25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

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「じゃ、今度はあたしたちでいいですかー?」

 元気な声が響いた。
 手を挙げたのは直談判しに来た、ゆるふわ系の雰囲気を漂わせた女の子だ。

「あたしは石紅いしべに 英茉えま。エマちゃんって呼んでね? で、こっちが享和きょうわ 数狐かずこ。あたしたち、声優志望で近くの専門学校に通ってるんだよね~!」

 あざと可愛い猫なで声で自己紹介するエマ。
 一方のカズコはぺこりと会釈するだけで、多くを語らない。

「近くってことは、今日も学校に行ってたのかな?」

 俺の問いに、エマはにこにこ笑顔で「そうでーす」と答えた。

「実はね、1月25日の今日はあたしの二十歳の誕生日なんですよ~。で、カズコがお祝いにご飯を奢ってくれるって言うからこのビルに来たの。ねえ、カズコ?」
「う、うん」

 カズコはおどおどした様子で小さくうなずく。
 うなづいているというよりうなずかされている――そんな雰囲気があった。 
 この感じだと奢るという話も怪しいもんだ、と俺は内心で思う。

「でも、こんなことになるならご飯なんて来なきゃよかったー……さっきも変なこと叫ぶおじさんに絡まれたしー……もう、誕生日なのにあたしって最悪についてないよねー」
「う、うん……」

 またもうなずくだけのカズコ。
 ……いや、そこは否定してあげるべきじゃないか?
 と、俺が心の中で突っ込んでいると、カズコが急に顔を上げた。

「で、でもね! 私は、最高の誕生日にするつもりだったんだよ……」

 そう言うと、彼女はカバンから何かを取り出した。
 赤や透明の石で飾られた、手作りのブレスレットだった。

「これ……エマの誕生石、ガーネットのパワーストーンブレスレット。わたしが作ったの。下手だけど、気持ちは込めたから」

 プレゼントを受け取ったエマは、無言でじっと見つめている。

「私ね、みんなより五歳も年上で……それに病気のせいで体力も全然ついていけなくて……でもエマは、どんくさい私をいつも見守ってくれて、カバーしてくれて、本当に嬉しかったの」
「そ、それは……カズコみたいな人を支える姿って、印象良さそうだなーって思っただけで……」

 エマの頬がどんどん赤くなっていく。

「そう言うけどね。陰で私をフォローしてくれてたの、知ってるよ。みんなが陰口叩いてるのも知ってた……でもエマだけ、ずっと私をかばってくれてた」
「なっ!? マジでそーゆうのじゃないんだって……!」

 俺は前言撤回しなくてはいけない。
 てっきりあざとい系女子なのかと思いきや、意外にも芯のある優しい子のようだ。

「だから、これはいつもの感謝の気持ちなの。いつも一緒にいてくれてありがとう。これからもわたしもエマを応援するし、一緒にいられたら嬉しいなって……」

 先ほどまでのおどおどした雰囲気は消え、熱を帯びた視線を送るカズコ。
 エマは耳まで真っ赤に染めながら、ブレスレットを腕に付けた。

「大人になってまで手作りとか……ダサいし重いって。こんなん恥ずかしくて付けられないよ~……でも、あ、ありがとう……」

 パチパチとエリカちゃんとタカさんが拍手し、俺もつられて手を叩いた。
 シガはちゃっかりカメラを取り出し、二人の記念写真まで撮っている。
 まさに心温まる場面だ。そこに俺たちが同席していいのか少し疑問だが――まあ、野暮な考えだろう。

「ちなみにガーネットの石言葉には『真実』『情熱』『友愛』って意味があってね、友達への贈り物にぴったりなんだよ」

 エリカちゃんの知識披露に、俺は「そうなんだ」としか言えなかった。



 エマとカズコの友情が深まったところで、俺は気になったことを質問した。

「エマちゃんが二十歳で、カズコちゃんは五歳上……つまりカズコちゃんは25歳ってこと?」
「は、はい……今年で二十六にはなります、けど……」
「なに? お兄さん、25歳で専門学生は遅いって思ってるわけー?」

 俺の質問に、エマの視線が鋭くなる。
 しかし俺が言いたいのはそういうことじゃない。

「俺も25歳で俳優志望なんだ。夢を抱いて努力するのは大事な活力だからさ、同じ世代同士頑張ろうぜ!」

 同年代ということで、つい応援したくなったのだ。

「それ、さっきそのオッサンが言ってた台詞だろ?」
「情熱で出た言葉なら、それはもうオレの言葉ではなくツムギの言葉だ! どんどん使ってくれ!」

 シガが野次を飛ばす隣では、タカさんが熱くフォローを入れる。

「ねぇ……そう言ってて実はカズコのこと口説いてるわけじゃないよねー?」
「えっ!? そういうつもりは全くなくて! ちゃんと俺には彼女もいるし!」

 俺の言葉に、シガが真顔で質問した。

「彼女も俳優志望か?」
「いや、ちゃんと職についてますけど……」
「それってつまり……ツムギくん、ヒモ……?」
「そう言われないように! ちゃんとバイトしてるんです!」

 そんなやり取りをしていると、エリカちゃんが何故かふくれっ面で俺の服をグイグイと引っ張っていた。



 シガの横やりで話は逸れたが――。
 俺の中でエマとカズコの犯人説はほぼ消えた。
 こんな心の込もったサプライズを用意して、こんなにも友達思いの子たちが。このふざけたゲームの犯人であるはずがない!
 ……あくまでも、俺のただの直感ではあるが。


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