林間学校に待ち受ける異次元のワナ

Ryo

文字の大きさ
11 / 21
4.異常なキャンプファイヤー

3

しおりを挟む
 いま、明かりは石原先生の持っている懐中電灯だけ。
 食堂をでるときに時計を見たら、たしか午後六時を少し過ぎたころだったと思う。
 あたりはもう完全に夜だ。
 見上げると雲のない空にはたくさんの星がまたたいていた。
 いつも家のベランダから見るよりも、心なしか星の数が多いような気がする。
 つまり、都会よりも空気がキレイってことなのかな?
 空をせまく感じてしまうのは、頭上のほとんどを木々で囲まれているから。
 林の奥は真っ暗で、じっと見つめていると、なにか恐ろしいものが飛び出してきそうな気がした。
 ――と思ったら、本当になんか飛び出してきた!

「うわっ!」

 いちおういっておくけれど、思わず声を上げたのは、ぼくだけじゃないからね。
 少なくとも三組からは「キャー」とか「うわー!」とか聞こえるし、先生も小さく悲鳴を上げたのを聞きのがさなかった。
 サツキとユリは言葉にならない声を出していたし、ドクはビックリしてぼくの足を踏んだ。
 手をギュッとにぎられて、まさかサツキが? と思ってよく見ると、なんだケンかよー!
 どうやら騒いているのぼくたち三組だけで、ほかのクラスは全然ヘッチャラな空気をだしているのがちょっとムカツク。
 なんだよ、ノリ悪いなぁ。

 とにかく、なにかが林の奥から飛びだしてきたんだ。
 暗いうえにすばやい動きだから、すぐにはなんなのかわからない。
 でも、そいつはジグザグにぴょんぴょん跳ねながらキャンプファイヤーの土台までやってくると、ピタリと静止した。
 頭には、白い複雑なもようの描かれた麻袋みたいなものをスッポリかぶっている。
 体は真っ黒。黒い全身タイツでも着ているのかと思った。
 それが夜の闇よりさらに黒い色で、逆に浮かび上がっているように見える。

 いったいなにが始まるんだろう?
 全員が息を飲んで成り行きを見守った。
 担任の石原先生までもが、まるで「え、なになに?」とでもいいたげに周りを見回し、手にしたプリントを懐中電灯の明かりで確かめては他の先生に声をかけようかどうしようか迷っているみたいだ。

 不気味なほどの静けさは、またしても突然破られた。
 ピクリとも動かなかった、あの全身タイツのヤツが、どこからともなく火のついた松明を取り出したんだ。
 ピッチリしたタイツに長い棒のようなものを隠すところなんて、なさそうなのに。
 それに、ライターやマッチを使ったようには見えなかったけれど、いつの間に火を?
 全身タイツはキャンプファイヤーの土台へと松明を投げ入れた。
 火はすぐに土台全体へと燃え広がり、大きな炎が出現した。
 真っ暗闇は一気に明るくなり、周囲を囲むぼくらをオレンジ色に染めていく。
 少し肌寒かった周りの空気も熱いくらいになった。

「すごい演出だね」

 小声でつぶやくと、ドクが「ウン」といったあとに「でもさ」と続けた。

「何か違和感があるよね」

「イワカンって?」

「妙な感じ、変な感じがするんだ。こんなことって、実際にあり得るのかなぁ」

 ドクがいいたいことは、わかる。
 これが例えば、ぼくらの班の五人だけが目撃したというなら、何かの見間違いや気のせいだったんじゃないかと思うかもしれない。
 でも今、実際に三年生二百人と引率の先生数名の目の前で、この奇妙な出来事が起きているんだ。
 顔をつねってみれば痛いから、どうやら夢でもないようだし……。

 予想外のできごとは、それで終わりじゃなかった。
 キャンプファイヤーがゴウッと音をたて、ひときわ強く大きく燃え上がり、生徒も先生も火柱を見上げたんだ。
 その先。
 キャンプファイヤーの真上の空に、明るいグリーンに輝く円が浮かんでいる。蛍光ペンのグリーンみたいにドギツい色の円は、よく見ると上空に浮かんだ大きななにかの底の部分のようにも見えた。
 さらに目をこらすと、ゆっくりと回転しているのがわかる。

「あれって、まさか……UFOじゃ……」

「そんな。宇宙人の乗り物が実在するとしても、こんなところに来る理由がないよ……」

 ケンは目も口も大きく開いて、音もなく現れた未確認飛行物体から目が離せない。
 ドクはドクで、あまりにも現実離れした出来事のせいでパニクっているみたいだ。

「へ……へぇ、やるじゃない。子どもだましにしちゃ、上出来よね」

 うでを組んで不機嫌そうにしているサツキをユリが見上げた。

「サツキちゃん、これ……手品かなにかなの?」

「まえに一緒に遊園地に行ったとき、夜のパレードを見たでしょ? あのパレードで使われていたしかけに違いないわ。ええと……たしか、プロジェクトなんとか」

「プロジェクションマッピング、かな。光を使って、その場にはないはずのものを描く技術だね」

「それ!」

 ドクの出した助け舟に、サツキが大きくうなずく。
 全身タイツの人の動きも、上空で光っているUFOも、くわしいことはわからないけれど絶対にあり得ない話ではないことがわかって、ぼくはホッとした。
 本当のところぼくも、「とはいえ学校行事だし」って、キャンプファイヤーをゴッコ遊びの延長みたいに考えていたからね。
 ショボいとか手抜きとかいったら失礼だけれど、小学三年生の林間学校のレクリエーションなんだから、手作り感まんさいのレベルだと決めつけていた。
 先生たち、ゴメン……。

「あっ!」

 何人かが、上空のUFOっぽいものを見て声を上げた。
 蛍光グリーンの輪っかの中心から、同じ色の光の筋がぼくらに降り注いだんだ。
 スーパーなんかのレジで、バーコードを読み取る機械ってあるよね?
 赤い光が出るやつ。
 あれの緑バージョンって感じかな。
 まるでぼくらをスキャンしているように感じた。

 それから何の前触れもなくUFOの光が消えた。
 直後にキャンプファイヤーも消えた。
 火が小さくなって次第に消えていったんじゃない。
 いまのいままで目の前で燃え盛っていた火が、水をかけたわけでもないのに突然に消えたんだ。
 音もなく。

 真っ暗だ。全身タイツもいなくなっていた。
 いままでずっとキャンプファイヤーを見ていたのに、まるでその記憶だけがスッポリと抜け落ちてしまったような、そんな妙な気分になった。
 石原先生が、ようやく我に返ったように懐中電灯をかかげていう。

「はい、キャンプファイヤーは終了です。次は肝試しなので、班ごとで順番に担任の先生の前に並んでください」

 みんなは先生たちの持つ懐中電灯の明かりだけを頼りに、ザワザワしながら動き始めた。

「何だったの、今の?」

「さぁ……」

「キャンプファイヤーって、あれで終わり?」

「ボーイスカウトでやったのとちがった」

「ウチも、お兄ちゃんから聞いてたのと全然ちがう」

 そうなんだ。
 ぼくも林間学校のしおりを読んだときは、もう少し儀式みたいなのを想像していたんだよね。
 火の神様にいのりをささげる……みたいなセリフがあった気がしたんだ。
 それに、キャンプファイヤーの周りでするダンスを体育の授業で習ったし。
 なんで急にやらなくなったんだろう?
 ま、そのおかげで女子と手をつないでダンスしなくてよくなったからいいけどさ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...