異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

ホフマン・イルクス

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 ホフマン・イルクスには敵がいなかった。

 恵まれた体格、磨かれた肉体、そして人一倍研鑽された魔法。
 彼の地元の中等学校では、もはや誰もがその実力を認め、いつしか誰一人として彼の横に並び立つ者がいなくなっていた。

 誰も勝てない、そんな状態が彼の驕りに拍車をかけ、いつしか自分こそが最強だと自負するようになっていた。

 しかし一転、上に上にと、そんな思いから入学を果たしたガーフィールド王立高等学校にて、遥かに高い壁を知ることになる。

 入学早々、初めて知る敗北の味に彼の心は折られ、無敵だと思っていた自己評価と現実との乖離が彼の心を苛んだ。

 自分と同じレベルの者がゴロゴロいる。むしろ、自分より優れている者の方が多い。あまりにも不快な敗北の味を何度も味わい、かつての高かった自尊心は見る影をなくしていた。

 そんな絶望から救い出すように、彼の秘めた才能が開花する。

『無敵』

 文字通り、他の攻撃を一切受け付けない最強の能力だ。
 発現はある日突然。しかし、己の才に気づいてからの彼の躍進は早かった。

 能力の検証と欠点の把握、そしてそこからの応用の仕方まで、およそ二週間ほどで実戦レベルにまで持っていった。

 これまで自分と同格だった者も、それ以上だった者にも、誰にも負けない圧倒的な力。

 いつしか、彼の戦いぶりから『金獅子』と呼ばれるようになった。

 再び彼は、敵なしに近い状態に返り咲くことになる。
 一つ、前と違う点を挙げるのならば、切磋琢磨し合える仲間を見つけたことだ。
『無敵』を用いても勝利することのできない相手が、まだ十数人いる。

 かくして、彼は今も研鑽を続けている。

 それが、無敵に至る道だと信じて―――

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 願ってもない戦い。
 まだ自分よりも上がいるという現実に対する高揚。

 ホフマン・イルクスのボルテージは過去最高に達していた。

 自分から攻める戦闘スタイルは、本来格下にしか使わない。
 状況によっては変わるが、『無敵』の利点を生かすためには、受けに回って後出しをする方が遥かに有効だからだ。

 目の前の敵は恐らく自分の『無敵』の仕組みを段々と理解し始めてきている。

 そしてそのうえで、彼らの攻撃スピードと真剣に打ち合うと、『無敵』の効果が切れておしまいだ。

 瞬間的に使用する『無敵』も、こうも速い相手だと中々に難しい。
 鍵を握るのは、自分が『無敵』を発動するタイミングだ。

 その効果時間に仕留め切れなければ、あるいはそれに近い状況に持っていかなければ敗北は必然。

 だが、これで分かりやすくなった。

 出し惜しみはしない。彼らが向かってきた10秒、そこが勝敗を分ける時間だ。

 己の全てをぶつける決意と共に、世界に勝利を渇望する思いを吐き出す。

「——————ヘル・ブースト」

 真っ黒な闘気が周囲を支配し、全身の血が沸騰する感覚に襲われる。
 触れる空気でさえ、刃で切り付けられたような痛みを感じさせる。

 痛みを代償にしたこの魔法。
 しかし、『無敵』はこのデメリットを帳消しにしてくれる。

 この状態ならば、自身が負ける未来が見えない。

 そんな空気の震撼を受け取り、それでも敵の戦意はなくならない。
 逆に昂っているとさえ思える。

 その思いをぶつけるように、こちらへと走りだす。

 特攻してきたのは白髪の少女。自身に迫る掌底を弾き、逆にその腹部へと殴打を入れる。

 その影に隠れ、左側から迫る凶刃。
 地面を強く踏みしめ、生み出した障壁でそれを阻む。

 すかさず少女を掴み男へと投げて、動きを封殺した。

 高く跳躍し、折り重なる二人へと隕石のような拳を叩きつける―――が、雷のような速さでその場から離れ、すかさず左右から攻撃をしかけてくる。

 使うなら今。その考えは間違っていなかった。

 両手で受け止めた二人の拳、刀には轟雷が纏われている。
 生身で受ければ確実に身体が麻痺していただろう。

 そのまま引き寄せ、腕で大きく振り払う。

 離れるが、なおもこちらへと向かってきた。

 男は持っている刀と雷の槍を飛ばし、『無敵』の維持を強制させる。

 再度閃光のように迫る敵の猛攻。
 だが、『無敵』の恩恵によって痛みが無くなり、最高のパフォーマンスができるようになった。

 相手の動きの上を行き、乱打の猛襲を浴びせる。血が滲み、苦悶に歪む顔に自身の勝利が目前にある事実を肌に感じ取る。

 双方を抱き寄せるように腕を引き、

「――――――ヘル・シャウトォォ!!」

 両者を捉えて、自分の最大の威力の拳を放つ。

 風を裂き、音を弾き、全てを破壊する一撃。
 その衝撃のままに敵は飛んでいき、木に激突して止まった。

 モロに直撃したのだが、ちらりとポイントの画面を見る変動は見られない。

 とはいえ確実な死には届かなかったが、もはや立つ事は困難だろう。

 と、ここで『無敵』の効果時間が終了を告げる。
 フルで使ったので、20秒は使用不能だ。

 しかし、深い傷を負った敵を仕留めるのに、もうそれに頼る必要はない。
 この強化を維持するのもあと数秒であれば可能だ。

 勝利に手をかけているこの状況に自然と笑みがこぼれる。
 残りほんの数十秒、うかうかしていられない。

 さぁ、とどめを刺そうというところで、なにやら声が聞こえてきた。

「———遠雷」

「―――操撃」

 ゆっくりと立ち上がる二つの影。
 そして、手を前にかざし、

「「――――――魔籠拡雷」」

 その響きと共に己の全身が雷光に包まれ、気づけば膝から崩れ落ちていた。


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