【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
55 / 151
剣聖の娘、裏組織と戦う!

聖女騎士爆誕

しおりを挟む



「大丈夫ですか?」

「は、はい……助けて頂いてありがとうございました」

 攫われそうになっていた少女は、震える声でエステルに礼を言う。



 なお、彼女を攫おうとしたゴロツキどもはエステルが全員瞬殺(殺してない)した。
 描写することなど全くないくらいに一方的で、戦闘と呼ぶのもおこがましい。
 ドラゴンが蟻を踏み潰すが如くだった……とだけ言っておこう。

 その男どもはボロ雑巾のように地面に転がってピクピクしている。
 暫くは目を覚まさないだろう。
 ……もう二度と目覚めないなんて事はないはず。



「本当にありがとうございます。何とお礼を言えばよいか……」

「いえいえ、お礼なんて必要ないですよ!!騎士として当然の事をしただけです!」

 少し落ち着いた少女の改めてのお礼の言葉に、エステルは当然の事だと言う。
 騎士云々は置いておいて、それは彼女の本心である。


「騎士様……?」

 実は少女は、エステルが騎士だと言うのは半信半疑であった。
 自分より年若い少女であり、その格好も雰囲気も騎士をイメージさせるものなど何も無かったから。
 強いて言うなら背中の大剣くらいか。

 しかし、実際にエステルの圧倒的すぎる実力を目の当たりにすれば、信じざるを得ないだろう。
 ……まぁ、エステルは騎士ではないのだが。


 そして少女は顔を上げてエステルに縋り付くようにして言う。


「騎士様!!どうかお願いです!!私の……私の妹も助けてください!!」

「妹さん?……妹さんも、攫われたってこと?」

 『妹も』という言葉からすれば、そういうことなのだろう。


「はい……。私は攫われた妹を探していたのですが、それでこの人達に目をつけられてしまったらしく……」

「あ、ちょっと待ってね。先にその怪我を治しちゃいましょう!」

「……え?」

 その言葉の意味が分からず少女は戸惑う。
 しかしエステルはそれには応えずに意識を集中して聖句を唱えはじめ……

 暖かく優しい光が彼女の手から溢れ出し、少女の身体を包み込んでいく。


「え……?こ、これは……聖女さまの……?」

 癒やしの奇跡を使うことができるのは聖女だけ……一般にはそう認識されており、エステルのような野良聖女も少数ながら存在する事はあまり知られていない。


「私は聖女じゃないですよ~。…………でも、聖女で女騎士……聖女騎士?……うん!それ、すごく良いかも!」

 自分の言葉に満足そうに頷くエステル。
 どうやら彼女は新たな設定を盛り込んだようだ。


「聖女騎士さま…………」

 そして少女はうっとりとした目でエステルを見つめる。
 圧倒的な強さでゴロツキどもを叩き伏せて自分を救い出し、奇跡の力で怪我をも癒やしてくれる……少女にとって憧れの対象となるのは無理もないだろう。
 ……エステルの残念な中身はまだ知らないのだから尚更だ。



「よし!これで怪我は治ったね!……それじゃあ、妹さんの事を教えてくれますか?」

「あ、はい……実は…………」


 そして少女はエステルに事情を説明する。


 まず、彼女の名はティーナと言うそうだ。
 そして妹の名はクララ。
 姉妹は両親とともに王都近郊の町に住んでいる。

 数日前、姉妹は買い出しのため王都を訪れたのだが……そこで妹が行方不明になったとのこと。

 何でも、最近の王都では若い娘が攫われて闇オークションにかけられ、国外に奴隷として売られてしまうという事件が頻発しているらしい。
 この国では奴隷制度など無く人身売買は違法なのだが、国外には合法の国も少ないながら存在する。
 そのような国の奴隷商人とコネクションを持つ大規模な非合法組織が暗躍していると考えられている。

 実際に何度か闇オークションや取引の現場を摘発していることから、それは間違いないのだが……
 当然ながら国も全力で捜査に当たっているが、捕まるのは末端の構成員ばかりで、未だその全容は掴みきれていないのだ。

 そしてもちろん、ティーナも騎士団詰所に妹の捜査依頼を出している。
 しかし、そのような状況だから妹が無事に見つかる可能性は低い……と言われたらしい。


「それで……両親には止められたんですが、自分で少しでも妹の情報を集めようとしたんです。そうしたら……」

 今回の事件が起きた……ということだ。


「むむむ………そんな悪の組織が存在するなんて……許せないっ!!」

 ティーナの話を聞いたエステルの瞳は再び怒りに燃える。
 そして……


「分かったよ、ティーナさん!!妹さんはこの聖女騎士エステルの手で必ず救い出して見せる!!」

「ほ、本当ですか!?」

「うん!!それに、そんな悪の組織はギタギタのメタメタのケチョンケチョンにしてやるんだから!」

 エステルは両拳を握りしめ気合を入れると、そう宣言した。
 ……さっそく聖女騎士を名乗ってる。


 そして。


「取り敢えずコイツらから情報を聞き出そう!」

 と言って、ゴロツキのリーダー格の男の上半身を起こし、背中に膝を当てて両肩を掴む。
 気付けを施すつもりだろう。
 そして、一呼吸おいたあと……


「えいっ!!」

 ボギィッ!!!

「ごぶっ!?………………………………」


 人体が発してはいけない音がしたと思えば、男は一瞬だけカッ!と目を見開き、直ぐに再び白目になって泡を吹く。
 さらに断末魔の痙攣すら始めた……


「……あ、あれ?確か父さんはこうやってたんだけど…………やばっ!?止め刺しちゃった!?」


 段々と動かなくなる男を見て焦りを見せるエステル。
 そして大慌てで…………

「か、回復回復ぅ~~~っ!!!」

 癒やしの奇跡を使う。



 それでどうにか男は死の淵から蘇り、一命を取り留めるのだった…………

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...