魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第一章 夢見る少女、幻滅する

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「ふっざけんじゃねえよてめえ! 俺としたことが、お金という存在を忘れてたわ。言ってくれよ。なんせ今までサバイバル生活だったから、お金なんて眼中になかったよ」
 ぶつぶつと一人で文句を言いながら、またしてもツルカは街中を横行する。
《まあ、残念ながらそういうことですよ~。奔放な生活を夢見ていてもお金が必要です。食費、物件、その他諸々。全てお金が欠かせないのですよ、はい》
「おい……ってことは俺、お金を稼ぐためになんかしなきゃいけないってことなのか⁉」
《おっしゃる通りですが、何か?》
 ツルカは地に膝を突き立て、涙ぐみながら地面を叩いた。
「くそっ……俺、この世界に来ても働かなきゃいけないのかッ……! 流石に転生した先ぐらいでは自由な生活ができると思ったのに……!」
《そんな甘い世界じゃないですよ。結局、何かをするためにはお金が必要ですから》
 ──ツルカは以前、日本という国で平凡な生活を送っていた一人の社会人であったが、不慮の事故によって命を落とす。するとどうしてか、彼が次に目を覚ました時には少年姿で、ある洞窟に蘇っていた。少年は……いや、ツルカはもともと少女ガイだったのだ。だからこそツルカは口調もがさつで、性格も中身が男であるがために粗雑。生前の名は『奥村健太おくむらけんた』という、グランドシオルでは少々珍奇と思われる名前。
 ならば健太はどうして成人から少年、少年から今の姿である少女へと変貌してしまったのか。それには複雑で理解しがたいわけがあった────
「……まあ今はこうやって無事に生活を送れてる。それも全部、お前のおかげなんだわ」
《今さら何を言いますか。アイナはマスターの固有能力なのですから、自分の能力として好きに使ってください》
 そして、アイナという声は健太の固有能力、いわばオリジナルである。いわゆる転生者特有の特典スキルのようなもので、元は『AI機能』といった、呼ぶのも疎ましい名だったが、健太は呼びやすくするためにオリジナルの名称を『アイナ』に変更。由来はAIをそのまま読んで『な』を付け足しただけの、ただ適当な理由。
 アイナは万丈な能力を持つ補助役で、あらゆる物質を細緻に解析することや、状況の打開法の構築など様々なことができる。加えて能力保有者の状態管理や有害物の除去など、マスターである健太に関する全般を補佐することが可能だ。
「しっかしなぁ。鬱陶しいこともあるけど、なんだかんだ言っていつもお前を頼ってる。苦労をかけてるよな。ありがとっ」
 そこでようやく、ツルカに初めて聖女のような優しい笑みが零れた。
《言葉の意味は理解し兼ねますが、どうしてか水くさいですね》
「でも……この姿だけは予想外だっ。まさかこんなことになるとは」
《そうなってしまったのも運命です。文句を言ってもその体で慣れていくしかありません。面白いものですよね。中身は男だというのに女性の体をしている。生殖機能すら女性なので、やはり下半身に棒がないのはご不満ですか? ふっ》
「お前、喧嘩売ってんのか⁉」
 鼻を鳴らすアイナに、ツルカは血相を変えて騒ぎ立てる。
「にしてもどうしようか。お金、お金……落ちてないかな。もしくは誰か、このプリティツルカちゃんにくれたりしないかなー……」
 世界で最も美しい貧乏少女は、あわよくば人に恵んでもらえないかと愚劣で狡猾な思考を抱き始めた。
《いい加減に決心してくださいよ。お金、手に入りませんよ?》
「うぐっ……」
 現実から目をそらすツルカに、アイナの言葉がぐさりと突き刺さる。
 ツルカは面倒事を嫌う性格だ。やる気もなければ夢もない、まさにニート直前である。
「しゃーない。こんな見た目だし、喫茶店とかで働いたら……」
《まあ、そうですね。マスターは性格こそ終わっていますが、外見は非常に美しいので、看板娘などになるやもしれません。そうすれば収入も安定するかもです》
「うん、一言余計だな。でも仮にも自分だから、そう言われても実感がなー」
《……まあ、これだけ町の人に見られているのに分からないんですもんね》
 アイナは通常の呼吸にも負けないくらいの小声で言った。
「よしっ、じゃあ頑張るか~!」
 仕事をすることにようやくやる気を出した矢先、鼓膜を突くような罵声が聞こえた。
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