【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
12 / 151
剣聖の娘、王都に行く

路地裏

しおりを挟む

 翌朝。


「ふわぁ~……おはよ、クレイ。……なんで私のベッドで寝てるの?」

「……それは俺のセリフだ。お前のベッドは向こうだぞ」

「んぁ?……あ~、ホントだ~。そう言えば昨日の夜はちょっと寒かったからね~」

「……」


 エステルは普段は妹弟と一緒に寝ている。
 そして季節はまだまだ肌寒い。
 人肌恋しくなるのは仕方がない事なのだ。

 だが、いくら女として意識してないなどと言っても、クレイだって年頃の少年である。
 流石に同年代の女の子と同衾すれば冷静ではいられない。
 エステルは中身は少々アレだが、見た目は美少女であるから尚更だ。
 そして寝起きのせいで寝間着が着崩れて妙に艶かしい。


「ん……?何か硬いモノが……」

「だぁ~っっ!!!早く出てけっっ!!!」


 それは生理現象だ……と、クレイは自分に言い聞かせるのだった。














 そんな、朝のドタバタはあったものの……

 エステルとクレイは予定通り、騎士登用試験を受けるための手続きを行うため、王都騎士団の詰所の一つへと向かっていた。


「ほら、早くいこ~よ!!こっちこっち!!」

「おい!勝手に行くんじゃない!!お前、場所わかってんのか!?」

「方角はあっちでしょ?テキトーに行けば着くでしょ」

「バカ!!こんな入り組んだ路地を適当に進んだら……」
















「迷ったなう」

 さもありなん。


「言わんこっちゃない……とにかく一旦戻るぞ」 

「ん……?……!?クレイ、あっちの方から誰かの悲鳴が聞こえる」

「聞けよ。……悲鳴?俺には何も聞こえなかったが……まぁ、お前が言うなら間違いないか」


 エステル・イヤーは数百メートル先で落ちた針の音も聞き分ける。
 ……本当にこの娘は人間なのだろうか?


「だが、揉め事に首を突っ込むんじゃないぞ」

 今にも飛び出していきそうなエステルに対して、クレイはそう釘を刺す。

 しかし。


「でもクレイ、私達は騎士を目指してるんだよ?正義と秩序のために戦うのが騎士でしょ!!」

「……お前の口から秩序なんて言葉が飛び出すことこそ驚きだが。でも、まぁ……正論ではある。仕方ない、行くぞ!!」

「うん!!!」

 そして二人は、悲鳴が聞こえたという方に向かって路地を駆け出した。





















 二人が駆けつけた細い路地の先。
 
 そこは行き止まりになっていて、若い男女が数人のごろつきに追い詰められているところだった。


「へへへ……もう逃げらんねぇぞ」

「痛い目見たくないだろ?そっちの嬢ちゃんを置いてけば見逃してやるぜ?」

「おっと、有り金も忘れずに置いてけよ!!」

「「「ギャハハハッッ!!!」」」

 典型的なゴロツキだ。

 この辺りはスラムというほどではないが、治安が良い場所とも言い難い。
 裏路地に入ればこのような手合いが問題を起こす事など日常茶飯事だ。


「……まったく。揉め事は出来るだけ避けたかったんだが……」

 追い詰められた男がそう言って、ゴロツキたちと戦う姿勢を見せようとした時だった。



「まてまてまてぇーいっっ!!」

 路地裏に快活な少女の声が響き渡る!!


「あん?何だぁ?」

「何だ?ガキども……って、メスの方は随分と上玉じゃねえか」

「はは!!お楽しみが増えたな!!」


「黙れ悪党ども!!こんな朝っぱらから悪事を働くなど……例え天が許しても、この正義の騎士 (仮)エステルが許さないよ!!」

「まだ騎士じゃないだろ……」

 クレイが小声でツッコミを入れるが、エステル・イヤーは都合の悪いことは聞こえない!!


