18 / 40
残り19時間30分17秒
しおりを挟む「――もう、びっくりした! いきなりトイレ開けたら全裸おじさんがいたんだもん」
ペットボトルのお茶を飲みながら、エマが文句を言う。
俺たちはトイレ騒動について軽く説明――セイランがタカさんにコーヒーを引っかけてしまった、という苦しい言い訳で無理やり事態を収束させた。
ちなみに“太陽が沈まない”という異常については、タカさんのような混乱する人を増やさないために今は伏せてある。
もっとも、既にその事実を知っていて何も言わない人も、中にはいるのかもしれない。
「俺からしたら、女子が堂々と男子トイレ覗いてきたんだからびっくりだよ」
そう反論すると、エマは頬をぷくっと膨らませて返してきた。
「だって~、急に中からドタバタ音が聞こえてきたし、それでエリカちゃんが開けちゃってたし。だったら心配して覗くでしょ?」
……それについては何も言えない。
事実、エリカちゃんたちが飛び込んでこなかったら俺一人じゃタカさんを止められなかった。
その功労者たるエリカちゃんはというと、今は静かにジュースを飲んでいる。
「……そういえば、結局三人一緒にいるんだね」
話題を変えるように咳払いし、俺はエマたちを見る。
そこにいるのはエマと親友のカズコ、そして彼女たちと初対面のはずのヒヰロがいた。
「そーそー。こんな状況じゃ寂しいし、変な人もいるし。だったら女の子同士つるんだ方が安心だなって」
エマが首をかしげ、同意を求める。
カズコとヒヰロは同じタイミングでこくりとうなずいた。
「……スマホも三人とも電池切れちゃって、それで暇つぶし程度に色々お互いのことを話してたんです」
「しかもヒヰロってカズコと似てるから、あたしが見守ってあげないと~って思ってね」
カズコとエマがそれぞれ話す。
エマはあざと可愛く演じる相手がいないからなのか、素のしゃべりに戻っているようだった。
「そうなんだ。まあこんな状況でも楽しそうで何よりだよ」
「逆にツムギは大変そうじゃん? さっきのおじさん組とずっと一緒なんでしょ~?」
エマが視線を遠くにやるが、そこにタカさんやシガの姿はない。
タカさんはまだ諦めきれず、爆弾探しに行ってしまった。
……まあ実際は、裸を晒したバツの悪さで頭を冷やしに行ったのだろう。シガはそんな彼に巻き込まれて連れていかれた。
「俺は別に……若い子から見れば俺もおじさん枠だしな。それよりエリカちゃんの方が大変だったろ、男ばかりで気を使ってやる暇もなかったし」
俺が視線を向けると、エリカちゃんは小さく首を振った。
「ううん、平気だよ」
「あ、それなら! あたしたちと一緒に行動しない? 助手役はおじさんたちでもう十分でしょ?」
エマの提案は善意からくるものなのだろうが、俺にとっては複雑だ。
何度も俺を助けてくれたエリカちゃんには、他の二人とは違う心強さがある。
すると俺が答える前に、エリカちゃんが言った。
「私は大丈夫だから」
そう言って、ぎゅっと俺の腕にしがみつく。
まさかの行動に、さすがに嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。
「キャー! 可愛い~!」
一方でエマが甲高い悲鳴を上げた。
俺が目を丸くする横で、カズコとヒヰロはペコペコと頭を下げている。
……なるほど、確かにこの二人、よく似ている。
「ねえねえ、もしかしてツムギに惚れちゃったんじゃないの~?」
「俺に?」
これまでの行動に惚れられる要素なんてあったか?
思わず首を傾げる。
「あ、でも……ツムギさんって彼女がいるって聞いたけど……?」
ヒヰロにそう言われ、自然と顔がにやける。
「いや、まあ、そうなんだけど」
「えー、じゃあエリカちゃんの想いは一方通行? カワイソ~」
いや、そもそも未成年の少女に手を出すわけにはいかない。法的にも社会的にもアウトだろ。
「……エリカちゃんの気持ちを聞いたわけじゃないだろ」
そう言いながらも俺は内心、エリカちゃんに慕われていたことが素直に嬉しくて浮かれていた。
するとエリカちゃんがぐいっと顔を寄せて尋ねた。
「じゃあ、その彼女さんって……どんな人なの?」
「え? なんで急に彼女の話?」
予想外の方向から話を振られ、体が固まる。
大したエピソードもないのに興味を持たれてもな。
……というか、まさかエリカちゃん、恋バナ好きなのか?
「あたしも気になる~」
「私も……どうして二人が出会ったのか、気になるわね……!」
エリカちゃんの一言で、エマとヒヰロまで食いついてきた。
「ちょ、ちょっと……いきなりそんな話は……」
皆を宥めつつも、カズコも興味ありげにこちらを見ている。
タカさんが戻るまでの休憩時間のはずが、なぜか恋愛トークになってしまった。
だが、断る理由も特にないし、まあ暇つぶしにはちょうどいいか。
俺は観念して口を開いた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる