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第七幕 転生歌姫と王都大祭

第七幕 23 『武神杯〜予選 第6試合』

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『凄まじい激戦を制したディズリル選手に今一度盛大な拍手を!』

 舞台から引き上げるところ、再び拍手が巻き起こるので手を上げて応える。
 こんな顔を隠した怪しげな人にまで声援を…何だかスミマセン。




「くあ~!また予選敗退かよ…!クジ運悪すぎだろ俺…」

 観客席に戻ると、さっきまで私と戦っていた彼が悔しがっていた。

「え~と…お疲れ様…?」

 何て声をかけて良いか分からず、ヘンな事を口走ってしまった。
 何だよ『お疲れ様』って…これじゃ馬鹿にしてるみたいじゃないか…

「いやあ…あんた、強かったなぁ…」

「あなたも…凄く強かったです。良かったら名前を教えてもらっても?」

「ああ、俺はウィラーのBランク冒険者でジリオンと言う。しかし、去年も一昨年も予選で優勝者に当たっちまったし…アンタもそれに匹敵するくらいだったし。一体どうなってんだ…」

 …何というくじ運の無さ。
 しかしそのジンクスは私としては喜ぶべき事か。

 だけど…Bランクって言ってたけど、強さだけならAランク相当だと思うし…毎回予選敗退は相当悔しいだろうねぇ。

「ま、今回も観戦を楽しみにしておくさ。あんたの活躍を期待してるぜ」

「ええ、あなたの分まで頑張ります」

 最後に、お互いの健闘をたたえて握手を交わすのだった。









『第6試合の選手の皆さん、準備はよろしいですか?』

 さあ、次は第6試合だ。
 この試合の勝者が本戦での私の最初の対戦相手となる…かもしれない。


 舞台上の選手たちを見てみると…

 私が言う『強者の雰囲気』と言うのは、主に武術の鍛錬を積み重ねて得られる類のものを主眼としているのだが…そういう意味では今舞台上にいる選手たちの殆どからはそれ程のものは感じられない。

 しかし、その中でも二人ほど気になる選手がいる。

 一人は長弓を携えた…この国ではあまり見ることは無いエルフの少女(?)。
 身に纏う雰囲気からは只者ではないことが察せられる。
 エルフは美形揃いと言われているが、彼女も新緑のような鮮やかな緑の髪と瞳を持つ凛とした美少女だ。
 彼女らは長寿の一族なので、見た目通りの年齢であるかは分からないが…

 もう一人気になるのは…とても大きな魔力が感じられる、こちらもやはりエルフの青年。
 多分、相当に優れた魔導士ではないだろうか?
 出で立ちも魔導士のそれで、魔法の発動を補助するためか自身の背丈ほどもある杖を手にしている。
 先の少女と同じような緑の髪と瞳で顔の造作も似ており、もしかしたら肉親なのかもしれない。

 二人とも混戦だと不利になりそうな戦闘スタイルだと思うのだが…果たしてどう出るか?






『皆さんよろしいようですね。では、第6試合…始めっ!!』

 開始の合図とともに、やはりあの二人が一斉に狙われる!!

 二人がどう対処するのか注目していると…

 バキィッ!!

「ぐえっ!?」

 ドゴッ!!

「あがっ!?」

 ベキッ!!

「あべしっ!?」

 …
 ……
 ………



「…私の知ってる弓の使い方と違いますね」

 ケイトリンが呆れたように呟くが、完全に同意である。
 あのエルフの少女は選手たちのおよそ半数から襲われたのだが、あの弓でどうやって凌ぐのかと思ったら…矢を放つのではなく、ブンブンと弓を鈍器の如く力任せに振り回して並み居る敵を殴り倒していったのである。
 確かに弓は金属製で重量もそれなりにありそうだったが…


「あっちの魔導士(?)も同じですよ。杖を振り回して…魔法なんて一度も使いませんでしたよ」

 そう、もう一人のエルフ青年も手にした細長い杖を無造作に振り回して、まるで鬱陶しい羽虫でも払うかのように敵を一掃してしまった。



「さ、あとはアンタだけだね。弟だからって手加減はしないよ。…ったく、アンタのクジ運が悪いから予選で当たっちゃうのよ」

 二人だけになったところで、少女が青年に話しかける。
 どうやら二人は姉弟らしい。
 そしてここにもクジ運が悪い人たちが…  

「…クジ運の無さはお互い様だろ。手加減しないのはこっちも同じだ。…[氷槍]!!」

 エルフ青年がここで始めて魔法を発動させると、いくつもの氷の槍が現れてエルフ少女に襲いかかる!

