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番外編. 稜

04.

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ああ。そっちか。

翔を見ると、目を開けたままじっとしていた。

「起きたか」

俺がのぞき込むと、かすかに首を動かした。

額に触れると、熱は上がっていないようで、顔色もいい。
ひとまず、安心だな。

「何か、飲むか。ちょっと待ってろ」

お茶でも買うかと腰を上げると、看護師がいそいそとついてくる。

「先生、お優しいんですね。患者さん、ですよね」

妙に媚びた目で俺を見てくる。
完璧に整えられた化粧。艶めく唇。

…げんなりする。

俺の周りは上辺に惹かれて寄ってくる奴らばかりで、そいつらを適当に食い散らしていた自分を映し出されているようで。

「毛布、ありがとう。俺はもう戻るから、君も戻って」

「あ、…っ、結城先生っ」

看護師を振り切って、自販機に向かう。

ゆい。

俺は汚れた人間だけど、それでもお前のそばに行きたい。
絶対に、泣かせるようなことはしないから。


昼はマンションに翔を連れ帰り、パンケーキを作ってみた。

翔は少食だか、可愛らしい仕草で完食してくれた。

ゆいにメールする。

翔の具合は心配いらない。

そんな事務的なメールなのに、俺は微笑んでいたらしい。
目があった翔に微笑み返された。

…見透かされてる、どころじゃねえな。

「翔」

翔を膝に抱く。

「俺に、お前を手伝わせてくれないか。お前のお母さんを守りたいんだ」

3歳児に真剣に頼んだ。

小さな翔は温かくて柔らかくて、何も言わずに口元に笑みをたたえていた。

病院の庭を散歩したり、お昼寝したり、保育室のおもちゃを借りて遊んだりするうちに、ゆいの勤務が終わる時間になった。

車で翔とゆいを待つ。

もうすぐ、ゆいが俺のところにやってくる。そう思うとくすぐったい気持ちになる。

上機嫌で待つ俺に、だけど、ゆいは、お金の入った封筒を突きつけた。
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