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6.ついに起こった最悪の展開
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「ドク、もっと神かくしの話聞かせてよ」
「いいとも。そうだなぁ――」
ぼくはというと、こういうネタが大好きなんだよね!
おばあちゃん家に遊びに行くと、必ず怖い話をしてもらうくらい、目がないんだ。
ドクの落ち着いた声を聞きながら、少し高い位置にある窓の外をながめる。
月が見えれば良かったけれど、ここからじゃ無理みたいだ。
真っ暗の空をバックに、かすかに木の影が見えるだけ。
窓の下は全部フスマつき物入れ――地袋だ。なにが入っているのか気になって開けてみようと手を伸ばしたとき。
「お、おい。開けるのか?」
ケンがぼくのシャツを引っ張った。
「いや、中身が気になるじゃん?」
「オレは気にならない、全然。だからやめようぜ」
ケンの声には、うむをいわせない迫力があった。
ぼくとしても、絶対見てみたいというほど強い気持ちはなかったから、ここは引き下がることにする。
「わかった、やめとく。でも、なんでそんなに嫌なの?」
べつにそれほど問い詰めるわけじゃなく、どちらかというと茶化すように聞いたんだけれど、ケンは深刻な顔で黙りこんじゃった。
あれ、もしかしてマズいこと聞いた?
少ししてからケンは「笑うなよ」と念を押してからゆっくりこういった。
「スキマがダメなんだ」
ぼくとドクは意味がわからず、首をかしげてしまう。
「あのフスマみたいなヤツ、開けると絶対スキマができるだろ? 中に明かりなんかついているわけないから、真っ黒なスキマだ。そこにもし、こっちを見ている目があったらと思うと……オレ、怖くてしかたがないんだよ」
頭の中でケンがいうとおりの情景を思いうかべてみると……うん、たしかにメチャクチャ怖いな!
「なるほど、ちょっとわかるような気がする」
「うん、ボクも……」
しばらくぼくらは、うつぶせで目の前の地袋を見つめていた。
今ならわかる気がする、お母さんがしょっちゅう「ドアは開けたら閉める!」って怒るのは、スキマが怖かったんじゃないかな?
ぼくは身をもってその怖さを実感したから、家に帰ったらマジメにドアを閉めるようにしよう。
「怖いというか、ヘンというか……」
ボソッとドクがつぶやきだした。
急にビックリするじゃん!
「どうも納得できないんだけどさぁ、バスが煙に包まれたとき、車内からは外にいるケンの姿が見えなくなったよね」
「うん、完全に見えなくなってあせったよ」
「先生が手をつかんでくれていたからセーフだったな」
ぼくが朝のできごとを思い出している横で、ケンもうなずいた。
するとドクは声のトーンをさらに落としてこう続けたんだ。
「それなのに、道路を走って戻ってきた運転手さんとガイドさんの姿、なんで車内から見えたんだろうねぇ?」
べつだん怖い話でもないはずなのに、ぼくは背中がゾクリとした。
たしかにハッキリ見えたのを覚えている。
運転手さんとガイドさんがあわてた様子で霧の中を走って戻ってくるところを。
「まだあるよ。キャンプファイヤーであらわれたUFOみたいな光」
「あれはプロ……プロなんとかだったんだよね?」
ぼくは、まるで念を押すような聞き方をしてしまった。
そうであってほしかったんだ。
いまさら実は別の、もっと不気味なことが起きていたなんて知りたくなかったから。
「プロジェクションマッピングといったのは、サツキたちを怖がらせたくなかったからだよ。だって、あり得ないんだ。プロジェクションマッピングは、光を投影する装置が必要だからねぇ」
「そんな……でも……」
「あの場所に、それらしき装置はなかったよ。キャンプファイヤー用に組み上げた薪だけだった」
ぼくが否定しようとしても、事実は変わらなかったようだ。
なにか、あり得ないことが起きている。今改めて考えると、ハイキングに行ったときの異常なほど青かった空も、キャンプファイヤーや肝試しでほかの組の生徒が異様に静かだったのも、風呂で全然体が温まらなかったのも、あの異様な形の鳥居も、すべてかおかしいんじゃないかと思えてきた。
「それにさぁ」
「ま、待て」
ドクの言葉を、切羽詰まった様子のケンがさえぎった。
暗くてよく見えないけれど、表情が引きつっている。
「ケン、どうしたんだよ?」
「あれ見ろよ……なんなんだ?」
震える指先をたどった先にあるのは、例の地袋だった。
でも見た瞬間、ぼくも思わず大きな声を出しそうになった。
それをガマンしてみんなの安眠を守り、先生の襲撃を防いだのをほめてほしいくらいだよ。
というのも、地袋のフスマがさっきよりもわずかに開いていて、スキマから煙のようなものが吐き出されていたんだ。
どこかで見たことがあるような……なんて考えている間に、煙は少しずつタタミの上にたまっていった。
「これって、昼間の煙だよね? ぼくらのバスを包みこんだ、あの……」
「で、でも……なんであの煙がこんなところにでてくるんだよ?」
「そんなの、ぼくにわかるわけないよ」
濃さといい、ぼったりと重そうな感じといい、間違いない。
あの煙だ。
でも、なぜここに?
まさか、ぼくらを追いかけてきたってわけ?
「もうハッキリしたね。ここは異常だよ。あり得ないことが起こりすぎる」
ドクは体を起こし、後ろのフスマを指さして見せた。
「ついさっきもそうだよ。廊下に面しているのは全面フスマだよね。中からも外からも、お互いを見ることはできないはず。それなのになんで先生は、女子部屋の中でスマホを使ったのがわかったんだと思う? おかしいよねぇ」
「いいとも。そうだなぁ――」
ぼくはというと、こういうネタが大好きなんだよね!
おばあちゃん家に遊びに行くと、必ず怖い話をしてもらうくらい、目がないんだ。
ドクの落ち着いた声を聞きながら、少し高い位置にある窓の外をながめる。
月が見えれば良かったけれど、ここからじゃ無理みたいだ。
真っ暗の空をバックに、かすかに木の影が見えるだけ。
窓の下は全部フスマつき物入れ――地袋だ。なにが入っているのか気になって開けてみようと手を伸ばしたとき。
「お、おい。開けるのか?」
ケンがぼくのシャツを引っ張った。
「いや、中身が気になるじゃん?」
「オレは気にならない、全然。だからやめようぜ」
ケンの声には、うむをいわせない迫力があった。
ぼくとしても、絶対見てみたいというほど強い気持ちはなかったから、ここは引き下がることにする。
「わかった、やめとく。でも、なんでそんなに嫌なの?」
べつにそれほど問い詰めるわけじゃなく、どちらかというと茶化すように聞いたんだけれど、ケンは深刻な顔で黙りこんじゃった。
あれ、もしかしてマズいこと聞いた?
少ししてからケンは「笑うなよ」と念を押してからゆっくりこういった。
「スキマがダメなんだ」
ぼくとドクは意味がわからず、首をかしげてしまう。
「あのフスマみたいなヤツ、開けると絶対スキマができるだろ? 中に明かりなんかついているわけないから、真っ黒なスキマだ。そこにもし、こっちを見ている目があったらと思うと……オレ、怖くてしかたがないんだよ」
頭の中でケンがいうとおりの情景を思いうかべてみると……うん、たしかにメチャクチャ怖いな!
「なるほど、ちょっとわかるような気がする」
「うん、ボクも……」
しばらくぼくらは、うつぶせで目の前の地袋を見つめていた。
今ならわかる気がする、お母さんがしょっちゅう「ドアは開けたら閉める!」って怒るのは、スキマが怖かったんじゃないかな?
ぼくは身をもってその怖さを実感したから、家に帰ったらマジメにドアを閉めるようにしよう。
「怖いというか、ヘンというか……」
ボソッとドクがつぶやきだした。
急にビックリするじゃん!
「どうも納得できないんだけどさぁ、バスが煙に包まれたとき、車内からは外にいるケンの姿が見えなくなったよね」
「うん、完全に見えなくなってあせったよ」
「先生が手をつかんでくれていたからセーフだったな」
ぼくが朝のできごとを思い出している横で、ケンもうなずいた。
するとドクは声のトーンをさらに落としてこう続けたんだ。
「それなのに、道路を走って戻ってきた運転手さんとガイドさんの姿、なんで車内から見えたんだろうねぇ?」
べつだん怖い話でもないはずなのに、ぼくは背中がゾクリとした。
たしかにハッキリ見えたのを覚えている。
運転手さんとガイドさんがあわてた様子で霧の中を走って戻ってくるところを。
「まだあるよ。キャンプファイヤーであらわれたUFOみたいな光」
「あれはプロ……プロなんとかだったんだよね?」
ぼくは、まるで念を押すような聞き方をしてしまった。
そうであってほしかったんだ。
いまさら実は別の、もっと不気味なことが起きていたなんて知りたくなかったから。
「プロジェクションマッピングといったのは、サツキたちを怖がらせたくなかったからだよ。だって、あり得ないんだ。プロジェクションマッピングは、光を投影する装置が必要だからねぇ」
「そんな……でも……」
「あの場所に、それらしき装置はなかったよ。キャンプファイヤー用に組み上げた薪だけだった」
ぼくが否定しようとしても、事実は変わらなかったようだ。
なにか、あり得ないことが起きている。今改めて考えると、ハイキングに行ったときの異常なほど青かった空も、キャンプファイヤーや肝試しでほかの組の生徒が異様に静かだったのも、風呂で全然体が温まらなかったのも、あの異様な形の鳥居も、すべてかおかしいんじゃないかと思えてきた。
「それにさぁ」
「ま、待て」
ドクの言葉を、切羽詰まった様子のケンがさえぎった。
暗くてよく見えないけれど、表情が引きつっている。
「ケン、どうしたんだよ?」
「あれ見ろよ……なんなんだ?」
震える指先をたどった先にあるのは、例の地袋だった。
でも見た瞬間、ぼくも思わず大きな声を出しそうになった。
それをガマンしてみんなの安眠を守り、先生の襲撃を防いだのをほめてほしいくらいだよ。
というのも、地袋のフスマがさっきよりもわずかに開いていて、スキマから煙のようなものが吐き出されていたんだ。
どこかで見たことがあるような……なんて考えている間に、煙は少しずつタタミの上にたまっていった。
「これって、昼間の煙だよね? ぼくらのバスを包みこんだ、あの……」
「で、でも……なんであの煙がこんなところにでてくるんだよ?」
「そんなの、ぼくにわかるわけないよ」
濃さといい、ぼったりと重そうな感じといい、間違いない。
あの煙だ。
でも、なぜここに?
まさか、ぼくらを追いかけてきたってわけ?
「もうハッキリしたね。ここは異常だよ。あり得ないことが起こりすぎる」
ドクは体を起こし、後ろのフスマを指さして見せた。
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