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4.異常なキャンプファイヤー
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いま、明かりは石原先生の持っている懐中電灯だけ。
食堂をでるときに時計を見たら、たしか午後六時を少し過ぎたころだったと思う。
あたりはもう完全に夜だ。
見上げると雲のない空にはたくさんの星がまたたいていた。
いつも家のベランダから見るよりも、心なしか星の数が多いような気がする。
つまり、都会よりも空気がキレイってことなのかな?
空をせまく感じてしまうのは、頭上のほとんどを木々で囲まれているから。
林の奥は真っ暗で、じっと見つめていると、なにか恐ろしいものが飛び出してきそうな気がした。
――と思ったら、本当になんか飛び出してきた!
「うわっ!」
いちおういっておくけれど、思わず声を上げたのは、ぼくだけじゃないからね。
少なくとも三組からは「キャー」とか「うわー!」とか聞こえるし、先生も小さく悲鳴を上げたのを聞きのがさなかった。
サツキとユリは言葉にならない声を出していたし、ドクはビックリしてぼくの足を踏んだ。
手をギュッとにぎられて、まさかサツキが? と思ってよく見ると、なんだケンかよー!
どうやら騒いているのぼくたち三組だけで、ほかのクラスは全然ヘッチャラな空気をだしているのがちょっとムカツク。
なんだよ、ノリ悪いなぁ。
とにかく、なにかが林の奥から飛びだしてきたんだ。
暗いうえにすばやい動きだから、すぐにはなんなのかわからない。
でも、そいつはジグザグにぴょんぴょん跳ねながらキャンプファイヤーの土台までやってくると、ピタリと静止した。
頭には、白い複雑なもようの描かれた麻袋みたいなものをスッポリかぶっている。
体は真っ黒。黒い全身タイツでも着ているのかと思った。
それが夜の闇よりさらに黒い色で、逆に浮かび上がっているように見える。
いったいなにが始まるんだろう?
全員が息を飲んで成り行きを見守った。
担任の石原先生までもが、まるで「え、なになに?」とでもいいたげに周りを見回し、手にしたプリントを懐中電灯の明かりで確かめては他の先生に声をかけようかどうしようか迷っているみたいだ。
不気味なほどの静けさは、またしても突然破られた。
ピクリとも動かなかった、あの全身タイツのヤツが、どこからともなく火のついた松明を取り出したんだ。
ピッチリしたタイツに長い棒のようなものを隠すところなんて、なさそうなのに。
それに、ライターやマッチを使ったようには見えなかったけれど、いつの間に火を?
全身タイツはキャンプファイヤーの土台へと松明を投げ入れた。
火はすぐに土台全体へと燃え広がり、大きな炎が出現した。
真っ暗闇は一気に明るくなり、周囲を囲むぼくらをオレンジ色に染めていく。
少し肌寒かった周りの空気も熱いくらいになった。
「すごい演出だね」
小声でつぶやくと、ドクが「ウン」といったあとに「でもさ」と続けた。
「何か違和感があるよね」
「イワカンって?」
「妙な感じ、変な感じがするんだ。こんなことって、実際にあり得るのかなぁ」
ドクがいいたいことは、わかる。
これが例えば、ぼくらの班の五人だけが目撃したというなら、何かの見間違いや気のせいだったんじゃないかと思うかもしれない。
でも今、実際に三年生二百人と引率の先生数名の目の前で、この奇妙な出来事が起きているんだ。
顔をつねってみれば痛いから、どうやら夢でもないようだし……。
予想外のできごとは、それで終わりじゃなかった。
キャンプファイヤーがゴウッと音をたて、ひときわ強く大きく燃え上がり、生徒も先生も火柱を見上げたんだ。
その先。
キャンプファイヤーの真上の空に、明るいグリーンに輝く円が浮かんでいる。蛍光ペンのグリーンみたいにドギツい色の円は、よく見ると上空に浮かんだ大きななにかの底の部分のようにも見えた。
さらに目をこらすと、ゆっくりと回転しているのがわかる。
「あれって、まさか……UFOじゃ……」
「そんな。宇宙人の乗り物が実在するとしても、こんなところに来る理由がないよ……」
ケンは目も口も大きく開いて、音もなく現れた未確認飛行物体から目が離せない。
ドクはドクで、あまりにも現実離れした出来事のせいでパニクっているみたいだ。
「へ……へぇ、やるじゃない。子どもだましにしちゃ、上出来よね」
うでを組んで不機嫌そうにしているサツキをユリが見上げた。
「サツキちゃん、これ……手品かなにかなの?」
「まえに一緒に遊園地に行ったとき、夜のパレードを見たでしょ? あのパレードで使われていたしかけに違いないわ。ええと……たしか、プロジェクトなんとか」
「プロジェクションマッピング、かな。光を使って、その場にはないはずのものを描く技術だね」
「それ!」
ドクの出した助け舟に、サツキが大きくうなずく。
全身タイツの人の動きも、上空で光っているUFOも、くわしいことはわからないけれど絶対にあり得ない話ではないことがわかって、ぼくはホッとした。
本当のところぼくも、「とはいえ学校行事だし」って、キャンプファイヤーをゴッコ遊びの延長みたいに考えていたからね。
ショボいとか手抜きとかいったら失礼だけれど、小学三年生の林間学校のレクリエーションなんだから、手作り感まんさいのレベルだと決めつけていた。
先生たち、ゴメン……。
「あっ!」
何人かが、上空のUFOっぽいものを見て声を上げた。
蛍光グリーンの輪っかの中心から、同じ色の光の筋がぼくらに降り注いだんだ。
スーパーなんかのレジで、バーコードを読み取る機械ってあるよね?
