4 / 21
2.山道でのトラブル
1
しおりを挟む
ぼくらを乗せたバスは、高速道路をひた走る。
組の順番に一列になってバスは進んでいる。
ぼくたち三組は、列のちょうど真ん中のバスだ。
気持ちよく晴れているから、外の景色を見ているだけであきない。
高速に乗ってすぐはビルやカンバンしか見えなかったけれど、時間がたつにつれて遠くのほうに山が見えてきたときは思わず「わあっ!」と声をあげてしまった。
ガイドのおばさ……お姉さんはずっとニコニコしていて、クラスの全員で遊べるゲームをいくつも教えてくれた。
やおやさんゲームはむずかしかったなぁ。
歌に合わせて八百屋で売っている野菜を一人ひとつずつあげていくんだけれど、人数がふえると野菜の種類がどんどんふえていくから、覚えられなかったりダブっていってしまったり。
みんなもよかったらやってみてよ。
そうそう、食料――おかしなんだけれど、後ろの席のサツキが通路から交換をもちかけてきたんだ。
正しくは「シェアしよう」っていってたっけ?
駄菓子つめ合わせに入っているラムネ、キャンデー、ガム、グミの四種類をコーンスナック、ラーメンスナック、のしイカの三種類と交換しないか、って。
種類だけ見るとひとつ少なくなってしまうけれど、分量はコーンスナックがだんぜん多いし、何よりサツキがほしがっているおかしはどれもすっぱい系で、ぼくの苦手なものだった。
グミだけは本当はちょっと食べたかったけれど、悪くない条件。
ぼくはそれで手を打った。こうしょう成立!
駄菓子つめ合わせ三セット分がぼくのものになったから、リュックに入らなくなっちゃった。
だから今、コーンスナックを一ふくろ、となりのドクやケンと食べているところなんだ。
お腹が少し落ち着くと、バスのゆれが気持ちよくてねむたくなってくる。
山中湖に着く予定の時間までは、まだ三十分あった。
ふと横を見ると、ドクも首がときどきガクッとなっていて、今にも寝てしまいそうだ。
ぼくも昼からのハイキングに備えて、少し眠ることにした。
ここ一番というときに備えて体力を残しておくのは、ぼうけんに必要なスキルだからね。
「さあ、みなさん! 山中湖に着きましたよ!」
元気いっぱい、テンション高めなガイドさんの声で目ざめる……はずだった。
ところが現実は、バス車内のざわめきと、なんだかふつうじゃない雰囲気に起こされたんだ。
バスはいま、山道の途中で路肩に寄せて停車している。
運転手さんはガイドさんと無線機にむかって真剣な顔つきでなにかを話していた。
石原先生が後ろの席から通路を小走りに運転手さんたちと合流したタイミングで、どうやらこれが夢ではないとわかった。
クラスのみんなは予想外の展開に、ワクワクしながらヒソヒソと話しあっている。
ぼくも正直なところ、ワクワクしていなかったと言ったらウソになるかな。
班のメンバーと、これからどうなるのか話しながら、耳だけはすませて先生たちの話を聞きとろうとがんばった。
しばらくすると運転手さん、ガイドさん、先生の三人はバスを降りて、進行方向を何度も指差しながら話している。
先生はリュックからスマートフォンを取り出してなにかを確認し、首を横にふった。
「もしかすると、道に迷ったのかもしれないねぇ」
ドクがぽつりとつぶやき、ぼくもそんな気がしてきた。
でもサツキは納得行かないようだった。
「カーナビついてるのに?」
言われて見ると、運転席の横には確かに小さいテレビのような装置がついていた。
くわしいしくみはわからないけれど、地球のまわりを飛んでいる人工衛星からの情報で、自分が今どこにいるのかがわかるんだって、お父さんに聞いたことがある。
「カーナビがあっても、山のなかだと正確な位置情報をつかめなくなる場合があるよ。道の上にいるはずなのに、川のなかにいることになっていたりね」
ドクがさらに専門的な解説をつけたしてくれた。
「じゃあさ、Uターンして、きた道を戻ればいいんじゃないか?」
最高のアイデアを思いついた……とでもいうように、ケンが鼻の穴をふくらませていった。
「……ずいぶんと細くて曲がりくねった道みたいだけど……こんなところでバスの向きを変えられるのかな……?」
サツキの親友のユリはとてもひかえめで奥ゆかしい女の子だけれど、いざ口を開くときはいつだって、正しいことをズバリと言う。
今回もケンはダメージを受けたらしく、「ウッ」とうめいて自分の胸をおさえた。
「そういえば、ほかの車がぜんぜん通らないわね。それに、四組と五組のバスはあたしたちの後ろを走っていたはずでしょ? なんでいないんだろう」
ぼくらはハッとして振り返った。
うしろの窓のそとは道が広がるばかり。
道のずっと奥に目をこらしても、バスらしきものは見えない。
それどころか、停車してからもう十分以上はたっているはずなのに、車が一台も通らないじゃないか。
考えれば考えるほど様子がおかしい。
組の順番に一列になってバスは進んでいる。
ぼくたち三組は、列のちょうど真ん中のバスだ。
気持ちよく晴れているから、外の景色を見ているだけであきない。
高速に乗ってすぐはビルやカンバンしか見えなかったけれど、時間がたつにつれて遠くのほうに山が見えてきたときは思わず「わあっ!」と声をあげてしまった。
ガイドのおばさ……お姉さんはずっとニコニコしていて、クラスの全員で遊べるゲームをいくつも教えてくれた。
やおやさんゲームはむずかしかったなぁ。
歌に合わせて八百屋で売っている野菜を一人ひとつずつあげていくんだけれど、人数がふえると野菜の種類がどんどんふえていくから、覚えられなかったりダブっていってしまったり。
みんなもよかったらやってみてよ。
そうそう、食料――おかしなんだけれど、後ろの席のサツキが通路から交換をもちかけてきたんだ。
正しくは「シェアしよう」っていってたっけ?
駄菓子つめ合わせに入っているラムネ、キャンデー、ガム、グミの四種類をコーンスナック、ラーメンスナック、のしイカの三種類と交換しないか、って。
種類だけ見るとひとつ少なくなってしまうけれど、分量はコーンスナックがだんぜん多いし、何よりサツキがほしがっているおかしはどれもすっぱい系で、ぼくの苦手なものだった。
グミだけは本当はちょっと食べたかったけれど、悪くない条件。
ぼくはそれで手を打った。こうしょう成立!
駄菓子つめ合わせ三セット分がぼくのものになったから、リュックに入らなくなっちゃった。
だから今、コーンスナックを一ふくろ、となりのドクやケンと食べているところなんだ。
お腹が少し落ち着くと、バスのゆれが気持ちよくてねむたくなってくる。
山中湖に着く予定の時間までは、まだ三十分あった。
ふと横を見ると、ドクも首がときどきガクッとなっていて、今にも寝てしまいそうだ。
ぼくも昼からのハイキングに備えて、少し眠ることにした。
ここ一番というときに備えて体力を残しておくのは、ぼうけんに必要なスキルだからね。
「さあ、みなさん! 山中湖に着きましたよ!」
元気いっぱい、テンション高めなガイドさんの声で目ざめる……はずだった。
ところが現実は、バス車内のざわめきと、なんだかふつうじゃない雰囲気に起こされたんだ。
バスはいま、山道の途中で路肩に寄せて停車している。
運転手さんはガイドさんと無線機にむかって真剣な顔つきでなにかを話していた。
石原先生が後ろの席から通路を小走りに運転手さんたちと合流したタイミングで、どうやらこれが夢ではないとわかった。
クラスのみんなは予想外の展開に、ワクワクしながらヒソヒソと話しあっている。
ぼくも正直なところ、ワクワクしていなかったと言ったらウソになるかな。
班のメンバーと、これからどうなるのか話しながら、耳だけはすませて先生たちの話を聞きとろうとがんばった。
しばらくすると運転手さん、ガイドさん、先生の三人はバスを降りて、進行方向を何度も指差しながら話している。
先生はリュックからスマートフォンを取り出してなにかを確認し、首を横にふった。
「もしかすると、道に迷ったのかもしれないねぇ」
ドクがぽつりとつぶやき、ぼくもそんな気がしてきた。
でもサツキは納得行かないようだった。
「カーナビついてるのに?」
言われて見ると、運転席の横には確かに小さいテレビのような装置がついていた。
くわしいしくみはわからないけれど、地球のまわりを飛んでいる人工衛星からの情報で、自分が今どこにいるのかがわかるんだって、お父さんに聞いたことがある。
「カーナビがあっても、山のなかだと正確な位置情報をつかめなくなる場合があるよ。道の上にいるはずなのに、川のなかにいることになっていたりね」
ドクがさらに専門的な解説をつけたしてくれた。
「じゃあさ、Uターンして、きた道を戻ればいいんじゃないか?」
最高のアイデアを思いついた……とでもいうように、ケンが鼻の穴をふくらませていった。
「……ずいぶんと細くて曲がりくねった道みたいだけど……こんなところでバスの向きを変えられるのかな……?」
サツキの親友のユリはとてもひかえめで奥ゆかしい女の子だけれど、いざ口を開くときはいつだって、正しいことをズバリと言う。
今回もケンはダメージを受けたらしく、「ウッ」とうめいて自分の胸をおさえた。
「そういえば、ほかの車がぜんぜん通らないわね。それに、四組と五組のバスはあたしたちの後ろを走っていたはずでしょ? なんでいないんだろう」
ぼくらはハッとして振り返った。
うしろの窓のそとは道が広がるばかり。
道のずっと奥に目をこらしても、バスらしきものは見えない。
それどころか、停車してからもう十分以上はたっているはずなのに、車が一台も通らないじゃないか。
考えれば考えるほど様子がおかしい。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる