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2章. 悠馬

machi.27

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「ユーマ、何見てるの~?」

ニューヨークに来てから、2年が過ぎようとしていた。
英会話、ボイストレー二ング、楽器の練習、曲作り、アーティストのバック演奏、イベント回り、音楽関係者への挨拶、…
マークは、育てたいと思う人材を集めて、養成スクールを経営していた。

バンドデビューを目指すのは俺を入れて8人。
出かける時は4人ずつ、組み合わせを変えて行く。
俺はベースのルーカスと気が合う。

「何もないじゃん。また物思いか~?」

スクールのあるビルから、外を眺めるのが習慣になっていた。

ゆいからの連絡はない。
俺に連絡するような事態にはならなかったということで、
それは多分、安堵すべきことなのだろうけれど、…

「相当好きなんだな」

ルーカスが俺の隣に並ぶ。

俺は携帯電話の番号を変えられない。
ゆいからかかってくることはないとわかっていても、
いつも、今も、もしかしたら、と思っている。

俺の曲は、詩もメロディーもどこかにゆいが入っていて、
バンドのメンバーたちにはそれが筒抜けのようだ。

ゆいの涙が、俺の音を変えたから。

「俺もなー…」

ルーカスは、染谷の娘でモデルをしているリナに夢中だ。
マークがリナの世話も引き受けているようで、
時々、俺たちと一緒になる。

「ユーマに渡したくないよ…」

リナは、俺にあからさまな好意を向けてくる。
はっきり断ったし、俺に好きな人がいると知っているが、
気にする様子は全くない。

「取らねーよ」

俺が言うと、ルーカスは情けない笑みを浮かべる。
それなりに、知り合う女もいるけれど、
なんとなく、ゆいが泣いている気がして、俺は真面目に付き合えない。

「今度、日本の音楽フェスティバル。ユーマ、行くんだろ?」

「絶対行く」

日本で行われる大規模な音楽フェスティバルに出演が決まって、
俺を含めたメンバー4人が行くことになっていた。
2年ぶりの日本だ。
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