魔王の霊魂を背負う少女

アベルンルンバ

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第五章 教官ツルカ率いるギルド、危険種と遭遇する

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「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」
「うっ……マリ……ア……」
「と、とりあえず回復魔法唱えるね。【逞しき創傷に癒しの光を】」
 温かい光が女を包み、着実に生傷が癒やされていく。しかし、女の塩梅はナユの回復魔法をもっても、然程改善されない。
「……っ」
「ちょっと私の回復魔法じゃこれが限界かも……。完全には治せない」
「そうか……おい、何とか喋れるか?」
「あ、ああ……かたじけない」
 女は堪らなく疑心が募ったような相好で、ツルカの顔を見上げた。
「ガキ! このドラゴンどうする⁉ 明らかにレベルがちげえぞ!」
 ジンとマリナは騎士団とともに、漆黒の巨竜の足止めを試みていた。
「グルァァ───ッ!」
「うわぁっ!」
 巨竜は強靭な尾を前方に薙ぎ払い、目前の騎士団らを一掃する。フルプレートに身を包む騎士団と言えども、その攻撃は耐えうる威力の基準を超越していた。
「騎士団があっさり⁉ や、ヤバイよツルカちゃん、あれは確実に普通じゃない!」
「あ、当たり前だ……あいつはそこらのドラゴンとは違う……ごほっ……」
 女は顔を引きつらせ、血を吐きながら咳き込む。
「……なんだ、あのドラゴンの事、何か知っているのか」
「そいつは二百年に渡って討伐を成されなかった伝説の巨竜……黒竜アザンドラ……」
「アザンドラ⁉」
 女の言葉に、マリナは耳元で大音を鳴らされたかのように驚倒した。
「それって数々のSランク冒険者でさえ討伐は叶わなかった、危険種部類の魔物じゃ⁉」
「なんじゃと……。まさかマリアネ大山脈に危険種が住み着いていたとは……!」
 危険種は他の魔物よりも極めて殺傷能力が卓越したもののみに位置づけられる特例種。それらが共に暴れ出せば、国の一つなど造作も無く滅びる。現在、ブラックリストに記載されている危険種は数百程度で、討伐が成されるどころか増える一方らしい。
「黒竜アザンドラ……話によれば、グランドシオル全面魔王大戦後から現れた、謎の巨竜。数々の冒険者が討伐を試みたらしいのじゃが、黒竜の圧倒的な力を前に命を落す者が続出した。故に巨竜は危険種と認定されたと聞きますが……まさかその!」
「ああ……だから、騎士団ごときが相手できるものでは……ぐっ」
 数々のSランク冒険者を打ち破ってきた魔物だ。並の騎士団が相手できるものではない。せめて上位Sランク冒険者、或いは不朽の栄光レベルでないと勝ち目はない。
《解析が完了。巨竜は危険種で間違いありません。討伐難易度はSランク級。現時点で、まともに太刀打ちできるのはマスターのみとなります》
「くっ、ここで力を使うのは……」
《『魔王』の名を持つ者の専用能力を提示──『魔王武装・純』、『魔王武装・滅殺』、『魔王覚醒・異形』。最低、『魔王武装・純』の発動を推奨します。今の状態での戦闘は、体に著しい損害をもたらす可能性があります》
「……いや、俺は力を解放しない。今のままでも最低限の魔法は可能だろ」
《正気ですか。少しでもマリアネ様の力を解放したほうが》
「いや、いいよ。俺は守る……こいつら全員!」
 ツルカは果断なる試みを胸に女を一度地面に寝かせると、勇猛な面構えで立ち上がる。
「ちょ、ツルカちゃんどこ行くの⁉」
「おいガキッ、そっちに行ったら危ねえぞ!」
 ジン達の声に意にも介さず、ツルカは黒竜の目先まで颯爽と歩み寄る。
「グルル……ッ」
「よし……お前ら、絶対手を出すんじゃないぞ。あと、近づくな。怪我なんてさせちまったら、俺はもう教官失格だからな」
「……え」
 ツルカは黒竜の巨体を見上げて、深く息を吸い込み────
「はぁぁぁ───ッ!」
「グルッ⁉」
 ツルカは一閃で黒竜の目と鼻の先にまで距離を詰めると、その顔面を蹴り飛ばした。爆ぜるかのような鼓膜を突き刺す音と共に、黒竜の巨体は反動で横転し、煙幕のような砂塵が立ち込める。
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