魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

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「……おお、来たかっ」
 森閑とした薄気味悪い部屋に、張りのある若い女声が快活に響く。フードローブに身を包んで不気味と笑う女のもとに、なにやら若年の男が現れた。
 矢を射るかのような鋭い眼差しと、激しく燃え盛るような紅の頭髪、瞳。常に激しい剣幕のためか、男は心からの笑顔を忘れているかのようだった。
「……ち。ったくよぉ、わざわざ俺を呼び出すとはいい度胸だな。ああ⁉」
 部屋に入ってきた男は物憂いそうに首を鳴らすと、フードを被った女に向かってナイフを投げつけた。ナイフは女の頭上を掠めて、壁に突き刺さる。
「相変わらず物騒だな。今のが当たっていたらどうする気だ」
「さあな。てめえが死んだところで誰も困らねえ」
 男は非情にも女にそう言い放った。
「んで、てめえ。わざわざ呼び出したんだ。なにかあんだろ?」
「……じゃなきゃ呼ばんさ」
 男は傍若無人に部屋の端にある椅子に腰掛け、うんと大きいあくびをかます。やれやれといった感じで、女も対面に腰を下ろした。
「本題に入ろう。現在、冒険者昇格試験の期間だ。今回、君を呼んだのは、かの有名なS
ランク冒険者……七位である『時空の使い』の暗殺、もしくは捕獲を頼みたいからだ」
 流石の内容に少なからず男も目を見張った。
「……ふん。何を言い出すかと思えば、てめえの頭のネジは何十本も抜けてんのか?」
「まあまて、話の本筋はここからだ」
「本筋ぃ?」
 男は物臭な態度で机に足を乗せた。構わず女は恐ろしいほど厳粛に話を続ける。
「私は二百年前の大戦で生き残った、魔王マリアネ様の夜魔将官だ。マリアネ様の右腕として日々精進してきたものだが……私の主は勇者に敗れてしまった」
「あ~そうかい。その話、何回も聞いたが? もう帰っていいか」
「だからまて、ここからだ。半年前、私はシルフ平原にある勇者ノマールの地下墳墓へ足を踏み入れた。今は重要文化財で立ち入る事も許されんのだが……興味本位でな」
「へえ?」
 男は少し面白みのある女の話に、やや耳を傾けた。と言っても、依然として些末な話を聞くように眠そうだった。
「まるでうそっぱちな壁画やら沢山あったが、そこで私は勇者の剣を見つけたのだ。そして僅かに感じたのだ……。胸を圧迫されるようなほど懐かしい、あの方の気配を……!」
「はあ?」
 女は頭に被せていたフードを脱ぐと、両手を握り合わせて天井を見上げる。
「あの……威厳に満ちた崇高たるマリアネ様の気配をっ!」
 女は満面に法悦の笑み湛え、男は顔を歪めてまじまじとそれを眺める。
「……で」
「マリアネ様はお亡くなりになられていない。あの聖剣に封印されている!」
 女は怒り顰めたような面相で、強かに机を叩きつけて立ち上がった。
「いちいちうるっせえんだよ。ぶち殺されてえのか」
「じょ、冗談言うな。君は人類最強とも言えるほど化け物じみた固有能力を持つ。当千以上の君を前に、私も為す術がない……」
 すっかり女は頭を冷やし、静かに着席する。
 大体、男と同じくらいの年齢に見える女は、血を浴びて乾ききったように赤みの強い紫髪のベリーショート、光を欺く曇天の闇夜のように漆黒がかった瞳。すすで汚れた朽ち葉のような皮膚。何よりも女は耳が異様に長く、人間ではなさそうだった。
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