 彼女はその尽くを軽快な身のこなしで難なく躱すが…

「[烈]!!」

 青年の言葉に呼応して氷の槍が弾ける。
 そして無数の氷のつぶてとなって再び少女を襲う!

「[風壁]!!」

 少女の魔法によって彼女の周囲には風の結界が渦巻き、氷の礫を弾き飛ばした!

 と、今度はエルフ少女が素早く矢を番えて立て続けに放った!!

 矢は彼女自身の風の結界に巻き込まれ……いや、威力を増しながらいくつもの矢が正確に青年に降り注いだ。
 どうやら計算ずくの事だったらしい。



 飛来する何本もの矢の雨をかいくぐりながら青年は次の魔法の詠唱を行ってる。
 彼ほどの魔導士が詠唱を行うということは…かなりの大技を使うつもりなのだろう。

 ビリビリと、練り上げられた魔力の波動が離れていても感じられるほどだ。
 そして、矢の雨が一瞬途切れたタイミングを見計らってそれを開放する!!

「[絶凍禍炎]!!」

 強烈な凍気が揺らめく青白い炎のように渦巻き、舞台上を覆い尽くしていく!

 冷気系上級魔法で、[絶凍気流]の派生魔法だ。
 効果範囲はこちらのほうが広いが、威力がその分分散してしまう。
 ただ、もともと人間相手には過剰な威力だから大きな問題ではないのだろう。

 この飽和攻撃に、エルフ少女はどう対処するのか…!



「[昇風]!!」

 すると彼女は魔法によって猛烈な上昇気流を生み出し、それを利用して大きく跳躍する!

 殆ど飛翔といった跳躍で一気に青年との距離を詰めて……手にした長弓を振り下ろした!!

 だから使い方がおかしいって!?

「ハァーーーッ!!」

 ドゴォッ!!

 大きな破壊音が響き、舞台の床が砕ける!


 辛うじて躱した青年だったが、その威力を目の当たりにして顔が引き攣っている。
 …そうだよね。
 あれ戦鎚バトルハンマーとかの威力だよ…



「避けたからってホッとしてんじゃないわよ!!」

 エルフ少女の攻撃はまだ終ってなかったらしく、叩きつけた弓を放り出して、今度は矢筒から矢を抜き取って直接手に握り、神速の踏み込みからまるでレイピアのように突き出した!!

 弓の打撃攻撃を躱したところで体勢を崩していた青年は、今度こそ躱しきれずに矢が胸に突き刺さる。

 それで戦闘不能と判定されたらしく、青年は舞台外へと弾き出されてしまった。


『そこまでっ!!』

 息つく間もない高度な戦いに固唾をのんで見守っていた観客は、その一言で我に返り…次いで大きな歓声を上げる。

『第6試合の勝者は…シフィル選手です!!』






「いや~、とんでもないですねぇ…あの子がカティア様の次の対戦相手になるんですかね~?」

「予選会の順番通りならね。でも、本当に強かった…これは腕が鳴るよ」

「弓矢とはいったい…」

「あはは…あれは驚いたね。遠近隙なし、実は理に適った使い方…なのかな?」

 風系の魔法を攻防に巧みに織り交ぜていたし、高速移動もある。
 守勢に回ると一気に畳み掛けられてしまうかもしれない。
 やっぱり近接戦闘を仕掛けた方が突破口は開けるような気がする。



 そんなふうにあれこれ戦いのプランを考えていると、激戦の余韻に浸る間もなく次の試合の選手達が入れ替わりで舞台に上がっていくのだった。

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