25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

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残り21時間20分11秒

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 エリカちゃん、タカさんの“25関連”(そう命名した)を聞き終えた俺たちは、改めて聞き取りを再開する。
 展望フロアは硝子張りの廊下を挟んで北側と南側に分かれており、俺たちはエレベーターがある南側にいた。
 つまり、聞き取れていない残りの面々は北側のフロアにいるわけだ。

「あのアナウンスを聞いておきながら、積極的に動いて来ないとは……北側の連中は何をしているのやら」

 タカさんはそう言ってため息を漏らした。

「仕方ないですよ。意味不明すぎて、どう動いたらいいかわからなくなるのも当然です」

 俺はそう答えつつ先陣を切る。
 そして北側に辿り着いた途端――。

 パーン!
 
 クラッカーのけたたましい音が鳴り響いた。

「やっと来ましたネ! ようこそ北側展望フロアへ!」

 拍手と共に、背の高い外国人男性が賑やかに出迎えてきた。
 その隣には赤いメッシュが入った銀髪の男性と、熊のような雰囲気の女性がいて、盛大に拍手を続けている。

「血沸き肉躍るゲームは順調デスカ? それとも既に犠牲者が出ましたカ?」

 外国人は片言の日本語で楽しそうに尋ねてくる。

「犠牲者なんて出てませんよ。ただの犯人探しなんですから」
「えぇ~、そうなんデスカ? それじゃ今回もツマラナイ回になっちゃいますヨ!」

 ……どうやら本気で配信か撮影の類だと信じているらしい。しかも俺たちを撮影者だと思い込んでいるようだ。

「そんな不謹慎なこと言わないでください、グレイさん」

 そう窘めたのは赤メッシュの男性だった。

「初めまして。ボクは草薙くさなぎ二煌にこっていいます。こっちの彼がグレイ・バンサンキエムさん。ボクたち二人とも、それぞれ配信者なんです」
「違いマスヨ、ニコ。ワタシはタレント。テレビにもいつかバンバン出る予定デース!」

 グレイと紹介された男は得意げに言い張った。まだなのに。
 その横で、ニコは爽やかな笑顔で手を差し出す。

「一斉に聞き取りしたら混乱すると思って、あなたが来るまで待機していました。これからはぜひ協力させてください」
「ありがとうございます! 俺はツムギです。よろしくお願いします」

 見た目は派手だが、性格は温和そうで安心した――そう思ったのも束の間。

「……それでさ。これ、どこにカメラ仕込んであるの? なるべく映りがいい位置に移動したいんだけど」

 と、耳打ちしてきた。前言撤回だ。
 さらにニコは――。

「ちなみにギャラって出んの? それとも投げ銭次第? 取り分は? まさか7:3とか言わないよね」

 と、早口で下世話な質問を繰り返す。

「あの、これは企画ものじゃないみたいなんです」

 俺がそう伝えると、ニコは「嘘つけ」と言わんばかりの顔をした。
 俺だってそうだったなら、どれだけ気が楽だったことか。

「――は? ふざけんなよ、マジあり得ないって」

 次の瞬間、ニコの声色は急に低く変わる。
 あまりの変化にゾクッとした。

「これってどう見てもテレビでやるやつじゃん。だから好感度上げようと大人しくしてたのに……カメラないとかマジないわー」

 態度の豹変。さっきまでの人当たりの良さはどこへやら。
 どうやら”テレビ企画”ものではなく、”体験型推理ゲーム”だと考えを変えたようだ。
 ……が、どっちもハズレなんだけどな。