赤い光が出るやつ。
あれの緑バージョンって感じかな。
まるでぼくらをスキャンしているように感じた。
それから何の前触れもなくUFOの光が消えた。
直後にキャンプファイヤーも消えた。
火が小さくなって次第に消えていったんじゃない。
いまのいままで目の前で燃え盛っていた火が、水をかけたわけでもないのに突然に消えたんだ。
音もなく。
真っ暗だ。全身タイツもいなくなっていた。
いままでずっとキャンプファイヤーを見ていたのに、まるでその記憶だけがスッポリと抜け落ちてしまったような、そんな妙な気分になった。
石原先生が、ようやく我に返ったように懐中電灯をかかげていう。
「はい、キャンプファイヤーは終了です。次は肝試しなので、班ごとで順番に担任の先生の前に並んでください」
みんなは先生たちの持つ懐中電灯の明かりだけを頼りに、ザワザワしながら動き始めた。
「何だったの、今の?」
「さぁ……」
「キャンプファイヤーって、あれで終わり?」
「ボーイスカウトでやったのとちがった」
「ウチも、お兄ちゃんから聞いてたのと全然ちがう」
そうなんだ。
ぼくも林間学校のしおりを読んだときは、もう少し儀式みたいなのを想像していたんだよね。
火の神様にいのりをささげる……みたいなセリフがあった気がしたんだ。
それに、キャンプファイヤーの周りでするダンスを体育の授業で習ったし。
なんで急にやらなくなったんだろう?
ま、そのおかげで女子と手をつないでダンスしなくてよくなったからいいけどさ!
食堂をでるときに時計を見たら、たしか午後六時を少し過ぎたころだったと思う。
あたりはもう完全に夜だ。
見上げると雲のない空にはたくさんの星がまたたいていた。
いつも家のベランダから見るよりも、心なしか星の数が多いような気がする。
つまり、都会よりも空気がキレイってことなのかな?
空をせまく感じてしまうのは、頭上のほとんどを木々で囲まれているから。
林の奥は真っ暗で、じっと見つめていると、なにか恐ろしいものが飛び出してきそうな気がした。
――と思ったら、本当になんか飛び出してきた!
「うわっ!」
いちおういっておくけれど、思わず声を上げたのは、ぼくだけじゃないからね。
少なくとも三組からは「キャー」とか「うわー!」とか聞こえるし、先生も小さく悲鳴を上げたのを聞きのがさなかった。
サツキとユリは言葉にならない声を出していたし、ドクはビックリしてぼくの足を踏んだ。
手をギュッとにぎられて、まさかサツキが? と思ってよく見ると、なんだケンかよー!
どうやら騒いているのぼくたち三組だけで、ほかのクラスは全然ヘッチャラな空気をだしているのがちょっとムカツク。
なんだよ、ノリ悪いなぁ。
とにかく、なにかが林の奥から飛びだしてきたんだ。
暗いうえにすばやい動きだから、すぐにはなんなのかわからない。
でも、そいつはジグザグにぴょんぴょん跳ねながらキャンプファイヤーの土台までやってくると、ピタリと静止した。
頭には、白い複雑なもようの描かれた麻袋みたいなものをスッポリかぶっている。
体は真っ黒。黒い全身タイツでも着ているのかと思った。
それが夜の闇よりさらに黒い色で、逆に浮かび上がっているように見える。
いったいなにが始まるんだろう?
全員が息を飲んで成り行きを見守った。
担任の石原先生までもが、まるで「え、なになに?」とでもいいたげに周りを見回し、手にしたプリントを懐中電灯の明かりで確かめては他の先生に声をかけようかどうしようか迷っているみたいだ。
不気味なほどの静けさは、またしても突然破られた。
ピクリとも動かなかった、あの全身タイツのヤツが、どこからともなく火のついた松明を取り出したんだ。
ピッチリしたタイツに長い棒のようなものを隠すところなんて、なさそうなのに。
それに、ライターやマッチを使ったようには見えなかったけれど、いつの間に火を?
