで来たことになる。
今後味わうであろう懊悩に溜息しか出ないメアであったが、今日のところは全てを忘れ去り、眠ることにした。
だが、その前にとメアはとある人物に電話を掛けた。
『はい、どちら様でしょう』
電話に出た相手はやけに神妙な声色でそう尋ねる。
「…………。わたしよ」
『嘘よ!』
「は?」
『これが俗に言う「わたしわたし詐欺」ね! 騙されないわよ!』
電話の相手、希実枝は未だ信じられない様子であからさまに取り乱す。
「だからわたしよ。ってか、携帯に登録名表示されてるでしょ?」
『そ、そんなメアちゃんに似せた声だからって! た、確かにわたしが登録しておいた「ラブリーマイスイートめあたん」って表示されてるけれど! けれども!』
「何よそのふざけた登録名。今すぐ変えなさいよ」
『ああっ! その麗しくもナイフで心臓を抉るような冷たいお声はまさしくわたしのメアたん! これが噂に聞くドッペルメアちゃん?』
「何そのピンポイントな都市伝説」
『メアちゃんなのね? 本当に本当のメアちゃんなのね? はぁっはぁっ……』
希実枝はあまりの衝撃に何らかの発作に苛まれているようであった。
「ねぇ希実枝?」
『ちょっと待って、今奇跡が起こってる……。メアちゃんから連絡してくるなんて……。はぁっはぁっ……えほっ! げほっげほっ! おぇっほ! おえっ!』
「…………。キモイからやっぱ切るね」
『ちょっと待ってメ――ブツっ!』
希実枝の縋るような声虚しく、メアは電話を切った。
メアは思い返せば自から希実枝に電話をしたことがなかったということを考えながら、気を紛らわせようと間違った対処法を取ってしまったことを反省した。
それもこれも疲れている所為。メアは改めて今度こそ大人しくベッドに入った。
* * *
翌日。メアはその日の授業を十全にこなし、早くも最後のHRの時間。前回余計なことばかり考えてしまい悩乱の果てにユウリから助けられるといった苦い経験をしただけに、メアの集中力はいつにも増して卓抜さを披露していた。だが、その分疲労感がいつもの何倍にもなってしまったのが考えものでもあった。
HRでは昨晩ニュースで聞いた事件解決のこと、また、この学校の女子生徒が痴漢被害にあったという話題が担任篠原の口から出た。
通例通り全く関心のない様子で終わりを待つクラスメイトたちの中で、メアはくだらない大人と危機感皆無の愚かな子供ばかりのこの世界に憤懣し顔をしかめる。
五月に入り文化祭の準備も本格的になってきてはいたが、メアは全くと言って良い程協力的ではなかった。その様子に陰で不満を漏らす者も中にはいたが、当のメアは「協力的なら協力的でどうせ疎む癖に」と意に介さずにいた。
「メアさん」
メアが鞄を机に乗せ、だが帰り支度をするでもなく文化祭準備を手伝うでもなく、疲労感から呆けているとユウリから声を掛けられる。返事はせず、代わりに感情のない視線を向けた。
「昼休みのあいだに学校の公衆電話で例のふりょーのリーダーさんと連絡を取りまして、本日集まって頂けることになったのですが、メアさんは予定大丈夫でしょうか?」
「ええ、まぁ……。で? どこ?」
メアは曖昧に返すと、詳細を促す。
「秘密基地です。燐華さんと時緒さんにも連絡しておきましたから先に向かって頂けている筈です」
「ばっ!!」
メアは息を呑み、机からガタンと立ち上がった。完全に意識は覚醒し、剣呑な目付きでユウリを睨む。
やや遅れてクラス中がメアに注目していることに気が付き、慌てて教科書やノートの類を無理矢理鞄に詰め込むとユウリの手を引いて教室を後にした。
ユウリは半ば引きずられるような形でメアと共に校舎を出たが、自身は何がメアの逆鱗に触れてしまったのかわからずにいた。
「め、メアさん。どうしたんです?」
校門を出た所でユウリが問うと、メアはようやくその手を跳ね除けるようにユウリから離した。
「バカぁ!」
メアは改めてそう怒鳴ると、ユウリの頬をつねり上げる。
「あわわわわ、メアふぁん、まだ謝ってないでふ……」
「うっさい! 何考えてんの? ええ何も考えていないんでしょうね! 万死に値するわよ! よりにもよってあの場所に、しかも燐華と時緒まで一緒に集めるだなんて! DQN共をCPL共の巣窟に解き放つようなこと、こんなの面倒ごとしか起きないじゃないの! え? わかってる?」
「ふぁかりまふぇん」
「でしょうね!!」
メアはさらに頬をつねる手に力を込めた。ユウリは肩から鞄を落とし、痛みに手をバタつかせた。
劇薬に劇薬を注ぐようなものだ。どんな危険な化学反応が起こるのかわかったものではない。ようやく解放されほのかに赤くなった頬をさすりながら未だ困惑の表情を向ける元凶を横目に、メアは苦悶から頭を抱えた。
「で、でもメアさん。もう連絡してしまいましたし……その、どう……します?」
「急いで行くに決まってるでしょ! ほら! ダッシュ!」
「はい」
メアが走り出すとすぐにユウリが物凄いスピードで追い抜いて行った。
「待った! 待った! やっぱダッシュはなし! 速いのよ! あんたっ!」
秘密基地、もとい怪しげな絵本屋「廃屋のリーヴルディマージュ」の扉の前に辿り着く頃にはメアの手はじっとりと汗ばんでいた。それが走ったことによる汗だけでないことは明白だ。先回りできるかもしれないという淡い期待は、敷地の外に停められた見覚えのあるバイクが目に入った瞬間に打ち砕かれた。
一度深呼吸をし意を決すると、メアは一息にその無駄に重たい扉を開いた。
「おねーさん絶対美人っしょ! ねぇねぇもっと良く顔を見せてよー」
まず最初に飛び込んできた光景を目の当たりにしてメアは言葉を失い、鞄を地面に落とした。
「ねぇーおねーさんってばぁー」
眼前で、不良グループのリーダー久世が哲学的幽霊をナンパしていた。
0
あなたにおすすめの小説
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる