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2章. 悠馬

machi.32

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ゆいは、状況を理解出来ずに動揺していたようだが、俺を認めるとおとなしくなった。
俺に会うの、嫌そうじゃないのに。

「なんで、かけて来ないんだよ?」
きょとんとしているゆいが可愛くて悔しい。俺がどんだけ待ったと思ってるんだ。

「携帯! 必ず連絡させるとか言って、全然かかってこないし! あん時といい、今度といい、なんで…! …会いたかったのは、俺だけかよ」

…いや。
俺はこんなことを言うためにゆいを連れ去った訳じゃない。

俺を見るゆいの目が、笑みを含んでいる気がする。
まぁ、呆れられて当然か。

人目の少ない公園の駐車場に車を停めた。

ゆいに飲み物を買うと、ゆいが代金を払おうとする。

馬鹿。

わがままな俺に強引に連れてこられて、なんで律儀に財布を出すんだ。
変わらない。愛しすぎて切なくなる。

俺がゆいにあげられるものは、多分もう、歌しかないだろう。
俺の歌を聴いて、泣いていたゆいに。

発売予定のCDを渡す。

やっと会えたゆいに、
言いたいことも聞きたいこともたくさんあるはずだった。

でも、本当に知りたいのは、一つだけかもしれない。

「ゆい、今、幸せ?」

ゆいの瞳が揺れる。
ゆいが俺を見ている。俺だけを見ている。

たまらない気がした。
幸せだと言われても、幸せじゃないと言われても、たまらない。
ゆいが答える前に、ゆいの唇をふさいだ。
強引に。乱暴に。

どこまでもゆいを追いかけて
絡めとった。
ゆいが俺でいっぱいになればいいのに。
ゆいの呼吸も、ゆいの思考も、
何もかも奪いたい。

もし。ほんの少しでも。
幸せじゃないなら。
このまま逃げようか。
俺は、ゆいが居ればそれでいい。
もう、ゆいしかいらない。

ゆいの甘い唇が、蕩ける舌が、熱い吐息が、俺を惑わす。
ゆいが欲しい。
裁かれなければいけないのなら、
俺だけが罪を背負うから。

キスをやめられなかった。
ゆいが苦しそうに喘いでも、離せなかった。
吐息も涙も、全部欲しい。
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