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噂の同期は、送り狼?
1.
「お疲れ様ですー! 青山、帰社しました!」
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ~」
今日も無事にアポイントを終え、渋谷にあるオフィスに戻ってきた。私、青山波瑠は、とあるスタートアップでSaaS(ソフトウェア)の法人営業を担当している27歳だ。
最初は小規模だったこの会社も、短期間で急成長を遂げてきた。インターンからそのまま入社した私は、最初は何でも屋のような立ち位置だったものの、今では多くのクライアントの担当を任されている。
「青山、新機能の提案どうだった? 先方の感触教えて」
オフィスに戻ってきて早々、先輩の早坂さんに声をかけられた。一緒に営業として矢面に立っており、いつも密に情報交換をしている。
「はい、感触は良かったんですけど、ちょっとここのUIは分かりづらそうなんですよね…‥」
そう言って、早速パソコンを開けて早坂さんに画面を共有する。
営業といっても、ただ売るだけじゃない。ソフトウェアのデザインで分かりづらい所があれば、それを社内でフィードバックするのも私たちの重要な役割だ。
「あー……これは盲点だったな。でも、色味を少し変えるだけでも目立ちそうじゃないか? これに関しては、デザイナーかPdMと議論しても良さそうだな」
「はい、念のため他のお客様にもヒアリングして、今度の定例に議題としてあげますね」
「おう、そんでお前、今日って……」
「青山」
突然、後ろから声をかけられ、私も早坂さんもびくっと反応する。振り返れば、そこには同期のシステムエンジニア・工藤が立っていた。全く気配がしなかったせいか、早坂さんも目を見開いている。
「く、工藤……! お前、後ろにいたのか!? 全然気づかなかったんだが!」
「はい、いました。すみません、驚かせて」
「いやいやいや、つーかお前、客先に行かないとはいえ、もっさりし過ぎじゃないか?」
「早坂さん……! ちょっと、言い過ぎです!」
相変わらず言いたいことをズバズバ言う早坂さんに対し、流石にそれは言い過ぎだろうと間に入る。実際、工藤は『もっさりしてる』という言葉がマッチするくらい、前々から垢抜けないのだ。
黒髪に長めの前髪、黒縁眼鏡に白いパーカー、そしていつも猫背という……。
いつもジャケットを着ている私たち営業マンとは、真逆の装いだった。
「あ、工藤、私に何か用があったんじゃない?」
「あぁ、そう、今新機能の話が聞こえたから。バグとか見つからなかった?」
「うん、それは今の所大丈夫そう。あー……でも、ここのUIがちょっと分かりづらそうで」
「ん、どれ?」
本来はデザイナーやPdMに相談すべき内容を、エンジニアの工藤に相談するのってどうなんだろう? そんな不安もあったけれど、当の工藤は前のめりでパソコンと向き合っている。きっと、迷惑ではないのだろう。
クライアントに言われたことをそのまま工藤に伝えれば、「ん、分かった」と何かを納得したように頷いた。
「その配置だと、確かにユーザー体験があんまり良くないな。色変えたくらいじゃ意味無い気がする。それ、最優先で対応するわ」
「えっ、良いの?」
「あぁ、チームで調整は必要だけど、これは早くやった方が良いでしょ」
「ありがとう、工藤……」
工藤はぴらぴらと手を振って、そのまま自身のデスクの方に戻っていってしまった。今度定例に上げようと思っていた内容が早々に解決するとなり、隣にいた早坂さんも驚いている。
「え、なにあれ、工藤シゴデキじゃん。やっぱ、工藤のあの噂って本当なんかな」
「噂ですか?」
「青山の同期で新卒枠で入社してるけど、社長がヘッドハンティングしたとか。実は天才エンジニアで、なんなら学生の頃シリコンバレーで起業した経験があるとか」
「えぇぇ? そんな噂があるんですか? 全然現実味がないんですけど」
「だよなー」
そう言って、早坂さんは「ないない、うちの会社にいる理由が無いしな」と呟き、その噂を端から信じていない様子だった。再び工藤の方を見れば、モニターに映し出されているコードをじっと見ている。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ~」