全身タイツはキャンプファイヤーの土台へと松明を投げ入れた。
火はすぐに土台全体へと燃え広がり、大きな炎が出現した。
真っ暗闇は一気に明るくなり、周囲を囲むぼくらをオレンジ色に染めていく。
少し肌寒かった周りの空気も熱いくらいになった。
「すごい演出だね」
小声でつぶやくと、ドクが「ウン」といったあとに「でもさ」と続けた。
「何か違和感があるよね」
「イワカンって?」
「妙な感じ、変な感じがするんだ。こんなことって、実際にあり得るのかなぁ」
ドクがいいたいことは、わかる。
これが例えば、ぼくらの班の五人だけが目撃したというなら、何かの見間違いや気のせいだったんじゃないかと思うかもしれない。
でも今、実際に三年生二百人と引率の先生数名の目の前で、この奇妙な出来事が起きているんだ。
顔をつねってみれば痛いから、どうやら夢でもないようだし……。
予想外のできごとは、それで終わりじゃなかった。
キャンプファイヤーがゴウッと音をたて、ひときわ強く大きく燃え上がり、生徒も先生も火柱を見上げたんだ。
その先。
キャンプファイヤーの真上の空に、明るいグリーンに輝く円が浮かんでいる。蛍光ペンのグリーンみたいにドギツい色の円は、よく見ると上空に浮かんだ大きななにかの底の部分のようにも見えた。
さらに目をこらすと、ゆっくりと回転しているのがわかる。
「あれって、まさか……UFOじゃ……」
「そんな。宇宙人の乗り物が実在するとしても、こんなところに来る理由がないよ……」
ケンは目も口も大きく開いて、音もなく現れた未確認飛行物体から目が離せない。
ドクはドクで、あまりにも現実離れした出来事のせいでパニクっているみたいだ。
「へ……へぇ、やるじゃない。子どもだましにしちゃ、上出来よね」
うでを組んで不機嫌そうにしているサツキをユリが見上げた。
「サツキちゃん、これ……手品かなにかなの?」
「まえに一緒に遊園地に行ったとき、夜のパレードを見たでしょ? あのパレードで使われていたしかけに違いないわ。ええと……たしか、プロジェクトなんとか」
「プロジェクションマッピング、かな。光を使って、その場にはないはずのものを描く技術だね」
「それ!」
ドクの出した助け舟に、サツキが大きくうなずく。
全身タイツの人の動きも、上空で光っているUFOも、くわしいことはわからないけれど絶対にあり得ない話ではないことがわかって、ぼくはホッとした。
本当のところぼくも、「とはいえ学校行事だし」って、キャンプファイヤーをゴッコ遊びの延長みたいに考えていたからね。
ショボいとか手抜きとかいったら失礼だけれど、小学三年生の林間学校のレクリエーションなんだから、手作り感まんさいのレベルだと決めつけていた。
先生たち、ゴメン……。
「あっ!」
何人かが、上空のUFOっぽいものを見て声を上げた。
蛍光グリーンの輪っかの中心から、同じ色の光の筋がぼくらに降り注いだんだ。
スーパーなんかのレジで、バーコードを読み取る機械ってあるよね?
赤い光が出るやつ。
あれの緑バージョンって感じかな。
まるでぼくらをスキャンしているように感じた。
それから何の前触れもなくUFOの光が消えた。
直後にキャンプファイヤーも消えた。
火が小さくなって次第に消えていったんじゃない。
いまのいままで目の前で燃え盛っていた火が、水をかけたわけでもないのに突然に消えたんだ。
音もなく。
真っ暗だ。全身タイツもいなくなっていた。
いままでずっとキャンプファイヤーを見ていたのに、まるでその記憶だけがスッポリと抜け落ちてしまったような、そんな妙な気分になった。
石原先生が、ようやく我に返ったように懐中電灯をかかげていう。
「はい、キャンプファイヤーは終了です。次は肝試しなので、班ごとで順番に担任の先生の前に並んでください」
みんなは先生たちの持つ懐中電灯の明かりだけを頼りに、ザワザワしながら動き始めた。
「何だったの、今の?」
「さぁ……」
「キャンプファイヤーって、あれで終わり?」
「ボーイスカウトでやったのとちがった」
「ウチも、お兄ちゃんから聞いてたのと全然ちがう」
そうなんだ。
ぼくも林間学校のしおりを読んだときは、もう少し儀式みたいなのを想像していたんだよね。
火の神様にいのりをささげる……みたいなセリフがあった気がしたんだ。
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