シキサイ奏デテ物語ル~黄昏の魔女と深緑の魔槍士~

緋島礼桜

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賑やかな旅路

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「…で、なんでケビンたちがこの馬車に乗っているんだよ」

 まさかの再会に驚愕したアスレイであったが、なんとか落ち着きを取り戻したところで、彼は二人へと尋ねた。
 とは言え、彼の視線はケビンだけを捉えており、隣のネールには一瞥したのみ。
 彼女に尋ねると正論に棘を付けて返してくると思われたため、アスレイは無意識に敬遠していた。

「ちょっとした私用といったところだ。そもそも行く宛てのある旅ではないからな」
「そ、そうなんだ」

 予想通り丁寧な説明で返答してくれたケビン。
 しかしアスレイはてっきりネールが答えてくるだろうと思っていたため、思わず拍子抜けしてしまう。
 当の彼女はというと、自分には関係ないとばかりに視線を窓の向こうへと向け、景色を眺めていた。

「別の地を経由して王都を目指すとは聞いていたが…その経由地がまさかキャンスケットだったとはな」

 ケビンの言葉を聞き、アスレイは記憶を辿ってみたが、確かにキャンスケットに行くとは言っていなかった。
 もし言っていたならばケビンのことだ、馬車まで同行しようという話になり、宿に置き去りにはしないはず。こんなに慌てて乗車することもなかったことだろう。

「あ、そっか。そういや王都行きって今めちゃくちゃ混んでるんだったっけ?」

 と、会話に割り込んできたレンナは思い出したような顔を浮かべ、アスレイにごめんと謝罪する。

「生誕祭とか興味なかったからその辺すっかり忘れてた」

 そう言ってまたごめんと告げる彼女であるが、その態度は軽く謝罪の気はまるでない。
 アスレイも特別気にしているわけではなかったため、気に留めることなくレンナへ笑みを返した。

「いいって。それよりレンナはどうしてキャンスケットに?」
「観光。何もないって言われてるけど静かで良いとこだって聞くし、それにどうしても行ってみたい理由があるんだよねぇ」

 レンナは楽しげな顔を浮かべ、それからその理由についてを語り始める。
 途中までは彼女の話をしっかりと聞いていたアスレイ。
 だが、不意に前方へと視線が向いてしまい、気付けば意識はそちらへと―――ネールへと移っていた。




(…こうして見ると、美人なんだけどなぁ)

 心の中でそんな事を思いながら、アスレイはネールを見つめる。
 窓向こうの景色を眺めるその横顔はさながら一枚の絵画のようで。
 可愛い、というよりは綺麗という言葉が似合うほどの容姿端麗な顔立ち。
 更には昨日酒場で見せた度胸の良さ。彼女自体も悪い人間ではなく、それは既にアスレイ自身経験済みだ。
 全てを兼ね備えているかのような彼女を、嫌う男はなかなかいないだろう。
 が、しかし。アスレイは何故だか彼女に好感を持てなかった。
 初対面での印象が悪かったせいという理由もあるのだろうが、どちらかといえば嫌悪というよりは苦手意識の意味合いが強い。
 そもそも根本的に、彼女には愛嬌―――性格面での乙女らしさといったものを感じられない。
 そのクール過ぎる性格のせいか、アスレイは彼女を厳格な父のようだと恐れ始めていた。

(うーん…妹たちや村の女性たちとはどうにも全く違う雰囲気なんだよな。勇ましいっていうか冷静っていか、そういう性格のせいだからなのかなぁ…)

 よくよく考えれば取るに足らないことであったものの、ついアスレイは首を傾げ、本気で悩み込んでいた。



 一方でアスレイへ話し続けていたレンナは、彼が上の空であることに気づき、会話を止める。

「…で、領主の中でも1、2を争うくらい―――って……」

 彼の視線の先を追いかけ、そこにいたのが例の女性だと知り、レンナは唇を尖らせる。

 (何々!? あたしの会話よりあの子の方が気になるっての?)

 と、レンナはアスレイの視線が向いてしまう原因は、彼女の胸元にあるのだろうと思った。
 男は皆、豊満な曲線に弱いものだと確信していたからだ。

 (これだから坊やは…そりゃ確かにあたしよりは、まあ…あるみたいだけど…)

 レンナの視線も自然とネールの胸元へと向けられる。
 次いで自分の胸元に視線を移し、思わず顔を顰めた。

 (別にあたし負けたわけじゃないし、そもそも人間、胸が全てなわけじゃないし…!)

 そう思い、再びアスレイを睨む様に見つめその頬を引っ張った。

「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「いだだっ!」

 突然の痛みに我に返ったアスレイは、慌てて視線をレンナへと戻し「聞いていた」と即答する。
 が、実際はほとんど聞いてなどいなかった。 
 そのことを悟ったレンナは白い目で彼を見つめる。

「あーあ、あたしもああいう風だったら無視されないのかなあ…」

 そうわざとらしくネールの方を一瞥しながら、皮肉を込めるレンナ。
 彼女にとってそれは外見的な意味で言ったものであったのだが、アスレイにとっては違う意味で聞こえていた。

(ああいうって…性格がってことか?)

 それまでアスレイはネールの性格に対して考えていたため、勘違いをしてしまった。
 レンナの顔を見つめたアスレイは、彼女の肩を掴み、そして力強い口調で言った。

「多分レンナには合わないから止めといた方が良いって」

 当然その台詞は胸元に対してのものだと、レンナも勘違いしていたわけで。
 急速に顔を赤くさせた彼女は、声を大にして言い返した。

「大きなお世話よっ!」







   
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