今日も無事にアポイントを終え、渋谷にあるオフィスに戻ってきた。私、青山波瑠は、とあるスタートアップでSaaS(ソフトウェア)の法人営業を担当している27歳だ。
最初は小規模だったこの会社も、短期間で急成長を遂げてきた。インターンからそのまま入社した私は、最初は何でも屋のような立ち位置だったものの、今では多くのクライアントの担当を任されている。
「青山、新機能の提案どうだった? 先方の感触教えて」
オフィスに戻ってきて早々、先輩の早坂さんに声をかけられた。一緒に営業として矢面に立っており、いつも密に情報交換をしている。
「はい、感触は良かったんですけど、ちょっとここのUIは分かりづらそうなんですよね…‥」
そう言って、早速パソコンを開けて早坂さんに画面を共有する。
営業といっても、ただ売るだけじゃない。ソフトウェアのデザインで分かりづらい所があれば、それを社内でフィードバックするのも私たちの重要な役割だ。
「あー……これは盲点だったな。でも、色味を少し変えるだけでも目立ちそうじゃないか? これに関しては、デザイナーかPdMと議論しても良さそうだな」
「はい、念のため他のお客様にもヒアリングして、今度の定例に議題としてあげますね」
「おう、そんでお前、今日って……」
「青山」
突然、後ろから声をかけられ、私も早坂さんもびくっと反応する。振り返れば、そこには同期のシステムエンジニア・工藤が立っていた。全く気配がしなかったせいか、早坂さんも目を見開いている。
「く、工藤……! お前、後ろにいたのか!? 全然気づかなかったんだが!」
「はい、いました。すみません、驚かせて」
「いやいやいや、つーかお前、客先に行かないとはいえ、もっさりし過ぎじゃないか?」
「早坂さん……! ちょっと、言い過ぎです!」
相変わらず言いたいことをズバズバ言う早坂さんに対し、流石にそれは言い過ぎだろうと間に入る。実際、工藤は『もっさりしてる』という言葉がマッチするくらい、前々から垢抜けないのだ。
黒髪に長めの前髪、黒縁眼鏡に白いパーカー、そしていつも猫背という……。
いつもジャケットを着ている私たち営業マンとは、真逆の装いだった。
「あ、工藤、私に何か用があったんじゃない?」
「あぁ、そう、今新機能の話が聞こえたから。バグとか見つからなかった?」
「うん、それは今の所大丈夫そう。あー……でも、ここのUIがちょっと分かりづらそうで」
「ん、どれ?」
本来はデザイナーやPdMに相談すべき内容を、エンジニアの工藤に相談するのってどうなんだろう? そんな不安もあったけれど、当の工藤は前のめりでパソコンと向き合っている。きっと、迷惑ではないのだろう。
クライアントに言われたことをそのまま工藤に伝えれば、「ん、分かった」と何かを納得したように頷いた。
「その配置だと、確かにユーザー体験があんまり良くないな。色変えたくらいじゃ意味無い気がする。それ、最優先で対応するわ」
「えっ、良いの?」
「あぁ、チームで調整は必要だけど、これは早くやった方が良いでしょ」
「ありがとう、工藤……」
工藤はぴらぴらと手を振って、そのまま自身のデスクの方に戻っていってしまった。今度定例に上げようと思っていた内容が早々に解決するとなり、隣にいた早坂さんも驚いている。
「え、なにあれ、工藤シゴデキじゃん。やっぱ、工藤のあの噂って本当なんかな」
「噂ですか?」
「青山の同期で新卒枠で入社してるけど、社長がヘッドハンティングしたとか。実は天才エンジニアで、なんなら学生の頃シリコンバレーで起業した経験があるとか」
「えぇぇ? そんな噂があるんですか? 全然現実味がないんですけど」
「だよなー」
そう言って、早坂さんは「ないない、うちの会社にいる理由が無いしな」と呟き、その噂を端から信じていない様子だった。再び工藤の方を見れば、モニターに映し出されているコードをじっと見ている。
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