ゾンビは治せる病気です~Dr.アピリス診療所~

長多 良

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第8章 ゾン神家の一族

第81話 消えた死体

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「少し飛ばしますよ!ジョージとメアリさんはしっかり掴まってて!」

 ずっと探していたDr.アシハラ、本名、葦原ナツカさん。そして、ニニカさん。なんという偶然か、二人は今、骸城むくろぎ村というところに行っていて、そして二人とも連絡が取れなくなっている。否応なく胸騒ぎがして、私、アピリスと、ジョージ、メアリさんは私の車で一路骸城村に向かっている。

 どうか、二人とも何事も無ければいいのだけれど・・・。

 ◆

「い、いやぁああああーーーーー!!」

 ナツさんの悲鳴が響き渡る。

 わたし、村井ニニカも流石に声を失ってしまった。普段ゾンビを見慣れているとはいえ、目の前に首無しの死体が転がっていれば声を失ってしまう。

 死体は部屋の奥、燃え上がる炎の向こうにある。炎の熱で部屋に入れないこの状況では、ハッキリと見えるわけではないが。確かに首無しの死体がそこにあった。女性ものの、紫色の着物に身を包んでいる。

 もっとよく見ようと目を凝らすが、その時、部屋の中の火がより一層燃え上がり、全てを隠してしまった。

「きゃぁ!!」

 熱に当てられたナツさんが再び悲鳴を上げる。そこに、どたどたと何人かの足音が近づいてくる。

「ナツさん、ニニカちゃん、大丈夫~!?」

 先頭はあーちゃんだ。家の人に火事を伝え、連れて来てくれたらしい。先ほど対応してくれた松子さん、竹子さん、梅子さんとは違う、若い、と言っても30歳くらいの男性が二人、消火器を持って駆けつけてきた。

「うわぁ!」
「大丈夫か!あんたら!!」

 二人はわたし達を後ろに下がらせて、消火を始めた。しかし部屋の中の様子は炎のせいで見えていないようだ。

「い・・・急いでください・・・!中に・・・中に人が・・・!」
「ええ、人が!?じゃあ早く助けんと!!」
「あ・・・でも、人って言っても、もう死んでるみたいで・・・」
「死んでる!?誰が!?」
「わ、分かりません・・・」
「死んでるって、何でアンタに分かると!?」
「ええと・・・それは・・・首無し死体だったから・・・」
「はぁ!?」

 普通に生きてたら中々いう機会のない言葉である。首なし死体。

「とにかく早く火を消してください!」
「そんなん分かっとう!!あんたらが変な事言うから!」

 どっちにしろ火を消してもらわないといけないのだ。私がそう言うと、男性二人はさらに慌てて消火を進める。ナツさんも、あーちゃんも、そしてわたしも、その様子を見守るしかなかった。

 暫くして、部屋の中の炎は何とか消し止められた。煙と消火剤に視界はまだ晴れないが、消火していた男性二人とわたし達三人は恐る恐る部屋に入る。徐々に視界が晴れてくる。どうやら物置のような部屋らしい。と言っても荷物すらほとんど置かれておらず、使われていない空き部屋と言った方が正しい印象だ。部屋の中の安全を確認したら、わたしとナツさんは首無し死体を見た場所へと近づいて行った。

 だが・・・。

「あれ・・・?」
「そんな・・・」

 わたしとナツさんは呆然と声を上げる。そこにあったはずの首なし死体は、跡形もなく姿を消していた。

「なんね、死体なんてどこにもなかやん。おじょうちゃん達、こんな時に変な冗談言うのはやめてくれ!」

 消火してくれた二人の男性は、怒りだしてしまった。

「いや、でも本当なんですよ!首なし死体を見たんです。女性の!ねぇ、ナツさん!」
「え・・・ええ、確かに見ました・・・!」
「そんな事言ったって、いないじゃないか!」
「ちょっと~、ニニカちゃん、ナツさん、本当に死体なんて見たと~?」

 あーちゃんも疑わしく聞いてくる。そう、たしかに首なし死体なんて、無い。改めて部屋を見渡すが、入り口はわたし達が入ってきたドア一つだけ。天井近くの高いところに小さな窓があるだけ。あの死体は火事で焼けてしまった?しかし死体があった場所に何かが燃えた残りカスも見えない。見間違えるようなものも無い。

 男性はまだ怒っている。

「全く、山崩れで大変だって時、迷惑な!!」
「え、山崩れ?」
「そうたい、そっちで村中大騒ぎで人が行ってたのに、こっちでは火事だって言うんで俺達二人が来たと!ここが収まったら、また山崩れの方に行かんと!」

 ◆

 山崩れとやらの現場にわたし達も一緒に行ってみた。そこは、わたし達がこの村にやって来る時に通った道だった。山崩れと聞いて、最初土砂崩れみたいなものを想像していたが、実際に見ると、むしろ倒木という感じだった。道沿いの山の斜面の木々が十数本道に倒れこんできている。その原因は、木々があった山肌が脆くなって崩れたことだという。

