36 / 40
残り00時間10分35秒
しおりを挟む――梅影 さくら。
俺の幼なじみで、元バスケ部マネージャー。今は同棲中の彼女だ。
彼女は社交的で品行方正。絵に描いたような完璧な女性で、人から恨まれるような話は聞いたことがなかった。
「私は恨んでるわ! めちゃくちゃ恨んでる! だって彼女は私よりも、こんな金魚のフン野郎を選んでるんだから!」
その割にヒヰロは、彼女ではなく俺ばかりをディスる。
……本当に俺を恨んでいないのか?
「私はもっともっともっと、誰よりもサクラのこと愛してたのに……!」
そう泣き叫ぶ彼女は、興奮冷めやらぬまま動機を語り出した。
「サクラと出会ったのはピアノ教室で、絶対アンタよりも早かった! 私が大嫌いだった”ひゐろ”って名前を『可愛いね』って褒めてくれた、初めての友達だった……!」
聞けば彼女の本当の年齢は三十歳だという。
つまり、サクラが四歳、ヒヰロが九歳のときに出会ったらしい。
「すぐに引っ越すことになって離ればなれになっちゃったけど、四年前に再会したの! それはもう奇跡だったわ!」
”ヒヰロ”という特殊な名前を覚えていて、それでサクラから声をかけてくれたらしい。
「趣味も合ったし、波長も合った。飲んだりおしゃべりしたり、すごく楽しくて幸せで、ずっと一緒にいたいって思った」
以前、サクラから「親友ができた」と聞いたことがある。
それがヒヰロなのかはわからないが、あのときは嬉しそうに話していた。
しかし、その話題も最近はめっきり聞かなくなっていた。
「だから私言ったのよ、『貴方が好き、ずっと一緒にいたい』って……けど彼氏がいるからって、友達のままでいたいってフラれたわ」
涙をこぼすヒヰロに、タカさんが拘束の手を緩める。
カズコも彼女を思ってか、ティッシュを差し出していた。
「すごくすごく大好きだったの。だから彼氏がいても平気だと思ってた。なのに……段々、彼氏の話をするときの彼女が幸せそうで腹が立った。私の方が幸せなのよってオーラが、恨めしくなったの」
「サクラはそんな風に話す子じゃないよ」
「そんなの分かってる! クソに湧くウジは黙れ!」
俺は慌てて口を噤む。
要するに、愛情が憎悪に変わってしまったのだろう。
現に彼女はサクラへの想いを必死に語りつつ、俺には無関心と言いながら罵詈雑言を浴びせてくる。
——まるで坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってやつだ。俺はどうやらその“袈裟”らしい。
「サクラの心に私の名前を刻み込んで、永遠の後悔をさせてやりたかった……だからアンタが床を舐めてるこのビルに爆弾を仕掛けることにしたの」
「床を舐めてるって……」
ケタケタと笑い、髪を振り乱したヒヰロの姿は、まるで魔女か鬼女のようだった。
「オレが気になるのはそこだ。お前は一体どうやって爆弾を仕掛けた? この空間は一体なんなんだ? オレたちが、お前を犯人と指名したら本当にここから出られるのか?」
タカさんの問いに、ヒヰロは喉を鳴らしてから言った。
「さあね。私はただ自分を犠牲にして、この盤面を用意してもらっただけ……今じゃあ、私もただの”犯人役”でしかないのだから」
血の気の多いトビトが真っ先に食ってかかる。
「はあ? テメエ、ふざけたこと抜かしてねえで、さっさとここから出しやがれ……!」
ところが、ヒヰロはタカさんの拘束をするりと抜けると、勢いよくトビトを蹴り飛ばした。
顎に一発食らった彼は力なく崩れ落ち、イチゴが慌てて駆け寄る。
「フフフ……これが最後のゲームよ」
そう言うとヒヰロは、背後のエレベーター開閉スイッチを押した。
あれだけ反応しなかった扉がゆっくりと開き、爆弾めいた装置が姿を現した。
テレビでよく見るような線がいくつも取り付けられ、 大きなタイマーがカウントダウンを続けている。
「全ての爆弾はここにあったのか……!?」
「残念ね。これは25個のうちの一つに過ぎないわ。他は予想通り、アンタたち自身が“爆弾”ってこと」
まさか。うそだ。嫌だ。
騒然とする声が上がる中、ヒヰロはひとしきり独り笑いしてから俺を睨む。
「さぁて、探偵役さん。爆弾はあと五分で爆破するわ。それを阻止するには、この25本のうち一本の線を切るしかない。どれを切ってもハズレじゃないけど、タイムアウトはドカーンよ!」
非常に分かりやすいルールだ。
つまり、どの線を切っても一応は“当たり”で、時間切れがアウトということだ。
簡単すぎて、裏がある気がしてならないが、時間がない。
俺は一人、エレベーターへ向かう。
「ツムギくん……!」
「危ないって! 嬢ちゃん、離れてろ!」
エリカちゃんが駆け寄ろうとしたが、シガが慌てて制した。
その判断は正しい。万が一にも俺が失敗する可能性があるのだから。
「どれを切ってもいいとはいえ、25は多くないですか……?」
すると、相変わらずヒヰロは俺に冷たく返す。
「優柔不断なクズ野郎が口答えしないで……でもまあ、線をよーく見て考えることね」
だがやはり、このゲームには秘密のルールがありそうだ。慎重に選ばなければならない。
……それにしても、線まで25本とは。このゲームはとことん“25”にこだわりたいようだ。
「言っとくけど、他人の手助けは禁止よ。ハサミはそこに落ちてるのを使って」
床にはハサミが落ちていた。俺はそれを拾い、静かに爆弾を見下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる