森の魔女の後継者

O.T.I

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09 ブルームの街

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SIDE:イェニー

 グレン様がご無事で本当に良かった。
 あの方にもしもの事があったら、私は……


 と、とにかく……こうして再会できたのは非常に喜ばしいことだ。

 あの時、正体不明の強力な魔物(後で聞いた話によればキマイラだったとの事)に襲われて、体勢を立て直せないまま雇った冒険者共々散り散りになってしまった。
 グレン様が食い止めて撤退を指示してくれなければ、皆無事ではいられなかっただろう。
 だが、それは己の不甲斐なさを否が応でも突きつけられる事でもあった。
 きっと皆同じ思いだろう。


 何とか森から抜け出して……きっとグレン様も遅れて合流すると信じていたのに一向に戻ってくる様子もなく、ただただ焦りが募るばかりだった。

 だから、再度森に引き返してグレン様を捜索しようとブルームの街を出発しようとしたその矢先……そのお姿を遠目に確認した時の私の気持ちは、とても言葉で言い表せるものではなかった。
 そして、グレン様を助けてくれたと言う少女……メリアを見たときの衝撃も。


 この世にこんなにも美しい女性がいるのだろうか?

 まず最初に思ったのはそれだ。
 そして、身の程知らずな嫉妬心も。


 グレン様の命の恩人に対して、何と醜い感情を抱いてしまったのだろうか。


 彼女は、どこかしら人を遠ざけるようなそっけない態度の中にも、滲み出る優しさが言葉の端々に感じられた。
 それで私は益々自己嫌悪を抱いてしまうのだった。

 だが、カールが彼女に食って掛かった時、逆に私は少し冷静になることができた。

 とにかく、彼女はグレン様の命の恩人であるし、グレン様も信頼しているご様子。
 であれば私ごときが疑念を挟む余地などない。

 だが、他の皆はカールと同じように彼女を信用するに至っていない。
 それも無理のないことだろう。

 彼女はどう見ても年若く……我々の中でも最年少のカールよりも更に若く見える。
 おそらく14~15歳くらいだろうと思うのだが、そんな少女が伝説の魔女の技を受け継いでいるなどと……俄に信じることは出来ないだろう。

 しかし私は、彼女が力ある者ではないかと思い直す理由があった。
 それは、彼女に付き従う狼……
 先程から気になって仕方がなかったのだが、あれはおそらく『ルナ・ウルフ』だ。

 大人しくメリアに寄り添っている様子と、従魔の首輪をしているところを見れば、彼女がテイムしてるものと思われる。

 私は最初、それが信じられなかったのだが、この目で実際に目にしてる以上は信じざるを得なかった。
 と言うのも、ルナ・ウルフは『孤高の獣』とも言われ、人に懐くことなど無いと言われていたからだ。
 なのに、あのの様子はすっかり人に馴れているように見えた。

 そのようなことを話したら、皆の彼女を見る目が少し変わったのを感じた。

 そして、私はとうとう我慢できずに……










 うん。
 素晴らしい毛並みでした。
 思う存分モフモフを堪能させていただきました。

 念入りに手入れされているようで、手触りの良さもさることながら、全く獣臭さを感じず、むしろお日様のいい匂い。
 私はすっかりレヴィちゃんの虜になりましたとも。


 ……まぁ、それは置いといて。


 改めて、私は彼女の事を信用すると宣言した。
 そして、姫様をお救いください……そう、お願いするのだった。

 すると、彼女は「力を尽くす」と言い、優しく微笑んでくれた。
 私はその笑顔にも魅力されてしまう。




 そして、そのやり取りのあと、他の皆……あのカールですらも彼女にお願いをするのだった。











SIDE:グレン


 まさか彼女が部下たちに信用されないなどとは夢にも思わなかった。

 俺は自分自身の人を見る目は確かだと思っていたのだが……他者にとってそれが納得できる理由にならないのは、まぁ当然のことか。

 最終的にはイェニーのお陰で事なきを得たが……彼女には感謝しなければな。


 ともかく、今日のところはブルームの街で一泊し、明日早朝から王都に向けて出発することになる。
 宿の手配と、人数分の馬の手配……っと、メリアは馬には乗れるのだろうか?

「メリア、今日はここで一泊して、明日早朝より王都に向けて出発したいのですが……乗馬は出来ますか?」

「乗馬?……いえ、したことないわね。レヴィに乗るわけにもいかないし……」

 流石にレヴィに乗って走るのは不安定すぎるだろうな。
 ……気を失った俺を乗せて歩くくらいは問題なかっただろうが。

「そうすると相乗りになりますね。では、私が……」

「グレン様!ここは同じ女性である私が適任かと思います!」

 俺の馬に同乗してもらおうと言いかけたところで、イェニーがそう言ってくれた。

 確かに、配慮が足りなかったかもしれない。
 ……そういうところがダメなんだと、よく言われたものだな。


「そうですね。すみませんがイェニー、よろしく頼みます」

「ごめんなさい、イェニーさん。よろしくね」

「はっ!!お任せください!」




 さて、そんな話をしながら街に入って本日宿泊する宿へと向う。
 森の探索に向かう前に止まった宿で、部下たちに聞いたところ、部隊の人数分の部屋はまだ押さえてるとの事。
 あとはメリアの部屋が追加で取れればよいが……まだ空きはあるらしかったとの事なので、問題はないだろう。

 街に入る頃には日はすっかり傾いて、町並みを茜色に染め上げていた。


 ブルームの街は辺境にある割にはかなり活気があって、今も街路には多くの人が行き交っている。
 仕事を終えて家に帰る者、これから酒場に繰り出す者など様々だ。

 民家からは夕餉の準備をしているであろうと思しき良い匂いが漂ってきている。
 ……途端に腹の虫が鳴き始めるのだが、幸いにも街の喧騒に掻き消されるので、聞かれる心配はなさそうだ。


 活気のある街路を宿を目指して歩いていく。
 そして、ギルドの前に差し掛かった時、メリアが声をかけてきた。

「ごめんなさい、グレン。ちょっとギルドへ寄っていってもいいかしら?」

「ギルドですか?構いませんが……」

「森の比較的浅いところでキマイラが出た事を報告しておかないと。あ、先に行ってて。どこの宿か教えてくれれば後から行くわ」

 そうか、あそこでキマイラか出現したのがイレギュラーなのであれば、念のため報告した方が良いか。

「私も付き合います。目撃者の証言は複数あったほうが良いでしょう。イェニー、先に行っててもらえますか?」

「あ、いえ。私もお付き合いいたします。我々が襲撃された強大な魔物……キマイラのことは我々もギルトにも報告していたので」

「そうですか。それならお願いします。他の者は先に宿に行っててください。メリアの部屋も押さえておいてもらえますか?」

「「「はっ!」」」


 そうして、我々はギルドへと入っていくのだった。
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