 今は村の住人たちが、「骸城村消防団」と書かれた法被みたいなものを着て大騒ぎで色々と作業をしている。

「うわ~、結構大ごとになっとるね~」

 あーちゃんがスマホでその様子を撮影していると、この村で最初にわたし達に話しかけてきたおじちゃんがやってきた。彼も消防団の法被とヘルメットを装備している。

「おじょうちゃん達、大変な時に来ちゃったなぁ。かわいそうだけど、道路があんなんだから、しばらくこの村からは出られんとよ」
「え!?村から出られないんですか!?」
「そうたい。村から出る道はあの一本だからなぁ」
「道が通れなくても、周りの山の中を通っていったら下の道路まで出れない?」
「それはやめた方がよかよ。倒木って言っても元は地肌が崩れたことが原因やけん、他の場所も同じように崩れるかも知れん。どこが崩れるか分からん以上、山には近づかん方が身のためばい」

 そう言って、おじさんは別の村人に呼ばれて作業に戻っていった。

 これってもしかして・・・。

「山奥の村、唯一の道は閉ざされ、陸の孤島と化した・・・って事やね~・・・!」

 あーちゃんがカメラを回しながら、不安と期待が入り混じったような声を上げる。確かにそういうシチュエーションだ。動画配信者としては燃える気持ちもわかる。一方ナツさんはかなり不安マックスな表情をしている。だがあーちゃんは構わずに続ける。

「それに、ニニカちゃんもナツさんも、さっき変な事言っとったね~。火事の時に首無し死体があったとか!詳しく教えてよ~!」
「そう!そうなんですよ!山崩れも大変だけど、こっちは死人が出てるんですよ!大事件ですよ!」
「でも死体なんてなかったよね~?本当に見たと~?」
「もちろんです!むしろあーちゃんは見てなかったんですね」
「部屋に戻ってきた時はもう火が強くて部屋の中なんて見えんかったよ~。ナツさんも見たと~?」
「ええ・・・確かに、首のない死体でした・・・!」
「でも火が消えた後には何もなかったよね~。もしかして・・・」

 あーちゃんは、わざと声のトーンを落として、自分でそれらしい雰囲気を作り出した。

「殺人事件なんじゃ?犯人が、首なし死体をどこかに持ち去った・・・!」
「でも、あの部屋入り口は一つしかなかったし、窓も高い所に小さいのしかなかったから、あの短い時間で死体を担いで部屋の外に持ち出すなんてできなくないですか?」
「つまり・・・密室死体消失事件って事~!?」

 ◆

 わたし達はまた火事のあった屋敷の部屋に戻ってきた。山崩れで村中大騒ぎなせいか、屋敷には誰もおらず、勝手に入ることが出来た。

「本当に密室みたいやね~!」

 部屋中をしらべたが、やはり入り口は一つ、窓は天井近くに一つそれだけだった。犯人が死体と一緒に隠れられそうな場所もない。

「あの・・・こういう事は勝手にやらない方がいいんじゃ・・・人の家ですし・・・」

 ナツさんが及び腰でそう言うが、非日常にテンションが上がっているらしいあーちゃんは止まる気配が無い。

「何言っとるとね~、こんな大スクープめったになかよ!『山奥の村で密室死体消失!しかし探偵たちは村の中に閉じ込められてしまった!』これを公開したら大バズリするよ~!」
「でも・・・肝心の死体が無いんじゃどうにもならないですよね・・・。目撃者は私とニニカさんだけだし・・・。そもそも、段々自信が無くなってきましたよ。火事で焼かれたとはいえ、首なし死体があったのに血痕も残ってないんですもん・・・」

 確かにそうだ、血だまりが出来ていてもおかしくないはずなのに。

「そんなの、死体を見つければよかとよ~。待てよ、そうなると、誰が死んでたを調べんとね。どんな人やったと~?」
「どんな人・・・首は見えなかったから分からないけど、女性ものの着物でしたね。紫色の・・・」
「紫色の着物って・・・・」

 改めて落ち着いて考えると・・・。わたし達がこの村で出会った人で着物の人はと言えば・・・。松子さんが紫、竹子さんが藍色、梅子さんが薄茶色、そしてわたししか見ていないけど、タマヨ様という人が赤い着物だった。

 紫色の着物の死体という事は・・・・?

「ちょっと、アンタ達、何やってるの!?」

 急に声をかけられて私たちは跳び上がった。部屋の外から覗き込んでいるのは、藍色の着物の竹子さんだ。

「火事があったって、ここ!?まったく、この大変な時に・・・!松子姉さんも梅子も、どこに行ったのかしら・・・!?」
「あの・・・、松子さん、いないんですか・・・!?」
「そうなのよ、さっきからずっと姿が見えなくて。山崩れの方の指揮を誰かがやらなきゃいけないのに・・・!」

 その言葉に私たちはゾッとする。先ほどまで死体死体と騒いでいたが、知っている人が死んだかもしれない、と、今ようやく考え至ったのだ。

 その時・・・・

「う、うわぁああああ!!」

 屋敷の外から男の人の大きな悲鳴が聞こえた。

 わたし達は全員で駆け出し、屋敷の外にある池が見える場所まで来た。そこでは、消防団の法被を着た、中年の男性が腰を抜かして倒れていた。

 彼の目線の先、池の真ん中に、人間の両の脚が逆さまに突き立っていた。そう、人間の体が、逆さに池に突き刺さっているのだ。
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