25階。このふざけたゲームを終わらせて

緋島礼桜

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 タカさんとブレツの勝負が決着した直後、初老男性が声を荒げた。

「何をやっとるんだ! こいつらを倒さなければ、お前を雇っている意味がないだろう!」

 ブレツに詰め寄ろうとする初老男性。しかし俺とエリカちゃんが立ちふさがると、顔をしかめて足を止めた。

「どけ!」
「いいえ。まずは話を聞いてください。それまでは退きません」

 初老男性は鋭い眼光で俺を睨みつけたが、しばし沈黙したのち、大きくため息をついて両手を上げた。

「……くそ、勝手にしろ!」

 観念したらしい様子に、俺は胸をなでおろす。

「それじゃあ、まずお聞きします。あなたの名前と、このビルへ何しに来たのかを教えてください」
「何しに来たかだと? そんなもの、聞かずともわかっておるだろうが」

 ……どうにも、この男性とは話が噛み合わない。
 おそらく何か根本的な勘違いをしているのだろうが、まともに話し合えないことには誤解も解けそうにない。



 そのとき、ブレツを拘束し終えたタカさんが口を開いた。

「……この男は若槻わかつき 萱造かんぞう。このビルを建設したWAKAPONわかぽんグループの社長だ」
「ええっ!?」

 WAKAPONグループといえば、有名な不動産会社だ。CMでもよく耳にする。
 このビルのオフィスフロアにも入っていることを考えれば、社長がここにいてもおかしくはない。
 ……しかしいくら社長とはいえ、ここに隠れるなら一言くらい知らせてほしかった。

「おおかた“秘密の部屋”を知られたくなくて、何も言わず避難していたんだろうぜ。ケチな社長が考えそうなことだ」

 シャッターを切りながらシガが言う。どうやらこの部屋の暴露写真でも売るつもりらしい。

「ケチだと……ワシを脅迫しておきながら、よく言うわい。しかもこんなふざけた余興と抱き合わせているのだから性質が悪い」
「脅迫? 俺たちがですか?」

 思わず目を丸くする。
 確かに“25時間後に爆発する”なんてゲームは脅迫まがいだが、それを仕掛けたのは俺たちではない。
 たぶんこの人も、俺たちがそんな配信かイベントでも仕組んでいると思っているのだろう。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺たちだって、このゲームに巻き込まれた被害者なんですって」
「黙れ、小童こわっぱが!」
「え、古風に怒らなくても……」

 と、困り果てている俺に、エリカちゃんが何か紙片を差し出してきた。

「なんだ、これ?」
「さっき、お金ばらまいたときに落としてたの」

 どうやらワカツキが誤って落とした紙らしい。

「やめろ! 金はやるが、それは返せ!」

 そう言われて、もちろん返さずに俺は目を通した。
 するとそこには印刷された文字でこう書かれていた。

『25年前にお前が犯した罪の証拠を持っている。暴かれたくなければ、相応の額を用意しろ』

「25年前だと……?」

 タカさんが敏感に反応し、紙をひったくって続きを読んだ。

『日時は一月25日の午後一時、場所はベインティシンコビル25階。まずは用意できるだけの額を持ってこい。当然ながら警察には連絡するな』

「……これ、このゲームの犯人からの手紙じゃね?」

 シガが声を上げる。
 確かに“25”にこだわった脅迫状は、このゲームの犯人の仕業と考えるのが自然だ。

「え、それでワカツキ社長は25万円だけ持って、このフロアに来たってことですか?」

 ……しかも『25に引っかけて』なんて、軽いノリでそんな額に決めたのだろうか。

「失敬な! たまたま財布に25万入っていたから、それを持ってきただけだ! 用意しようと思えば一千万でも一億でも出せるわ!」

 そんなこと、大声で張り合わなくてもいいのに。
 そう思いつつ、俺は咳払いを一つ零した。

「つまり、整理するとこうですね。ワカツキ社長は何者かに脅迫を受け、とりあえず25万円を持ってこの展望フロアへ来た。ところが、そのタイミングでこの謎の“ゲーム”に巻き込まれた、と」

 “25”づくしの状況に放り込まれれば、俺たちのことも犯人一味と疑いたくなるのは無理もない。
 ……とはいえ、ボディガードブレツをこっそり連れてきたり、ずっと隠れていたり、犯人かもしれない相手に武力行使しようとしたり。ワカツキもなかなか無茶苦茶なことをしていると思う。
 俺の言葉にワカツキは焦りながら反論する。

「し、仕方がないだろ! ブレツには念のため遠目から見守ってもらおうと思っただけで、犯人が現れない以上は静観するしかなかった! いざ現れたら、一か八かブレツに一網打尽にしてもらおうと思っていたのだ!」

 ……ブレツ頼みとは浅はかすぎる!
 俺は心の中で叫ぶ。まさかブレツのパンチ一発で何でも解決できるとでも思っていたのか、この人は。

「バカだなあ……犯人がぶっ飛ばされた瞬間に“証拠写真”がばらまかれる仕掛けでも用意してたらどうすんだよ?」

 シガが肩をすくめて笑うと、ワカツキはさらに顔を真っ赤にして叫んだ。

「バカだと!? 貴様、ワシを何者か分かってて――」

 その言葉を遮るように、タカさんが一歩踏み出す。
 拘束中のブレツはトビトに押しつけられていた。

「そんなことより“25年前”とはなんだ? お前の罪とは何なんだ!」

 感情をあらわにするタカさんは、今にもワカツキに掴みかかりそうな勢いだ。というか、ほとんど掴みかかっている。
 慌てて俺はその腕を掴んだ。

「落ち着いてください、タカさん……ワカツキ社長、25年前の罪について、話していただけませんか?」

 だが“25年前”という言葉を聞いた途端、ワカツキの顔色はみるみる青ざめていった。やがてうつむいたまま、口を閉ざす。

「そりゃあ、自分の罪なんて簡単に話すわけないよな。だからこそ金を用意してきたんだろうし」

 シガの言葉はもっともだ。
 誰にだって言いたくないことはある。
 ナノハのように素直に謝罪する人間は稀で、大抵は罪が重ければ重いほど墓場まで持っていこうとするものだ。
 沈黙を守り続けるワカツキに、俺はため息を吐く。

「……それじゃあ、違う人に聞くしかないですね」

 俺はおもむろにシガへと視線を向けた。

「シガさんはもしかして、ワカツキ社長が25年前に犯した罪について、何か知っているんじゃないですか?」
「え?」

 突然話を振られ、シガはきょとんとした表情を浮かべた。
 それが驚きなのか、とぼけているのか、俺には判断がつかない。

「……さっき言いましたよね。“証拠写真がばらまかれる”って。どうして証拠が“写真”だと知っているんですか?」

 問い詰める俺を、シガはじっと真っすぐに見つめていた。

 
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