「へへ……嬢ちゃん、頭湧いてんのかぁ?」

「男はさっさとボコって身ぐるみ剥いじまおうぜ!!女は組み伏せてお楽しみだ!!」

 そしてゴロツキたちはエステルたちに襲いかかる!!


「おい、剣は使うなよ。殺してしまうと厄介だ」

「こんなやつらに剣なんて必要ないよ!!うりゃあ!!」


 エステルは手近に迫っていたゴロツキの一人に対し、一瞬で間合いを詰めて容赦ないボディーブローを放つ!!


 ドゴォッッ!!!

「うがあっ!!?」

 目にも止まらぬスピードで迫ったエステルを視認することすら出来ずに、まともに攻撃を受けたゴロツキは盛大に吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
 そして白目をむいて泡を吹いて気を失ってしまった。
 ……死んではいないはず。


「あ、こら!!手加減しろって!!」

 ガッ!!

「うぐぁっ!?」

 自分もゴロツキの一人を迎え討ちながら、エステルに注意するクレイ。

 彼の攻撃を受けた男は悶絶して蹲った。


 人数の不利をものともせずに、エステルたちは次々とゴロツキどもを叩き伏せ……

 さほど時間もかからずに、悪漢たちは全員が地を這う事になるのだった。


















「よし!!成敗!!」

「はぁ、やれやれ……」

 高らかに勝利宣言するエステルと、早々に面倒事に巻き込まれたことを嘆いて溜め息をつくクレイ。

 そして、路地奥に追い詰められていた男女は……


「すまない、助かった」

「ありがとうございます!」

 改めて助けた男女を見てみると……

 二人とも黒髪黒目で非常に整った顔立ち……有り体に言えば美男美女である。
 よく似た容姿であることから、恐らくは兄妹であろうか。
 男はエステルたちより少し年上……年の頃は十代後半から二十代前半くらいに見える。
 女の方はエステルたちと同年代くらいの少女だ。
 あんなことがあったにも関わらず、エステルたちをキラキラした目で興味深そうに見ている。

(こいつは……格好は平民の服だが……お忍びの貴族とかか?)

 クレイは彼らの隠しきれない気品を感じ取ったが、これ以上の厄介事は御免被りたいと思って、敢えて触れなかった。
 


「い~え~!お気になさらず!……でも、もしかして助ける必要はなかったかな?」

「……何故だ?」

 男の目が鋭くなる。

「お兄さん、凄く強いでしょう?私の勘がそう言ってる。よく当たるんだよ!!」


 エステル・シックスセンスは的中率約2割だ。
 とんだ大ホラ吹きであるが、彼女にその自覚はない。
 なぜなら、外れた時は綺麗サッパリ忘れるから。
 もちろん、女の勘など全く持ち合わせていない。

 しかし、こと相手の強さに関してだけは間違いない事をクレイは知っている。
 だが、彼女が誰かを強いと言う事は滅多にない事なので驚きをあらわにしている。


「……確かに、こいつ等程度に遅れは取らないが。助けてもらったのに変わりはない。何か礼がしたいところだが……」

「良いんですよ!!私達は正義の騎士!!困ってる人がいれば助けるのが使命なんです!!」

 何やら変なスイッチが入ったようだ。

「まあ……騎士様だったんですか?」

「あ~、いえ……そうではないんですけど……。あ、そうだ。礼……と言うわけではないのですが、私達……道に迷ってしまって……出来れば道を教えてもらえませんか?」

 助けた少女が騎士と聞いて更に目を輝かせるが、クレイはバツが悪そうに誤魔化し、当初の目的を果たそうとする。


「俺たちもこの辺りに詳しいわけじゃないが、知ってる場所なら……」

「助かります。実は……」


 そうして、クレイは自分たちが騎士団詰め所に向かっていることを説明する。


「あぁ、それなら直ぐそこだ。案内しよう。……それに、こいつらも引き渡す必要があるしな」


 ということで、男の案内で騎士団詰め所に向かうことになるのだった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...