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第三章 少年と悪魔と番人
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「神器ベナゲードには『魂の融合』という固有能力がある。土台の魂と素材となる魂を融合させ、一つの命にする『神王』級魔法だ。私が世界に解き放たれてはいけない理由は、私という魂の存在があるから。姿形を偽ったとしても、魂はマリアネだ。もちろん、今の時代に私の実体を知る生命体は幾ばくも無い。普段通り、街中などを歩いていても、魔王マリアネと知られることはほぼない。だけどな、グランドシオルには姿ではなく、魂という『存在』で人物を特定できる者がいるんだ。だから、私が解き放たれたらすぐに存在を感知されて、魔王マリアネが復活したと知られる。大戦争を起こした私だ。現代の人類が快く思うわけがない。全勢力をもってしても、排除しに来る。なら、ベナゲードに頼んで私の魂を君の魂と融合させたら、君と私は新たな魂として生まれ変わる。そうすれば、君もここから安全に出られるだろう。風貌は以前より大分変ってしまうが──────」
「だから待て! その言い方だと、俺が土台になってマリアネが素材になるって事か⁉ 要はお前が死ぬって事じゃねえのかよ!」
まるでマリアネは核心をはぐらかすように事を話していた。土台、いわばベースになった魂は記憶などが消えることはない。魂だけが生まれ変わるだけで、その人の『精神』はしっかり残る。換言すれば、『転生』と同じ意味を持った状態となるのだ。
対して素材となった魂が引き継ぐのは精神といったものではなく、融合後に肉眼で認識できるその人の特徴、能力くらい。ただ、土台に飲み込まれて存在が消えてなくなる────そう、まさしく死を意味するのである。
「いいさ。私は二百年間、ずっと暇をしてきた。多分、君も二百年、ここにいれば分かる。飽きたよ……。どうせやることもないんだし、別に死んでもな……」
「だ、だけど……」
「なぁに、君にはまだ未来がある。私には……もうない。君の未来を私のせいで壊したくないんだ」
どうしても健太は、マリアネの意見を鵜呑みにできなかった。
「勇者は世界のために命を燃やした。私も、誰かを救いたい。なんなら……憧れてたんだ、私は。みんなのために命を懸ける勇者に」
「俺なんかに命を燃やしても……」
「君も大切な一つの命だ。君の命は、世界に一つだけしかない。そんな一つでも守れる一国の王でありたい。なっ?」
「……ならマリアネさんの命だって」
マリアネは参ったように肩をすくめて、不自然な愛想笑いをする。
「……実は、勇者も妹を奴隷商人に拐われたらしいぞ」
「えっ……」
「私と一騎打ちをしている時に、そんな事を勇者が言った。あいつは実の妹を奴隷商人に拐われ、そのまま消息を絶ったらしい。でも、私のように自暴自棄になったりせず前向きに生きて、さらには人類の希望、勇者となった。私みたいなやつとは大違いさ……」
すると突然、マリアネは健太の手を優しく握った。
「……私はこんな自分でいたくない。せっかくのチャンスなんだ。勇者は辛いことがあっても乗り越えて、みんなのために尽くした。私もそんな人でありたいんだ」
「……勇者みたいなこと言って。嫌だよ」
「勇者みたいじゃない、私は勇者になりたい。君を助ける、ね。お願いだ、君をこの命で助けさせてくれ。私は、君の未来を守りたい」
健太は怖気付くように震えて、涙を地面に落とす。
「……バカすぎる。お前、マジで命をなんだと」
「ハハッ、そうさ。私はバカだ。だからこそ命を捨ててでも、君の事を救わせてくれよ」
健太はもう何を言っても無駄だと悟り、溜息をついて辟易する。
だが、どうしてか健太は心の底から笑みを満面に湛え、マリアネを見ることができた。それは、もう迷いのない澄んだ喜色だった。
「だから待て! その言い方だと、俺が土台になってマリアネが素材になるって事か⁉ 要はお前が死ぬって事じゃねえのかよ!」
まるでマリアネは核心をはぐらかすように事を話していた。土台、いわばベースになった魂は記憶などが消えることはない。魂だけが生まれ変わるだけで、その人の『精神』はしっかり残る。換言すれば、『転生』と同じ意味を持った状態となるのだ。
対して素材となった魂が引き継ぐのは精神といったものではなく、融合後に肉眼で認識できるその人の特徴、能力くらい。ただ、土台に飲み込まれて存在が消えてなくなる────そう、まさしく死を意味するのである。
「いいさ。私は二百年間、ずっと暇をしてきた。多分、君も二百年、ここにいれば分かる。飽きたよ……。どうせやることもないんだし、別に死んでもな……」
「だ、だけど……」
「なぁに、君にはまだ未来がある。私には……もうない。君の未来を私のせいで壊したくないんだ」
どうしても健太は、マリアネの意見を鵜呑みにできなかった。
「勇者は世界のために命を燃やした。私も、誰かを救いたい。なんなら……憧れてたんだ、私は。みんなのために命を懸ける勇者に」
「俺なんかに命を燃やしても……」
「君も大切な一つの命だ。君の命は、世界に一つだけしかない。そんな一つでも守れる一国の王でありたい。なっ?」
「……ならマリアネさんの命だって」
マリアネは参ったように肩をすくめて、不自然な愛想笑いをする。
「……実は、勇者も妹を奴隷商人に拐われたらしいぞ」
「えっ……」
「私と一騎打ちをしている時に、そんな事を勇者が言った。あいつは実の妹を奴隷商人に拐われ、そのまま消息を絶ったらしい。でも、私のように自暴自棄になったりせず前向きに生きて、さらには人類の希望、勇者となった。私みたいなやつとは大違いさ……」
すると突然、マリアネは健太の手を優しく握った。
「……私はこんな自分でいたくない。せっかくのチャンスなんだ。勇者は辛いことがあっても乗り越えて、みんなのために尽くした。私もそんな人でありたいんだ」
「……勇者みたいなこと言って。嫌だよ」
「勇者みたいじゃない、私は勇者になりたい。君を助ける、ね。お願いだ、君をこの命で助けさせてくれ。私は、君の未来を守りたい」
健太は怖気付くように震えて、涙を地面に落とす。
「……バカすぎる。お前、マジで命をなんだと」
「ハハッ、そうさ。私はバカだ。だからこそ命を捨ててでも、君の事を救わせてくれよ」
健太はもう何を言っても無駄だと悟り、溜息をついて辟易する。
だが、どうしてか健太は心の底から笑みを満面に湛え、マリアネを見ることができた。それは、もう迷いのない澄んだ喜色だった。
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