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レティシア15歳 輝く未来へ
第135話 一歩
しおりを挟むカティアとルシェーラとともに学園を出たレティシアは、帰り道の途中で彼女たちと別れた。
そしてモーリス公爵家王都邸に帰る前に、モーリス商会に向う。
今日は入学式ということもあって、レティシアは特に仕事の予定は入れてなかったのだが……なんとなく顔を出す気になったのだ。
時刻は既に夕暮れ時。
赤く染まる街並みを彼女は足早に歩いていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おつかれさま~!」
モーリス商会の事務所にやって来たレティシアは、今も就業中のスタッフたちに元気よく挨拶する。
それはいつものことなのだが……会長の見慣れない姿に彼らは目を丸くする。
「あ、会長……お疲れ様です。その格好は……あぁ、今日から学園なんでしたっけ」
彼らもレティシアが学園に入学すること自体は知っていたが、やり手の経営者である自分たちの上司のイメージとは、あまり結びついていなかったらしい。
「あ、そういえばまだ制服のままだったっけ……」
朝着替えた時は違和感を抱いていたものだが、一日それで過ごしていたらすっかり慣れてしまったようだ。
しかし改めて意識すると、彼女は無性に気恥ずかしくなってきた。
スタッフたちの視線も何だか生暖かいような……と、少し気まずさも感じる。
「えっと……今日は何か問題とか発生してないかな?」
と、彼女は微妙な気持ちを誤魔化すように聞いた。
「会長に報告するような問題や、急ぎの案件は特に無いですね。副会長もいますし……」
「そ、そう?じゃあ今日はもう帰ろうかな……」
何となく顔を出しただけなので、特に問題がないのであれば……と、彼女はその場をあとにしようとした。
しかし、それを女性スタッフの一人が引き止める。
「副会長のところに顔を出したらどうですか?制服姿の会長、すごく似合ってて可愛いですから。ぜひ副会長にも見せてあげてください!」
その言葉に、他の女性たちも『うんうん』と頷いていた。
「リディーに?何で…………」
改めてそう言われると、余計に気恥ずかしさが増してしまうのだが……
「「「まあまあ」」」
「ちょ、ちょっと……!?」
女性スタッフたちは渋るレティシアの背中を押し、副会長の執務室の前まで強引に連れていく。
すると、騒ぎを聞きつけたリディーが、ちょうど扉を開けて顔を出した。
「騒がしいな。いったいどうし……」
彼は眼の前の状況が飲み込めず面食らい、途中で言葉を切る。
「「「それでは、ごゆっくり~!」」」
固まったリディーとレティシアをその場に残し、彼女たちは立ち去っていった。
どうやらモーリス商会の面々……特に女性たちにはリディーの気持ちなどお見通しで、こうして後押しする機会を待っていたようである。
「……何なんだ、いったい?」
「さぁ……?」
「……まあ、いい。何か用事があるんだろ?」
そう言って気を取り直した彼は、レティシアを執務室の中に招き入れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それで、どうしたんだ?今日は入学式だったんだろ?」
「う、うん。その……別に用事があった訳じゃなくて、帰り道に寄っただけなんだけど……」
「そうか。まあ、特に問題はないな。……今日くらい商会の仕事は忘れてもいいだろうに。エリーシャさんも、あまり根を詰めないように言ってただろう」
半ば呆れたようにリディーは言う。
何か新しいアイディアを思いついたりすると、時間を忘れて作業に没頭してしまうレティシアだが……エリーシャはそれを心配して、常日頃から主人に対して注意していた。
ましてや、これから学園生となれば更に時間を押して無理するかもしれない……と思えば尚更だろう。
「まあ、良いじゃない、すぐに帰るつもりだったんだからさ。…………それより、私の格好って……変じゃない?」
「ん?制服のことか?……いや、よく似合ってると思うぞ」
「ホント?……えへへ、ありがと」
改めて聞くのは恥ずかしかったが、彼から似合っていると言われるのは純粋に嬉しいと彼女は思った。
「制服か……懐かしいな。アスティカントにも制服はあったんだが、アクサレナの方が都会的で洗練されてる気がする」
言葉通り懐かしそうに目を細めて彼は言った。
リディーはレティシアに出会う直前にアスティカントの『学院』を卒業してるので、かれこれ七年も前のことである。
「懐かしい……なんて、リディーってばオジサンみたいだよ」
「失礼な。俺はまだ若い」
「そりゃあ、私とそんなに違わないしね」
レティシアはそう言うが、実際には二人の年齢はそこそこ離れている。
しかし彼女は、前世の自分の年と近いリディーのことを同年代くらいに感じてるのだ。
そして彼女の言葉に、リディーはハッとなる。
初めて出会った時から二人の年齢差が縮まったわけではない。
しかし彼女が成長するに従い、彼がその差を意識することは少なくなっていた。
もとより精神年齢は年相応ではないと思っていたので、尚更のこと。
身分差も、年齢差も……それを枷にしているのは、結局は彼自身だ。
そして、彼が自分の想いから目を逸らすためのそれらの言い訳も、最近は揺らぎつつあった。
彼がそれを自覚したわけではないだろうが、そのことばは自然と口をついて出た。
「……なぁ、このあと夕食でも食べに行かないか?その……入学祝いということで」
言ってから彼は自分自身で驚いたが、それを撤回することはなかった。
「え!?リディーが奢ってくれるの?」
「ああ、もちろん。お祝いだからな」
「やった!ありがとう!!」
彼女は心から嬉しそうに、満面の笑顔で答えた。
二人はこれまでも、仕事の合間に一緒に外食することなどは普通にあったのだが……
少なくともリディーにとっては、これまでとは大きく意味が異なるだろう。
ほんの僅かながらも、その一歩を踏み出したのだから。
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