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第二章 クエストに向かう少女、やり過ぎる
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「はぁ……今日こそ先延ばしにしてたアレ、しないとなぁ」
《そりゃあ自分で言ったんですもんね~》
約束通り、昼過ぎに仕事を上がらせてもらったツルカは、淡つかにある場所へと向かった。ロングコートの衣嚢に手を預けて、気だるそうに長嘆息する。
活気盛んな街中を歩むこと数十分、異様に武装した人達が多く集う建物前へと到着した。グランディール国の『冒険者ギルド』である。他の建造物とは違って、より一層際立つこの建物は、立派な西洋館を似せて建てられた擬洋風建築。住宅などとして町に並ぶ木造建築やレンガ建築──いわゆるチューダー様式とは違った文化を感じられる。
世界に存在する国や町などには冒険者ギルドが必ず設立されており、クエストを承る冒険者にとって、まさにここは彼ら彼女らの仕事場と言ってもいいだろう。
「ここが冒険者ギルドかぁ~……。全ての冒険者がここから始まる……ってか?」
《始まる場所はそれぞれですがね。とりあえずマスターは冒険者の第一歩を踏み出すわけですよ。では早速、中に入ってみましょう!》
「なんで、そんなに乗り気なんだよお前は……」
対してツルカは気分が乗らない様子で、冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
中は冒険者で群がっており、少し擾々としていた。中央には複数の看板が設置されていて、多くの張り紙が貼り出されている。これがいわゆるクエストで、SからFの難易度が記されている討伐系依頼や平民の依頼など種類は様々。しかし、高額な報酬だけを目当てにして、無闇やたらにクエストを受託すると苦汁を飲まされるのが結末だ。受けるクエストの内容には、しっかりと目を通しておく必要がある。自分達にとって適正帯か、不都合でないか──と言っても、ツルカにとっては気に掛けることでもないらしいが。
「にしても、ここって酒場あるんだな」
《ええ、そうですね。ですが、よくあるではありませんか。危険なクエストから無事帰還して、祝杯をあげるくらい。そんでもって自惚れた後に図に乗って、『今日は俺のおごりだぁ!』などとぬかした愚か者が一瞬にして破産するところ。よく見るでしょう?》
「よく見るのか……? いや、想像はつくな。うん」
未だ意に染まないツルカはクエストボードを横切り、受付へと顔を出す。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ。クエストをご希望ですか?」
沈んだ表情で目を落とすツルカと対応したのは、二十歳半ばの受付嬢だった。
「いえ、冒険者になりたくて……」
「なんと冒険者をご希望する方ですか! 冒険者は誇り高き戦士です。危険を常に孕む人生であっても、必死に前を向き続けることがあなたにできますか?」
「え、え?」
「ふふっ、これは冒険者になろうと考えている人達へ伺う質問です。単なる報酬稼ぎのために冒険者になる輩なんて、すぐ命を落とし兼ねないですから」
「なるほど……しっかりしているんですね」
緊張感が漲る質問に、ツルカは抱いてすらもいなかった恐怖心が芽生えた。
《なに怖気付いてるんですか。決めたことなんですから、とっとと『はい』と答えて手続きして下さい》
(で、でも、結構真面目そうな顔してますよあの人。冒険者って、俺が思っていたよりも過酷なものなのかもしれない! いますぐにでも────)
《とっとと答えろ》
「はい、できます。なので、冒険者になることを希望します」
「なんて真剣な眼差し。まだ幼いですのに凄く熱心ですね。分かりました、あなたの意見を聞き入れましょう。冒険者の世界へようこそ!」
アイナの威圧に屈してしまったツルカは、勢い余って受付嬢にそう答えた。
(終わった……完全に俺はアイナの手によって踊らされている……ッ! 性悪野郎め!)
納得いかないまま、悔しそうに歯を軋ませる。
《そりゃあ自分で言ったんですもんね~》
約束通り、昼過ぎに仕事を上がらせてもらったツルカは、淡つかにある場所へと向かった。ロングコートの衣嚢に手を預けて、気だるそうに長嘆息する。
活気盛んな街中を歩むこと数十分、異様に武装した人達が多く集う建物前へと到着した。グランディール国の『冒険者ギルド』である。他の建造物とは違って、より一層際立つこの建物は、立派な西洋館を似せて建てられた擬洋風建築。住宅などとして町に並ぶ木造建築やレンガ建築──いわゆるチューダー様式とは違った文化を感じられる。
世界に存在する国や町などには冒険者ギルドが必ず設立されており、クエストを承る冒険者にとって、まさにここは彼ら彼女らの仕事場と言ってもいいだろう。
「ここが冒険者ギルドかぁ~……。全ての冒険者がここから始まる……ってか?」
《始まる場所はそれぞれですがね。とりあえずマスターは冒険者の第一歩を踏み出すわけですよ。では早速、中に入ってみましょう!》
「なんで、そんなに乗り気なんだよお前は……」
対してツルカは気分が乗らない様子で、冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
中は冒険者で群がっており、少し擾々としていた。中央には複数の看板が設置されていて、多くの張り紙が貼り出されている。これがいわゆるクエストで、SからFの難易度が記されている討伐系依頼や平民の依頼など種類は様々。しかし、高額な報酬だけを目当てにして、無闇やたらにクエストを受託すると苦汁を飲まされるのが結末だ。受けるクエストの内容には、しっかりと目を通しておく必要がある。自分達にとって適正帯か、不都合でないか──と言っても、ツルカにとっては気に掛けることでもないらしいが。
「にしても、ここって酒場あるんだな」
《ええ、そうですね。ですが、よくあるではありませんか。危険なクエストから無事帰還して、祝杯をあげるくらい。そんでもって自惚れた後に図に乗って、『今日は俺のおごりだぁ!』などとぬかした愚か者が一瞬にして破産するところ。よく見るでしょう?》
「よく見るのか……? いや、想像はつくな。うん」
未だ意に染まないツルカはクエストボードを横切り、受付へと顔を出す。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ。クエストをご希望ですか?」
沈んだ表情で目を落とすツルカと対応したのは、二十歳半ばの受付嬢だった。
「いえ、冒険者になりたくて……」
「なんと冒険者をご希望する方ですか! 冒険者は誇り高き戦士です。危険を常に孕む人生であっても、必死に前を向き続けることがあなたにできますか?」
「え、え?」
「ふふっ、これは冒険者になろうと考えている人達へ伺う質問です。単なる報酬稼ぎのために冒険者になる輩なんて、すぐ命を落とし兼ねないですから」
「なるほど……しっかりしているんですね」
緊張感が漲る質問に、ツルカは抱いてすらもいなかった恐怖心が芽生えた。
《なに怖気付いてるんですか。決めたことなんですから、とっとと『はい』と答えて手続きして下さい》
(で、でも、結構真面目そうな顔してますよあの人。冒険者って、俺が思っていたよりも過酷なものなのかもしれない! いますぐにでも────)
《とっとと答えろ》
「はい、できます。なので、冒険者になることを希望します」
「なんて真剣な眼差し。まだ幼いですのに凄く熱心ですね。分かりました、あなたの意見を聞き入れましょう。冒険者の世界へようこそ!」
アイナの威圧に屈してしまったツルカは、勢い余って受付嬢にそう答えた。
(終わった……完全に俺はアイナの手によって踊らされている……ッ! 性悪野郎め!)
納得いかないまま、悔しそうに歯を軋ませる。
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