聖女はそっちなんだから俺に構うな!

ネオン

文字の大きさ
1 / 59
第一章 聖女召喚に巻き込まれてしまった 

一.田辺さんは聖女らしい

「マジ最悪――。何でうちがあんたと一緒に日誌なんか書かなきゃいけないのよ。あんたが適当に書いて提出してくれれば済む話じゃない」 

 そう文句を言いながら日誌を書いているのは、このクラスのピラミッドの頂点にいるような美少女の田辺たなべ 茉莉花まりか。そして文句を言われている俺は、ピラミッドの底辺にいるような地味な男で、北川きたがわ 省吾しょうご

「そんなこと言ったって、担任が田辺さんに書くように指名してきたんだから仕方ないよ……」

 このクラスの担任は、日直の間で日誌の押し付け合いが起こらないように、毎回ペアのどちらかを指名してくる。指名されたのにもう一人に押し付けると次の日のクラス全員の宿題が増やされるから、従わざるを得ない。一度、指名された奴がペアに日誌を押し付けて、そいつが元々の奴の字を真似て記入して提出したんだけど、速攻バレて翌日の宿題がえげつない量になってクラス中の顰蹙ひんしゅくを買ってたから、それ以来押し付ける奴はいなくなったのだ。

 文句を言いながら田辺さんは日誌を書いているけど、嫌がってる割にイラストを入れたりして凝ったことをしている。正直言うと俺、今日発売の漫画を早く買いに行きたいからさっさと終わらして欲しいんだよね。まあ、そんなこと口が裂けても言えないんだけど――。

 あとは今日の日記的な一言を書けば終わりって時に、急に田辺さんの周りが光り出した。

「ちょっと! これ何!? 動けない! 北川助けて!」

 そう言われても俺にも分からないのだから答えようがないし、助けてって言われてもどうしたら良いのか分からない――。そんなことを言っている間に、田辺さんを包み込んでいる光が大きくなって、彼女の頭上に魔法陣のような物が現れた! もしかして――これって、異世界召喚ってやつ!? すげー本当にあるんだ! 目の前で行われている光景に興奮が隠せない。すると、魔法陣から一本の腕が出てきて田辺さんの腕を掴んで引っ張り始めた。

 まずい――これはおそらく田辺さんを魔法陣の中に引きずり込もうとしている。ここで下手に手を出せば俺まで巻き添えを喰らってしまうのが異世界召喚の鉄板だろう。

 田辺さんには悪いけど、俺は傍観させてもらうよ。

「何この手!? マジ気持ち悪い!! 北川~お願い助けて――」

 田辺さんが泣きながら俺の名前を呼んで手を伸ばしてきた――。さすがにここで拒むのは良心が痛むし、人間としてどうかと思うよな――。俺は諦めて田辺さんの腕を掴んで引っ張った。

 魔法陣から出ている腕もすごい力で引っ張っていて、俺と引っ張り合って田辺さんは綱引きの綱状態――。

「痛いし、もうヤダ~!」

 田辺さんは腕を引かれる痛みでさらに激しく泣き出した。思わず俺はその泣き声に怯んでしまい、田辺さんを引っ張る力が一瞬緩んでしまった――。魔法陣の先の相手がその隙を突かない訳もなく――俺は田辺さんごと魔法陣に引き込まれてしまった。

 魔法陣に引き込まれた俺たちは、やっぱり異世界召喚物のファンタジー漫画にありがちな神殿みたいなところに着いた。

「おお! 聖女様を無事に召喚することが出来ましたぞ!」

 そう言って俺たちの前に現れたのは、腰まではありそうな程長く伸ばした白髪の爺さんで、白くて綺麗な服を着ていることから、それなりに偉い人なんだってことは分かる。

 それから――。

 俺が腕を掴んでるのは田辺さんだけど――俺の腕を掴んでいるこいつは誰だ!? こいつは田辺さんの腕を掴んでたはずなのに、いつの間にか俺の腕を掴んでいる。キラキラした金髪に碧の瞳で見るからに王子って感じの男――。俺の腕を離すまいとずっと掴んで離さない。

 白髪の爺さんが自己紹介を始めた。この『何とか神殿』の神殿長で偉いんだって――。何か神殿の名前を言ってたけど、発音が難しくて聞き取れなかった。神殿長は田辺さんを『聖女様』って言ってたから、彼女がそうなのだろう。

「はあっ!? 聖女って何!? 北川――うちらどうなるの?」

 いつも強気な田辺さんが、地味な俺に縋り付いて震えている――。ちょっと可愛いかもって思ってみたり――。取り合えず落ち着いて神殿長の話を聞くことにした。まずはこういう時は状況を把握するのが大切なんだよな。

 応接室みたいなところに案内されたんだけど――俺の腕はなぜだかずっと王子っぽい奴に掴まれたままだ。当然の様にソファでは隣に座ってきた。田辺さんは少しだけ落ち着いたみたいで、俺の腕からは手を離していて王子っぽい奴とは反対側の隣に座り、俺は田辺さんと王子っぽい奴に挟まれる形になった。 

 話の内容は本当に漫画の世界みたいで感動すら覚えた。要約するとここは剣と魔法の世界で、魔王復活により世界が瘴気で溢れそうになっているから、異世界より召喚されし聖女様が祈りを捧げて瘴気を祓って、勇者と一緒に魔王討伐の旅に出る――。こんな感じのありきたりな話。

「うちが魔王とかいう奴の討伐に行くの? あり得ないんだけど! だってうちはただの女子高生だよ!?」

 神殿長に食って掛かる田辺さんの気持ちは良く分かるぞ。そうだよな、いきなり知らないところに連れて行かれた挙句そんなこと言われたら誰だって驚くし、一回は拒否するだろう。しかもやはりというか――召喚は一方的なもので、元の世界に帰ることが出来ないからこの世界で生きるしかなくて、その自分も生きて行く世界が危機に陥っているのだから、勇者と共に魔王を打ち滅ぼして住み良い世界にしてくださいって。本当に他力本願。

 でもどうして俺はこう冷静なのかと言えば――。それは俺が聖女じゃないから! この一点に尽きる。それにもう元の世界に戻れないって言うなら、諦めてこの世界で生きて行くために住むところや仕事を探さないといけないなって、田辺さんが聖女の説明をされている傍らずっと考えていた。それにしても、いい加減王子っぽい奴よ、俺の腕を離してはくれまいか? 強く握られ過ぎて少し痺れてきたんだが――。

感想 8

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加