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「アスモデウスよ、お前を人間界に追放する」


俺の1400歳の誕生日パーティーに、父上である魔王サタンがそんな一言を言い放ちやがった。


「は? 父上、なんで俺が人間界へ追放されなければいけないのですか?」


「魔界のしきたりだ。魔王の家系に産まれたものは1400歳の時、人間界で3年間修行をしなければならない」


「嫌だ! なんで俺が人間界なんかに行かなきゃいけないんだ!」


「 お前の意見など聞いておらんぞ。これは魔王家の決まりだ」


父上は冷淡な口調でそう言った。


「人間界でしっかり修行するのだぞ」


俺の足元に黒い穴が出現し、俺の身体は穴へと吸い込まれていく。


「待ってくれ、父上! 嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」


こうして俺は魔界から追放され、人間界へやって来たわけである。





「グォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


目の前にいるのは、一匹の巨大なドラゴン。


「お前みたいな雑魚に用はねえんだよ!」


俺は手に魔力を込めて、ドラゴンに向けて魔法を放つ。


「《暗黒の雷(ダーク・ライトニング)》!!」


ドゴォオオオオオオンッッ!!!! 俺が放った暗黒の雷が、ドラゴンの巨体を包み込む。


「グォォォオオオオオオオッ!!」


断末魔のような叫び声を上げながら、ドラゴンは絶命した。


「ハッ! 口ほどにもないぜ」


俺は真っ二つになったドラゴンの死体を見ながら、鼻で笑った。


「それじゃあ暗くなる前に行きますか!」


俺は飛行魔法で上空へと飛び上がる。


「……!!」


何か聞こえた様な気がするが、俺はそのまま高度を上げ、空の先へと飛んでいく。


「待ってろよ、学校生活! 夢にまで見た青春が俺を待っている!」


魔王の息子でありながら、魔界では友達もおらずぼっちの俺だったが、人間界で青春を送ることをずっと夢見てきた。


「3年後には勇者になってやるぜ! 俺は必ず夢を叶えてみせる」


人間界で3年間修行し、勇者にさえなれれば父上だって俺のことを見直してくれるはずだ。そうなれば追放したことに後悔するだろう。


「待ってろよ、学校生活! 夢にまで見た青春が俺を待っている!」


俺はそんな決意を胸に、学校へと向かったのであった。





それは一瞬の出来事であった。私たちは旅の途中に運悪くドラゴンに襲われた。しかもクリムゾンドラゴンだ。

一国の軍隊が総力を挙げて挑まなければ勝てない、強敵という言葉では言い表せない規格外の魔物だ。


「姫様だけでも守らねば」


それでも我等はフィーナ姫様をお守りするため、果敢にドラゴンへと挑んだ。


「我らを囮にして脱出しろ!」


この老いさらばえた身体はこの時のためにあったのだ、そう思えば命も惜しくはない。


「こっちだ!」


私は決死の覚悟でドラゴンの意識を己に引きつけ、姫様を乗せた馬車から遠ざける。


「後の事は頼むぞ!」


姫様を守るためならこの命惜しくない、そう思った時だった。


「お前みたいな雑魚に用はねえんだよ!」


眼の前に、突然見た事もない少年が現れた。数瞬かかってようやくその少年が上から降ってきたのだと理解する。

この少年はドラゴンと戦おうというのか!? あまりにも無謀なその行為に、私は少年を引き留めようと声をあげた。


「《暗黒の雷(ダーク・ライトニング)》!!」


少年の手からは信じられない魔力量の魔法が放たれ、ドラゴンへと直撃する。

ドゴォオオンッッ!! 少年の手から放たれた黒い雷は、巨大なドラゴンを黒焦げにした。


「グォオオッ!!」


断末魔のような叫び声を上げながら、ドラゴンは絶命した。少年はパンパンと手を払いながら私の方へ向き直る。


「それじゃあ暗くなる前に行きますか!」


そう言うと、少年はそのまま上空へと飛び上がってしまった。本当に一瞬の出来事であった。


「姫様!! ご無事ですか!!」


我に返った私は、あわてて馬車へと駆け寄るのだった。


「ご安心ください! 意識を失ってはおりますが姫様はご無事です!」


「そうか! でかした!」


安心した事で、どっと疲れが押し寄せてくる。信じられない出来事が立て続けに起こったせいか、相当に精神を消耗したようだ。


「一体あの少年は何者なのだ?」


私は我が目を疑うように、少年が飛び去った方向をずっと見ていた。
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