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噂の同期は、送り狼?
3.
しおりを挟む「荷物、持つよ。今日泊まる場所は? 何か俺に協力できることはある?」
するりと、自然にバッグを持っていく。流れるような仕草に驚いて、すぐには答えられなかった。
「え、あ、ありがとう……。泊まる場所は、適当に探すから大丈夫。カプセルホテルとか、安い所で」
それを聞いた工藤は「そうか」とだけ呟き、その後は再び仕事の話をし始めた。変に気を遣うこともなく、いつも通りのテンションで話す工藤。今の私にはそれが有り難く、『工藤ってやっぱり良いやつなんだな』と改めて思ったのだった。
お目当ての居酒屋に到着し、一杯目のビールが揃ったタイミングで同期の吉良ひかりが現れた。
「うわーごめん、遅くなっちゃって! あ、もしかしてセーフ?」
「乾杯前に間に合うなんて、さすが吉良リン! セーフ、セーフ!」
「やった~! よしみんな乾杯しよ~」
5人全員揃った所で、ビールジョッキを持ち上げた。「かんぱーい!」とグラスを寄せ合えば、久しぶりの同期会の開幕だ。
頻度は少ないけれど、みんなの予定が合えばこうして不定期で開催している。いつもは私と夏菜子、吉良リンの三人で女子会状態になり、それに『うん、うん』とついて行けるサク、そして無言でお酒を飲み続けている工藤という安定の構図が出来上がる。
今日も早速三人で弾丸トークが始まった。
「中途で来た千葉部長さ、サイコパスみがあるけど、実際どうなの? 吉良リン!」
「それがさ~~本当大変なの! 聞いてよ、この間もー」
「あ、サク、そのだし巻き玉子取ってもらっても良い?」
「はいはい、そっち取り皿ある?」
「ねぇ、波瑠、聞いてるー? ご飯も良いけど、私の話も聞いてよ~」
やり取りがあっちこっちと飛んでいくけれど、これもいつものことだ。それぞれ好きなものを適当にオーダーして、思い思いに喋る。
溜まった鬱憤は吐き出しつつ、それぞれが他部署の情報や人間関係を把握する機会にもなっているのだ。
だし巻き玉子をもぐもぐと咀嚼して、吉良リンの話に耳を傾ける。そして、面白おかしくサイコパス上司のモノマネをする吉良リンに対し、大笑いする夏菜子とサク。
みんなが盛り上がる中、私はだんだんと別のことに気を取られ始めていた。
(あー……そういえばカプセルホテル検索するの、忘れてたな。酔いが回る前にちゃんと調べておかないと)
そう思い、ふとスマホに手を伸ばす。すると、無言でお酒を飲んでいた工藤がこちらに話しかけてきた。
「青山、仕事の連絡?」
「え? あ、ううん、大丈夫。今日泊まる所探そうかなと思って」
「えー、波瑠、今日お泊まりなの? もしや朝まで飲む気満々?」
「え!? いや、違うよ! 色々あって、今日は家に帰りたくないなと思って……」
夏菜子のツッコミに、またもや歯切れ悪く答えてしまう。先ほど工藤にはつい喋ってしまったけれど、この場でおもしろ可笑しくネタにするほど、まだ心の傷が癒えた訳ではなかった。
「そうなの? 彼氏と何かあった!?」
「えっと、そうだね、喧嘩みたいなものかな……」
みんなが「え、それ大丈夫なの? 話聞くよ?」と、少し気遣う雰囲気になり始める。望んでいなかった流れに『うわ、どうしよう……面白おかしく昇華しちゃう……?』と、自分の心を押し殺す方向で考え始めてしまった。
すると、成り行きを見守っていた工藤が突然口を開いた。
「付き合ってりゃ、喧嘩することくらいあるだろ。成宮は踏み込み過ぎ」
まさかここで工藤が入ってくるとは誰も思わず、全員の目が点になっている。数秒遅れて、踏み込み過ぎと怒られた夏菜子が口を開いた。
「えーっ、工藤がそんなこと言うなんて……っていうか、工藤って誰かと付き合ったことあるの!?」
「夏菜子、それは言い過ぎだって」
「いや、それはそれで重要なことだよっ! 私、ずっと心配してるんだからね?」
「なんの心配だよそれは」
話の矛先が私から工藤に移り、ほっと胸を撫で下ろす。みんなで笑いながら工藤をいじっていて本当に申し訳ないけれど、正直、これ以上踏み込まれなくて助かった。
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