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第3話:街の人にもお裾分け
2.
しおりを挟むカイ様の素性は詳しく知らなかったけれど、貴族であること以外の情報を話さない点を踏まえると、これ以上根掘り葉掘り聞かない方が良さそうだ。
私達は引き続き、食事と歓談を楽しんだ。皆でご飯を食べ終わる頃には、私はセカンドライフの新しい目標を見つけていた。
「私、いつか自分で飲食店を開きたいです……! こんなに皆さんに喜んで頂けて、笑顔を見れてとても幸せです。
あ、でもその前に。色んな国を旅して、その土地の食材や料理を食べて、もっと食について勉強したいです」
公爵家の娘ということもあり、今は定期的にお金を渡されている。でも、もう魔法学園を卒業した私は良い大人だ。
これからは自分の力で生計を立てていきたいし、出来ることで人の役に立ちたい。
「貴族の令嬢が自分で経営をするなんて……」と一般的には白い目で見られるかもしれない。それでも、この想いを止めることはできなかった。
そんな私の想いに対して、最初に反応してくれたのはまたしてもカイ様だった。
「それは良い考えだね。こんなに美味しいご飯が毎日食べられるなら、人も沢山集まるだろうし。キアラ王国の食文化も発展するに違いない。
旅に出るのも良いけれど……マリン帝国に是非来てもらいたいね。ちなみに、今日作ったもの以外のメニュー案はあるのかい?」
「はい! 他にも作りたいものは沢山あります! 明日から早速練習していこうかと思います。婚約破棄されて時間を持て余していますし」
それを聞いて「うーん」と考えるような仕草をしたカイ様は、ふと思い付いたように素晴らしい提案をしてくれた。
「そうだエリアナ、いきなりお店を構えるより、移動販売のような形で売ってみてはどうかな? マリン帝国では移動販売が盛んなんだ」
「とっても良いアイデアですね! 移動販売でしたら、手軽に手に取って食べやすいものが良いでしょうか。うーん……何を作ろうかしら?」
「美味しいご飯をご馳走してくれたお礼、と言ってはなんだけど、皆で考えてみるのはどうかな? エリアナの力になれるかもしれない」
「カイ様、ありがとうございます! 是非!」
そうして、市場で食材を買い集めては、試作品を作る日々が始まった。
カイ様とアンディは仕事の合間に度々駆けつけてくれて、試食をして感想を教えてくれたり、重い物を運んでくれたりした。
そんなある日、アンディは仕事に、ケイティは日用品の買い出しに行って不在にしており、カイ様と二人きりで試作品を作る機会があった。
「移動販売と言ったら、手軽に手に取って食べやすいものが良いですよね。それに、全く見たことがないものより、日常的に食べていて、でも少しだけ見た目が凝った物が良いかなと思っています」
「良いアイデアだね。エリアナが以前焼いてくれたパンはとても美味しかったけれど、少しアレンジを加えることはできる?」
「そうですね……うーん」
私はカイ様の意見をもとに、パンを中心にアイデアを膨らませていく。
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