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第十一幕 転生歌姫と迷宮の輪舞曲〈ロンド〉
第十一幕 27 『隠し部屋』
しおりを挟む「ふぅ……やっと倒せたね…」
強力な再生能力を持つヒュドラーとの戦いは長期戦を余儀なくされたため、かなりの時間を要したが…これで一息つける。
ギリギリの攻防は常に緊張感を孕んでいた事もあって、流石にみんな肩で息をしている。
「第5階層で出るようなボスじゃ無かったッスねぇ…」
「流石はカティアさんですわ。期待を裏切りませんわね」
「いやいやいや…私のせいじゃ無いでしょ。…多分」
ちょっと自信がない。
「きっと、隠し部屋の番人だったんじゃないかな……例の本が鍵になってるのかも」
そう言い訳(?)しながら、鞄から件の本を取り出す……って!?
「光ってるの!」
「どうやらカティア様の推測で正解みたいですね」
そうみたい。
だけど…ここからどうすれば良いのだろう?
何か、こう…この光が隠し扉の位置を指し示してくれるとか無いの?
今のところはただ光るだけで、その兆候は見られないのだけど…
「…取り敢えず部屋の中を調べてみようか」
「前みたいにカティアちゃんが壁に触ったら開くんじゃないッスか?」
「いや~、今回は賢者の遺した仕掛けだろうから…印は関係ないと思うけど…」
ヘリテジア様くらいしか関わりが無かったらしいし…
「その本を持って歩き回ったら何か反応があるのでは?」
「そうだね…そうしてみるよ」
というわけで、淡く金色に輝く本を手にボス部屋の壁に沿って歩きながら、何か反応が無いか見ていく。
そして…
「…光が強くなった?」
「だね。……で?そこから先は…」
下層への階段がある部屋に通じる扉の近く、一見してなんの変哲もない壁際まで来たときに、本が放つ光が強くなった。
…だが、それ以上の反応が無い。
ここからどうすれば…?
少し考えて…私はあることを思い出した。
「『天に至る道をここに開け』…」
し~ん…
「カティアさん、今のは?」
「ん~…賢者の塔の時はこれで行けたんだけどね。ダメみたい」
賢者の塔と同じようにキーワードが必要なのかも?と思ったのだがハズレだったようだ。
少なくとも他の言葉だろう。
「……では、その本の中身に何かヒントがあるのでは?」
「本に…?あっ!!そう言えば!」
カイトの言葉でもう一つ思い出した事がある。
私は急ぎ本を開いて目的のページを探す。
すると…!
「あった!!」
そのページは、以前見たときは何も書かれていない空白のページだった。
なんの脈絡もなく突然そこだけ真っ白だったので不自然に感じていたのだが…
「…文字が浮かび上がってますね」
「でも何て書いてあるか分からないッス」
そう、空白だった筈のページには光る文字が浮かび上がっていたのだ。
もちろん、他のページと同じように日本語である。
これが恐らくキーワードなのだろう。
私は早速それを試してみることにした。
「『深淵へと至る閉ざされた扉をここに開け』!」
……深淵とか。
自分自身かも知れない人物が考えたのかと思うと、ちょっと恥ずかしかったが、この場にそれが分かる人が居ないのが幸いだった。
もしレティが居たら、生暖かい目を向けてくるに違いない。
私の内心の葛藤をよそに、壁面には反応が現れた。
光のラインが走り、扉の形を描き出す。
そして「ガコンッ!」と音がしてゆっくりと扉型の壁面が奥に引っ込んで行った。
現れた通路はかなりの長さがあるみたいで、暗く先が見通せない。
無言で皆と顔を見合わせる。
そして、お互いに頷き合う。
とにかく、入ってみないことには始まらない。
「ふふ…賢者様の隠し部屋、楽しみです」
リーゼさんが心底嬉しそうな表情でそう言う。
スイッチが入ったかな…?
いったいここに何が隠されているのか……緊張と期待と少しの不安でドキドキしながら、私達は先に進むのであった。
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