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3章. ゆい

machi.43

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好奇の視線は続いた。
1週間もすると、だんだん感覚が麻痺してきた。
翔が、またあまり話さなくなった。

着ている服、持っているバック、入ったお店、買ったもの、何気ない会話…

日常の些細なことを全て見られているのは、
こんなにも神経をすり減らすものなのだと身に沁みた。

悠馬も、有名人になって、視線に疲れていたりするのかな。
ほんの少しだけ、悠馬を分かったような気になった。

しらかばハイツに戻ると、

『疫病神』『消えろ』

郵便物が荒らされていたり、落書きがあったり、ごみが投げ込まれていたりした。
部屋の窓は割られて、小石が転がっていた。

どうして…

くじけそうになる。

割れた窓ガラスの修理代を稜さんに借りた。

惨めで…

「このまま、俺のところにずっと居たら」

俺は願ったり叶ったりだな、とわざと明るく笑う稜さんに、
甘えるだけの非力な自分が、情けなくて悔しい。

私の罪は、許されないのかな…

夜、呼び出しがあって稜さんが行ってしまった後、翔も寝てしまい、部屋で1人になった。
洗濯や掃除など、できることを一通り終えると、夜景がきれいなマンションは、やけに静けさが身に沁みた。

悠馬…

私は、どうすれば良かったのかな。

悠馬に会って、悠馬を好きになって…
何を間違えたのかな。

でも、もしも。

もしも、あの日をやり直せたとしても、私は同じ選択をするだろう。

悠馬に会って、悠馬の声を聴いたら、やっぱり好きになってしまうだろう。

何度やり直しても、好きになってしまう。
それが間違いなら、きっと私は何度も間違う。

…悠馬が好き。

涙がにじむ。



玄関のドアノブが、回る音がした。
稜さんが帰ってきたようだ。

急いで涙を拭いて立ち上がると、

「ゆいっ!」

慌ただしい足音と共にリビングのドアが乱暴に開き、

「なんで、…お前…!!」

苦しいくらい強く強く抱きしめられた。

私は神経が麻痺しておかしくなったのかもしれない。

悠馬に見える。

悠馬が私を全力で抱きしめているように感じる…
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