異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第四章 罪人盲動編

罪人研究会

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 俺の視界の奥にいる女は、その紫色の双眸でこちらに薄く笑いかけてきた。透き通るような白髪と他者を惹きつけるような端正な顔立ちはまるで芸術作品のようで、つい見入ってしまう。

「ふふ……久しぶりに人が来た気がします。あなたの名前は?」

「二年の石動健一です。あなたは……?」

「私はメルディオラ・ストラス。三年です」

 妖艶……いや、もっと別の何か……
 とにかく、彼女の醸し出す独特の雰囲気は一気に部屋の空気を変えた。

 触れたら消えてしまいそうな儚さと柔らかく耳を撫でるその声は、相対する者を己の領域に引き込み溺れさせるようだ。そして俺も、気づくと自分の意識が彼女の一挙手一投足に集中していることに気が付いた。

「あ、えと……ここって、‘‘罪人研究会‘‘であってますか?」

「ええ、そうですよ。入会希望ですか?」

「いや、その、まだ色んなところを見てから決めたいって思ってて……」

「あらあら、そうでしたか。紅茶を入れますので、そちらに座っててくださいな」

「あ、はい」

 彼女に座るよう言われ、ひとまずそれに従う。しばらく経つと紅茶の香ばしい香りが漂い、俺の前の机に空のティーカップが置かれた。

 彼女は少し前屈みになり、横の髪を耳にかけてゆっくりとカップに注いでいく。紅茶の匂いと彼女の匂いが混ざって、その距離感も相まって心臓の鼓動が早まる。

「はい、どうぞ」

「……っ! あ、ありがとう、ございます」

 またもや異様な雰囲気に飲まれてしまっていた。焦りながら俺はカップに手をかけ、紅茶を半分ほど流し込み、なんとか心を落ち着かせる。

「あと、これを」

「……?」

 そう言って、何やら紙とペンを渡された。

「ひとまず、こことここに名前を書いてください」

「わかりました。ええと……ん?」

 よくよく見ると、入会希望書と書かれていることに気が付く。

「え、あのっ」

「……? どうかしましたか?」

「自分、まだここに入ると決めた訳では……」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。何事も体験、ですよ?」

「いや、でも―――」

「そ、れ、に……ここを訪ねてきたってことは、少なからず興味があるんですよね?」

「はぁ……まぁ……」

「でしたら、入会だけでもどうですか? ここは私しかいないので、他より結構緩くやってるんです」

「……」

 どうしたものだろうか。

 入会に関してはできるだけ避けたい。緩く、と言ってはいるが、いまいちこの先輩の言う事が信用できない。何か掌の上で転がされているように思えてならないのだ。

 それに、この他者を惹きつける圧倒的な美貌、気品、振る舞い。美形揃いの異世界でもこのレベルの美人は滅多にいない。

 正直な話、この数分話しただけで、俺の心はすでに彼女に惹かれてしまっている。

 万が一……という事態を起こさないために、できるだけ彼女から離れたいのだ。

「……すみません。せっかくのお誘い、嬉しいんですが将来にも関わりますので、もう少し考えさせてください」

 パッと見渡した感じ、例のリーリヤさんが残した金庫のようなモノは見当たらない。隠し金庫という可能性は極めて高いが、ひとまずは出直すべきだろう。

「あら、そうですか……残念です」

 ゆったりとした口調でまたもや薄く笑いかけてくる。

「あ、じゃあそういうことで……」

 これ以上ここにいては身がもたないと思い、俺は180度ターンをし、入り口へと直行しようとした。のだが、

「あぁ、ちょっと待ってください」

「――――――ぇ」

 途端、俺の視界がぼやけ、みるみる意識が落ちていく。

 やがて、固い床に倒れる音が響いた。
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