「んじゃもう、いい子ぶるのはやめやめ。犯人見つけるも見つけないも勝手にやっちゃってよ」

 そう吐き捨て、近くのベンチに寝転がるニコ。完全にやる気をなくしたらしい。

「あの、最後に一応……このビルに来た理由と、25に関連する経歴とかがあれば聞かせてもらえませんか?」

 するとニコが答えるより早く、グレイと熊のような体格の女性が元気よく口を開いた。

「理由は簡単デスヨ! ニコくんのチャンネル登録者25万人突破の打ち上げで一緒にココへ来たんデス!」

 それでクラッカーを持っていたようだ。グレイは楽しそうに他のパーティーグッズを取り出して見せていた。
 女性も声が裏返るくらい熱弁する。 

「し、しかもそれだけじゃないんです! ニコ様はなんと“25ニコ”って名前で、“2525にこにこチャンネル”を運営してるんです! ほら、25だらけでしょ?」

 愛想笑いを浮かべつつ、俺は尋ねた。

「えっと……貴女のお名前は?」

 女性は照れたように答えた。

「あ、ああ! そ、そうですよね。すみません、すみません。推しを前にしてるからテンション上がっちゃって……油井あぶらい  菜乃花なのはです。今日は推しの25ニコ様のコラボグッズを買って、それでここでご飯食べてたら偶然にもお会いできて……」

 興奮気味に語るものの、どうやら人見知りのようで。
 恥ずかしそうに、視線を伏せていた。

「なるほど、大体の事情はわかりました」
「え? もう終わり? せっかくもっと25ニコ様の魅力を語れると思ったのに……」
「いや、もう結構ですよ?」

 結構ストレートに遠慮したのだが、ナノハはお構いなしに話し続ける。
 これが”推しへの愛”というやつか。

25ニコ様の一番の魅力は、や、やっぱりこの豹変っぷりです! きっかけはライブ中にミュートし忘れて、素の喋り方を配信しちゃったことからで……」
「それに彼が配信を始めた理由も感動的デスヨ。幼い頃に生き別れた父親に、自分を見つけてもらうという夢のために――」

 二人が楽しそうに語る中、当の本人は苛立ちに舌打ちを漏らした。

「勝手に人の事情語んな。ウザい。それにボクは……父親探してるんじゃなくて、“25なんか関係なく幸せなんだよ、クズオヤジ”って見せつけるためにやってんの」

 そう言ってニコはナノハを睨む。

「キャアアアァ! そ、そうですよね、私なんかがすいませんすいません!」

 だがその蔑みすら、彼女にはご褒美のようだ。
 ニコを神だと言わんばかりに拝んでいる。

(いや、“25”って名前で活動してる時点で関係大ありなんじゃ……ん? 25…だと……?)

 俺は思わず口にした。

「ニコさんって、25神妙教の信者ですか?」
「はあ? 何そのふざけた宗教」
「じゃあ……父親が25に執着していたとか?」

 すると、三人は同時に頷いた。

「まあ、親父オヤジがクズな理由がまさにそれ。“25には神が宿る”とか家庭めちゃくちゃにして出てったんだよ」
「ライブでも語ってた話デスヨネ」
25ニコ様の本名もそのお父さんが付けたそうなんです! よね?」

 ……情報が繋がった瞬間、俺は頭を抱えた。

「多分ですけど……ニコさん。お父さん、このフロアにいますよ」
「は?」

 まさかこんな形でニコの“夢”が成就するとは、誰も思っていなかっただろう。
 南側のフロアにニコの父親(あくまで推測)ことイコシがいると告げると、ニコは返事もなく駆けて行ってしまった。
 ナノハとグレイも大急ぎで後を追う。

「オレも揉め事にならないよう見てこよう」
「はい、お願いします」

 タカさんが行くなら、何かあっても上手く対処してくれるはずだ。

「俺も行くわ。あっちの方がなんか面白そうだし」
「普通そこは濁すとこですけど……」

 カメラ片手に生き生きした様子でシガも駆けていく。
 本当にあの人は、ここから脱出する気があるのだろうか。
 残された俺はエリカちゃんに視線を送り、「じゃあ次の人に行こうか」と声をかける。
 エリカちゃんは静かにうなずいていた。

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