115 / 151
剣聖と聖女の帰還
相見える
しおりを挟むジスタルはその歩みを止めない。
そして周りにいた騎士たちも……彼の言葉に心を揺さぶられ未だ迷いながらも、ジスタルの移動に合わせつつ囲みは解かない。
そんな奇妙な集団が、後宮の方へと向かっていくのだ。
「……さっきの言葉は俺の本心には違いないですけど、こんなバカな真似をする奴は俺だけで十分ですよ」
思い出したように、そしてまるで釘を刺すように彼は言う。
実際のところ彼は他の誰かを巻き込む事は本意ではない。
「師匠が犠牲になるってんですか!?」
「師匠はやめろって、ディラック。……犠牲なんてそんな大層なもんじゃないさ。さっきは偉そうに騎士の矜持なんて語ったけどな……まあそれも嘘じゃないが、結局のところ俺も自分の感情を優先させただけの話だ」
最初に王に進言したときも、彼は努めて冷静であった。
しかし、エドナが後宮に連れてこられたかもしれないと聞いたとき……彼は無意識の内に行動していた。
そして遅ればせながら、彼女が自分にとってどれほど大きな存在なのかを自覚したのだ。
やがて彼ら奇妙な集団は後宮の手前までやって来た。
警備の騎士たちが厳重に人の出入りに目を光らせていたが、いったい何事かと驚きをあらわにする。
しかしそれも一瞬のことで、優秀な彼らは直ぐに自分たちの職務を思い出しジスタルの行く手を阻もうとする。
だが、それよりも先に……
「これは何事か?……ジスタル、なぜお前がここにいる?」
後宮の方から、その主であるバルド王がジスタルの前に現れた。
咎めるような言葉だが、やはりそこには感情の色が見られない。
あくまでも淡々と語りかけるのみ。
そして王の登場により、一部の騎士たちは素早く王の護衛に付き、そうでない者は膝をついて頭を垂れ臣下の礼を取る。
だが、ジスタルは膝をついたものの、視線は真っ直ぐに王に向ける。
「答えよ。なぜ俺の許しもなしに出てきたのだ。次は投獄だけでは済まされぬぞ」
王はやはり淡々と……しかし有無を言わせぬような鋭い言葉をジスタルに浴びせる。
ジスタルはそれに対して何事かを答えようとした。
だが……もう口にしかけていたそれをいったん飲み込んで、暫し考える素振りを見せてから……その場の誰もが予想しなかった言葉を返す。
「陛下、最近身体を動かされてますか?」
「……は?」
最近のバルドにしては非常に珍しいことに、一瞬何を言われたのか理解できなかった彼はキョトンとした表情で気の抜けた声を漏らした。
周りにいた騎士たちも唖然としている。
「お前は何を言ってるんだ……」
「いえ、かつては最強の騎士としても名を馳せた陛下が……最近は何かとお忙しくてめっきり腕が鈍ってるんじゃないかと思いまして」
「ほぅ……」
挑発のようにも聞こえるジスタルの言葉に、バルドはピクリと片方の眉を上げる。
そしてジスタルはなおも続ける。
「たまには思い切り身体を動かして、何やら溜まったものを吐き出さないと。どうです?俺でよければお付き合いしますよ、手合わせ」
腰に下げた剣の柄に手を当てながら、彼はそう言い放った。
それを聞いたバルドは……ほんの少しだけ口角を上げた。
それは笑みを浮かべるというほどではない。
しかし凍りついたはずの彼の心が、僅かにでも動いたということ。
剣聖の言葉は確かに王の琴線に触れたのだ。
「……よかろう。『剣聖』などと持て囃され自惚れているようだが、身の程を思い知らせてやろう」
周囲の騎士たちからどよめきの声が上がる。
全く予想だにしなかった展開に誰もがついていけない。
否。
一人だけ目を輝かせている者がいる。
「凄え……さすが師匠だぜ……!やっぱ男同士が分かり合うにはソレっきゃねえよな!」
自称『剣聖の弟子』は、感動で打ち震えていた。
しかし周りの先輩騎士たちは、『いや、展開おかしいだろ……』と内心で突っ込みを入れるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
王と剣聖が再び対峙したその時より、時は少しだけ遡る。
とにかく無理矢理にでも姉を連れて後宮を脱出する。
そう決意したエドナだったが……
しかしその前に、自分たちのために動いた結果として投獄されてしまったジスタルも救い出さなければ……と、彼女は考えていた。
そして、そう決めたからには即行動の彼女である。
エドナは部屋を出てジスタルを探しに行こうとするのだが……その前に。
「荒事になるかもしれないし、この格好じゃあね……」
今の彼女は後宮の寵姫に相応しいようなドレス姿である。
基本的には人目を忍んで行動するつもりの彼女だが、もし見咎められたときにその格好では確かに立ち回りはしにくいだろう。
そして彼女はクローゼットを物色し始める。
「う~ん……どれもヒラヒラして動きにくそうね……」
当然ながらそこにあるのは、今彼女が着ているような裾の長いドレスばかりだ。
それでも多少はマシなものが無いかと掻き分けながら探してみると……
「あ、これなら……」
そう言って彼女が手に取ったのは短衣とハーフパンツの組み合わせ。
もちろん、いかにも高級品らしく手触りの良い上等な布地で、他のドレスにも劣らない上品なデザインのものだ。
エドナは早速それに着替える。
そして……
「よし!今から助けに行くからね!ジスタル!…………って、何だか外が騒がしいわね……?」
気合を入れて意気込んだ彼女だったが、何やら遠くから伝わってくるようや騒がしい気配を感じて怪訝そうな表情をした。
しかし直ぐに気を取り直す。
何か騒動が起きているのなら丁度いい……と、彼女は部屋から出ていくのだった。
83
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~
黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。
待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金!
チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。
「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない!
輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる!
元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる